アホ毛が逆立つ便利機能でもあれば良いのに
「気を取り直して行きましょうか」
プラシドさんの仕切り直しで、私達は探索をスタートした。深夜の学園は二度目だが、校内となると初めてだ。
頼る灯りはプラシドさんの持つランプのみ。月明かりのある中庭以上に深く暗いこの空間にはどこか懐かしさを覚える。
ゴースト生活始めたて……それも自称女神と会うよりも前の時期は、夜の校舎が怖くてしかたがなかった。さすがに三年も暮らしていれば慣れたし、自称女神が置いていったカードゲームを一人回ししたりして暇を潰せたから今は大して怖くないが。
「執務室はこっちです。はぐれないでくださいね、自分が付いていないと他の守衛にあらぬ疑いをかけられかねないので」
「男女比1:2ではプラシドさんも端から見るとかなり怪しいですわよ」
「両手に花ですね!」
「誰のせいだと思っているんです?」
場数を踏んでいるとはいえ、雑談し合える相手が付いていることほど心強いものはない。呑気に廊下を進みつつ、道中に怪しいところがないか見回す。
個人的に、当然私の事件絡みであってくれた方が進展に繋がりそうで良いのだが、幽霊沙汰であって欲しいという気持ちが強い。同族意識かな?
「あ、目的地はあちらの角を右に曲がったところですよ。何かわかれば良いんですが」
「もし幽霊でしたら、こちらを襲ってきたりするのでしょうか?」
「さすがにそんなことしないわ……多分」
「むしろ人間であったときの方が危険でしょうし、警備側からすれば幽霊であって欲しいぐらいですよ」
「とにかく気を引き締めていきましょおおっと!?」
「「!?」」
なんだ!?今滅茶苦茶背筋がゾクゾクした!
「どっ、どうかなさいましたかシャルロット様!」
「な、何かの気配がこの辺りに…………!」
「何かって、何もいませんが…………」
何もいない……なんてことはないと私の第六感が告げている。悪霊やってて3年間、別に自分以外の幽霊に遭遇したりはしなかった私の感覚なんて当てにならないだろうけれども。
「………………ん?」
暗がりでわかりづらいけれど、うっすら半透明の背中が見えた気がする。あの見た目は…………ここの制服?そして年下ぐらいの男の子か。
「シャルロット嬢、何か見えているんですか?」
「私達は正直いって何もわからない状況なのですが……」
おや、どうやら二人には見えていないらしい。だが説明している暇もないか。
目の前の半透明くんは私達をスルーしてそのまま廊下を進んでいる。ここで逃すと面倒そうだし、いっそ接触してしまうか。
「…………もしもし、そこの少年?」
「わっ!へっ!?だっ、誰もいないよ!」
「「??!!」」
あ、声は聞こえるんだ…………
「もう、どこの誰だか知らないけれど、返事しちゃったら意味ないじゃない」
「なっ、なんでシャルロット様そんな冷静なんですか!?何もないところから声がしましたよ!不審者ですよプラシドさん!」
「いくら自分でも見えない相手はどうしようもないですって!」
「二人とも、そう慌てることは…………」
「「慌てていないあなたが異常です!!」」
ルシエラとプラシドさんがハモった……。しかも後輩ポジションだからか一字一句同じだ。ルシエラに関しては、あんなに強気だったのはどこへいってしまったのだと聞きたい。二人して怯えているんじゃないよ全く。
「よくわかんないけど……今の内に…………!」
「!?あっ、待て半透明くん!逃がしませんわよ!」
私にしか姿は見えないらしい現状、この場で話をつけられないと非常にまずい。あの半透明くんとの接触で事件に進展が出るかはこの際別として、せめて噂の真実は突き止めないとものすごくモヤモヤする。
半透明くんが逃げた方向は漆黒の闇。でも駆け抜けるほかない!
「ちょっと行ってきますわ。あの幽霊を縛り上げて戻ってきます!」
「あっ、ちょっとシャルロット嬢!」




