Sideルシエラ テオドール少年には犠牲となっていただきましょう
動揺するテオドール少年を見据えながら思案する。
幽霊自体がどういうものなのかもよくわかってはいませんが、以前セビーチェン先生が授業の際、
「卒業後にこっち方面の研究者になろうって奴がいたら忠告しておくが、怪談が苦手なら諦めた方が良いぞー。分野によって幽霊とか扱うことがある」
ということを仰ったことがありました。どういう関係で幽霊について扱うことになるかまでは、面倒くさかったのかその時は説明なさいませんでした。ですが幽霊は魔法学的に扱う内容なら、テオドール少年もまたジャック様の興味をひく存在のはず。交渉材料になるかもしれません。
「……さて、そうなるとまずはジャック様と接触を図らなければなりませんが、ただでさえ出席率が悪いのに休暇とあっては居所が掴めません!どうしましょうか!」
「僕の不安には答えてくれないんだ……まぁいいや。じゃあ、そのジャックが入り浸ってるって噂に聞く研究所はどうなの?」
「学園に併設されている王立魔法学研究所のことですね!あちらもなかなか広いですし好きに出入りできるわけでもないので、せめてもう少し特定したいところです」
「セビーチェン先生ならなにか知ってるのかな?先生なんだし」
「なぜ王族すら呼び捨てにしているのに先生には敬称を……それはともかく、私もその意見には同意します。行ってみましょうか!魔法学資料室へ」
ジャック様の居所についてだけでなく、テオドール少年と先生の繋がりについても聞きたいですしね。
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「…………で、二人して押し掛けに来たと」
「そういうことだね」
「だとすると、あいつはなんであんな所にいるんだ」
先生が一人資料室の扉に背中を付けたままの私をみてそう言いました。
「テオドールは先生にお任せできそうなので……ちょっと距離を取ろうと」
「その様子じゃ結構怖いのを我慢してたんだね。どうする?やっぱりコンビ解消してルシエラはなにも知らなかったことにするっていうのは」
「それは嫌です!大体話を持ちかけてきたのはあなたでしょう!」
「そういうところはシャルロットに似ているんだな。ルシエラ・アイトーンよ」
シャルロット様に似ていると言われるのは嬉しいですが、そう言う先生の顔はとても複雑な表情をしていらっしゃいます。なにかあったのでしょうか……?
「ジャックのことを話す前に、一旦テオドールを借りるぞ。ちょっと来い」
「?」
なにか私に話せない相談事でしょうか。部外者の自覚はあるので無理に聞こうとは思いませんが、少し気になります。
「(お前、どこまで話したんだよ)」
「(ルシエラたちが探してた変な奴の正体は伝えたけど、先生がプラシドのボスってのは話してないよ)」
「(ならまだいいけどな……)」
テオドールが生きた人間と関わるようになったのは私たちと出会ってからのはず。先生といつの間に親しくなったのでしょうか?
「気になっていたのですが、テオドールと先生のご関係は……?そのお人形も先生の助言によるものと聞きましたし!」
「えっ!?ああ、プラシドがこいつを俺のとこに連れてきたんだよ。このガキを何かの調査に協力させるから、幽霊について俺の魔法学の知見を借りたいとかなんとかな」
「それっぽいこと言っちゃって…………」
「なんか言ったか?テオドール」
「なんにも」
なるほど。そういう経緯があったのであれば納得です。噂ではセビーチェン先生もかつて憲兵であったそうなので、プラシドさんが先生をご存知なのも頷けます。
「ちなみに、プラシドさんがなにを調べていらっしゃるのか、先生はご存知なのですか?シャルロット様がそれに参加していることも」
「知らん知らん。俺も今は一介の教師に過ぎんからな…………で、ジャックのことだが」
そうでした、今回先生を訪ねた理由は神出鬼没のジャック様の居所を把握するためなのでした。
「あいつが師事してる研究者なら知っている。授業もないし多分そっちに入り浸ってるんじゃないか?」
「本当ですか!?その方を紹介していただくことって……」
「まぁいいが、一体なにするつもりなんだよ」
「…………それについては、いろいろ確証が持てたら話します」
シャルロット様の様子がおかしい、などという話を軽々しく他者に伝えるわけにはいきません。例えそれが相手が信頼のおける教師であっても。
他ならぬ私自身が、この違和感が杞憂であってほしいと思っているのですから。
「言っておくが研究者の方を紹介するだけだからな。後の事は知らん。とりあえずこっちで話つけといてやるから後は任せろ」
「それで構いません!本当にありがとうございます!行きましょうテオドール!」
とりあえず任せろと言った先生を信じることにしましょう。目的も告げていないにも関わらず協力していただいて、本当に頭が上がりません。
魔法学研究所……学園に併設されているとはいえ、行くのは初めてです。果たしてどのような魔境なのか…………
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「……まったく、まーた面倒なことになったよ。シャルロットの記憶喪失の件、ルシエラに勘づかれているんじゃないのか?」
ルシエラたちが去っていった後の扉を見つめながら呟く。
本来立場的には隠すために立ち回るべきだろうが、こっちはもう猫の手も借りたい気分なのだから仕方がない。やってることはシャルロットよりよっぽどマシなわけだしな。
あいつも尊敬する相手に異変があって、なにもしないでいられる人間でもなかろうし……。
「…………あ、やべっ、紹介するあいつに今事件の遺留品の一部を調べてもらってるんだったわ。釘刺しとくっきゃないか……あいつ言うこと聞くかな…………?」




