同族を確保せよ!
目の前の半透明くんを逃すまいと始めた鬼ごっこ。勢いのままにスタートしたせいで唯一の灯りをプラシドさんが持っていることを失念していたが、それでもやりようはある。なんといっても私には、自称女神から託された文明の利器があるのだから。
見失わないように全速力で駆けながらガラケーを取り出す。念のため学園内にも持ち込みはするようにしていて良かった。
ガラケーの灯りを頼りに進みながら、慣れた手付きで電話帳を開き発信する。
「…………えー、ただいま電話に出ることができません、ピーっという発信音の後に、お名前とご用件を……」
「ふざけてないでさっさと出るっす!緊急事態っすよ自称女神様!」
「バレましたか……して、状況は?」
「かくかくしかじかっす!オーバー!!」
「夜の学校でお化けを追ってる?なるほど、また厄介なことになりましたね!」
ここしばらく話していなかったのに、この説明とも言えない説明で理解してくれるんだから流石は自称女神である。人の心の内は読めないとか嘘なんじゃないか?
「とりあえずあの半透明くんを足止めしたいっす。何かしら生身でもやれることはないっすか?」
「任せてください、こんなこともあろうかと裏ワザを押さえておきました!蜂須賀さん、対象を防御壁で囲ってください!」
「囲うんすね?とりあえずわかったっす!」
「良い成果を期待していますよ!それでは!」
さて、対処法は理解した。幽霊時代は普通に壁とかすり抜けられたのであんな防御壁で捕らえておけるのかは正直疑問があるが、物は試し。
「はぁっ……はぁっ…、さすがにこの辺で確保しないと…………!」
ここ何年も生身で激しい運動をしていなかったのもあって、そろそろ身体が辛くなってきた。元ソフトボール部員としてはシャルロットさんの身体もなかなか体力のある方だと感じるが、限界が近い。
この距離感では魔法で足止めも厳しいし、一か八かあれで一気に距離を詰めて、一撃で仕留めるしかないか。机上の空論レベルで頭にいれていたものの、学園内で試せる場がなく放置していた技をここで使おう!
「ハチスカ☆スカイブースターっっ!」
「わっ、えっ、なんか来た!?」
いつかのハチスカ☆スカイウォークの要領で空中に壁を作り、それを押し出しながら蹴って前に飛び込む……そして防御壁で退路を断つ!
「あれ!?なんか進めないんだけど!?」
あとは囲い込んで逃げ道を完全に塞いで終わり……!
「ちょっと!?出せっ、出せーっ!」
「落ち着きなさいって。取って食おうとしようとしてる訳じゃないから」
「……本当に?」
「本当よ。同じ幽霊のよしみで教えてもらいたいことがあるだけ」
「どこからどう見ても生きてるじゃん」
「わたくし……あーもういいや、私もよくわかんないんすけど、余所で幽霊やってたら生きた人間と入れ替わっちゃったみたいなんすよね」
「入れ替わったって……じゃあもしかしてその変な喋り方が素?だとしたら僕に何の用なのさ」
「元に戻るために、近頃学園で起こっている異変について調べてるんすよ。それについていろいろ話を聞きたくて」
「……まあそういう話なら」
よかった、ひとまず協力してくれそうな雰囲気になった。
安心して気が抜けたのもあってか防御壁が解除されてしまったが、半透明くんが逃げる気配もない。
「それで名前は何て言うの?」
「テオドール。テオドール・オフェイレーテス。あんたの名前は?本当ならそっちから名乗るところだよ」
「これは失礼したっすね。私は渚……あ、でも今はシャルロットさんの身体の中っすから、シャルロットと呼んで欲しいっす」
「……シャルロット?どっかで聞いたような「シャルロット嬢ー!無事ですかー!」
「「!?」」
プラシドさんの声!?そうか、勢いで置いてきたけど、追い付いてきたのか。この後は二人も交えてテオドールの話を聞こうと思っていたし、話が早い。
「これから私の仲間と話を聞かせてもらうけど、さっきの私が元幽霊って話は秘密にして欲しいんすよね。お願いできるっすか?」
「しょうがないなあ……別に信じてないけど、協力だけはしてあげるよ」
「そう、ならよろしくお願い…………いたしますわ?」




