嵐みたいな女
「……というわけで、買い物に付き合ってほしいのよ」
「ご実家への手土産選びの手伝いを任されるとは光栄です!この不肖ルシエラ、全身全霊で臨みます!」
「とりあえずもう少し肩の力抜きましょうか」
里帰りすることを決めて数日、実家との連絡がついて日取りは決めることができた。なので迎えが来るまでにお土産を探すべく、今回もルシエラの力を頼ることにする。
流石はとりあえず頼っとけ枠と言うべきか、開幕からものすごいやる気である。シャルロットさんは確かにいい人だが、ここまでくると彼女を慕う具体的な理由が気になってくる。
「ところで、我々だけで出歩くわけではありませんよね?シャルロット様は特に立場ある御方ですし、護衛の用意はあるのですか?」
「それなら頼んでおいたから問題ないわ。それに、一目で私だとわかるような姿で出歩くつもりもないしね」
「…………ああ、なるほど!あれがありましたか!」
そう、当日はいつかの大人し文学少女モードで外出するつもりなのである。
芸は身を助くというか、その時のためだけに身につけた一芸がその後に意外なタイミングで役立ってくれるのはなかなか感慨深いものがある。服もお忍びで外出する用の物が何着かあると御本人様から聞いているし、そうそうシャルロット・ド・フランベルジュだとは思われないだろう。
「しかし手土産というとなにが相応しいのでしょうね!お店の当てはありますが、やはり何か物珍しいものの方が良いのでしょうか!」
「あまりに奇をてらってお父様方の口に合わないものを用意してしまうとなるのも怖いけれど…………あたっ!?」
「シャルロット様!?」
急に背中に衝撃を感じ、転びかけたところをルシエラに支えられて踏みとどまった。この感じは誰かにぶつかられたらしいが、廊下で立ち止まって談笑していた私にぶつかるなんて、一体どこのうっかりさんだ……?
「あら、失礼。余裕のない筈の身の上ながらこんなところで呑気に談笑しているとは思わず、まったくもって気が付きませんでしたわ」
前言撤回、うっかりさんでもなんでもないな。多分わざとだこいつ。
振り返ってぶつかってきた人間に向き合ってみると、そこにいたのはツリ目の縦ロール美人。見覚えはないが、こうあからさまな悪意を見せてくるということは例の噂に絡んだ人間か?
「わたくしに対して随分酷いもの言いね。えーっと、確かあなたは……」
「リゼット様ですね。しかしぶつかってきた側の態度とは思えませんが」
ルシエラの声から明るさが消えている……私にはプラスの感情しか向けないから知らなかったが、こんなに嫌悪感を隠さない子だったのか……まぁ、実際過失の割合は10:0で向こうに非があるだろうし、正しい感覚ではあるだろう。私は怒りよりも呆れた感情が勝っているが。
というかリゼットというと、噂に絡むどころかそもそもの出所であるとの疑惑のある生徒だったか?
「ここ最近の彼女の醜態を見ていれば無理もないでしょう?ボロが出始めたということでしょうが……まぁ、あなたのような人は立場を弁えた生活を送ることをおすすめするわ」
「いやだから何でぶつかった側がそんな偉そうな……………………あ、ちょっとリゼット!?」
偉そうな態度をとっているの?そう言いきる前にリゼットは私たちに背を向けて去っていく。急に接触を図ってこられたと思ったら、言いたいだけ言って立ち去る。嵐のような女だ。
なるほど、性格が悪いと聞いていた通りの人となりかもしれない。確かにあんな感じなら噂の発端との疑惑を持たれるだろうし、私に向けてあんな陰口を言われるようになったのも納得だ。
あんなに敵意を向けられる理由もいまいちよくわからないけれど。弱った相手に勝ち誇りたいだけなのかな?
「…………なんのつもりかわからないけれど、軽いジョブを打ちに来た、そんなところかしら」
「おそらくジャブのことですね!私も同意見です!全く、公爵令嬢ともあろう御方が子供の喧嘩のような真似を……」
ああそうだ、ジョブじゃなくてジャブだ。ジョブじゃ仕事だよ。天国謹製言語チートはこんなところまで対応しているのか……。
「成績については何の申し開きも出来ないけれど、あんなふうに言われる謂れはないわよね。キャラ被ってるし」
「口調以外は似ても似つかないと思いますよ!あの性悪とシャルロット様では!」
太陽少女とシャルロットさんに評されたルシエラに性悪呼ばわりとは相当だな。私が来る前の彼女の過去が気になってくる。
……しかし、品行方正で真っ当にいい人なシャルロットさんに対して、妙に味方が少ない気がする。なんなら敵が多そうだ。
これは誘拐事件以外にも、なんとかしないといけないことがあるかもしれないな…………。




