郷愁の念が強襲してくる
「これなんて美味しそうじゃない?」
「マカロンですか!ここの味は保証しますが、日持ちが悪いのでお土産には向かないかと!」
意気揚々とお土産探しを始めた私たちは、ルシエラ馴染みの洋菓子店を巡っていた……が、今ルシエラが言ったような理由でなかなか決まらない。自称女神曰くファンタジー世界とはいえ見た目よりは技術力があるとのことだが、それでも生菓子を長時間移動させるのは厳しいそうだ。
「保存のことを考えると、この店ではクッキーぐらいしか選択肢がないのでは?」
「まぁそうなのでしょうが、かといって折角のお土産にそれは面白味に欠けますわね……」
ちゃんと了承を得ているとはいえ、シャルロットさんのポケットマネーで買うのだ。後悔するような買い物はしたくない。
とりあえずこのお店で買うことはなさそうだ。美味しそうなのは間違いないし、個人的に食べる機会があるといいなーと思いつつ店を出ることにした。
「なかなか決まりませんね!他の皆様が普段どうしているか、調べておくべきでした!」
「別段用意しない生徒の方が多いとは思いますよ。僕も学生時代そうだったので」
「まぁそうでしょうね。ははは……」
今回お土産を買おうなんて言い出したのは単に自分が食べたいのと、端から見ればただの里帰りでも私からすれば人様の家にお世話になるわけだから……だなんて言える筈もなく。
既にこちら側に来てしばらくお世話になっていたけれども。
「………………シャルロット様シャルロット様!」
「なに、どうしたのルシエラ」
「どこからか素敵な香りがしませんか?」
確かに、言われてみれば甘い香りがするような……これを素敵な香りと表現するということは、ルシエラは甘党なのかな?
しかしこれは……………………………………
まさかとは思うが、あんこの匂い?
「もしかして、あれではないですか?」
プラシドさんが示した方にあったのは、店先の鉄板でなにかを焼く人の姿。そしてその手もとで焼かれているのは……!
「にっ、二重焼きだぁぁ…………!」
名前を呼ぼうとすれば必ず論争が起きるということで有名な、屋台の定番お菓子がそこにあった。
「「???」」
おや、この反応からすると二人は存在を知らないのか。私も世界観的にこの国で見ることになるとは思っていなかったから無理もない。
郷愁にかられる心を抑えつつ、一人露店に駆け寄る。
「ちょっとすみません!そちらの品物は……!」
「お、嬢ちゃんこいつが気になるかい。なかなかいいセンスしてるねぇ!こいつぁ大判焼きっつう菓子だ!物珍しいもんだからなかなか売れねぇが、旨いぜ」
あ、この人は大判焼きと呼んでいる。ということは、翻訳担当は大判焼き派か。
「シャルロット様、こちらの菓子はなんでしょう?」
「二重や……大判焼きよ。甘く煮た豆を小麦粉の生地で挟んで円く焼いたお菓子と言えばいいかしら……」
「なんでぇ、嬢ちゃん知ってんのかい。こいつぁつい最近、海の向こう……東方からの品を扱ってる商人からその豆……小豆だかをレシピ付きで売り付けられてな。試しにこうして売りに出してみてるんだが、まさかこいつを知る奴が見つかるたぁな!ほら買ってけ買ってけ、ここまできて食わねぇなんてこたぁないだろ」
「そうですわね。三つ分お願いします!」
「もしかして僕の分もですか?駄目ですって。職務中にシャルロット嬢の財布から個人的になにかをいただくなんて、いろいろ問題……」
話を遮り、ルシエラに聞かれないよう、人の厚意に水を差すことを言うプラシドさんを引き寄せる。
「(この状況でプラシドさんの分を買わない方が不自然でしょう。お忍びなのですから端から護衛だと思われないようにしないと)」
「(まぁその意図は理解できますけど)」
「(大丈夫ですわ。バレなきゃ犯罪じゃないもの)」
「(なんてこと言うんですかシャルロット嬢。流石に犯罪でもなんでもないですし)」
コソコソ話している間に焼き上がった二重焼きを、一応受け入れたらしいプラシドさんとルシエラに配り実食。
「あら!美味しいですねシャルロット様!」
「確かに、これはさっきのシャルロット嬢の興奮も理解できますよ。ただお茶の用意がある時に食べたかったですね」
それは確かにそうかも。とはいえ、私も久しぶりに食べられて非常に満足だ。二重焼きが特別好きなのかと聞かれると若干怪しいが、生前は初詣のついでに屋台でよく食べたりしていたし間違いなくお気に入りだ。
「ただこちら、シャルロット様のお土産という観点では向かなそうですよね!焼き菓子とはいえ」
「柔らかいし、熱々で食べてこそのお菓子だものね…………」
懐かしさのあまりこの買い物の趣旨を忘れかけていたが、ルシエラの言う通りだ。結局また他のところを巡らないといけないのかな……。
「なんだあんたら、土産の品を探してんのか」
「はへ?あっ、そうですわ。実家で配る用に」
「なーるほどな…………実はこうして大判焼きを売ってんのはな、メインの小豆を売るための客寄せなのさ。小豆の方の在庫もたーんとある」
「それって売れてないということでは!」
「こらっ、本当のことを言うんじゃない。まぁこの国じゃ滅多に見ねぇ輸入品だし無理ねぇけどよ。だからこーして地道に認知を広げようとしてんだ。で提案だが、小豆買ってかねぇか?」
「完成品でなく原料をということですか?」
「見たところいいとこの嬢ちゃんだろ?その実家にゃ料理人の一人や二人いるんじゃねぇのかい」
それは間違いないだろう。実家で食べたご飯は美味しかったし。
「あんこのレシピつけといてやるから、帰ったら作ってもらえばいい。どうよこの提案!」
初対面の相手になんと至れり尽くせりな提案だろうか。そういう意味での怪しさはあるけれど、とても魅力的だ。
「乗りましたわその提案!買いましょう、その小豆!」




