まだ見ぬライバル枠の名は
「じゃ次の問題だ。今から1900年程前に土着の信仰と魔法の概念が結び付いて今の国教であるジュダイナ教の原型が生まれたが、そこでは人類誕生をどう説明している?」
「…………えーっと、"主は自らの姿を真似て人間を創り、無から有を産み出す魔法を与えるかわりに現世を統べさせた"……でしたか?」
「正解だ。ちゃんと復習してるな」
先生との補習は変わらず続いている。向こうも捜査で忙しいはずだが、ああも啖呵を切った以上は私もシャルロットさん並みの成績まであげていかなければならないし、思う存分頼ることにしている。
ちなみに今は魔法史の宗教関係の範囲。どうもこの国でメジャーなジュダイナ教なる宗教は人類を神に魔法を授けられた特別な存在と定義し、その神を崇めているらしく、その関係でなにかと魔法史に絡みがちなのだとか。
というかただでさえ忙しいOBを操作にも加わらせるの、やっぱりこの国どこかおかしいんじゃないか?そりゃ先生も教師に転職するよ。
「当然ですわ。巷では悪い噂も立っているようですし、払拭するためには努力あるのみですもの」
「お前も大変だよなー。ただでさえ事件に巻き込まれた最中だってのに、陰であれこれ言う奴がいて」
「ご存知だったのですか?」
「ん、まあな。生徒の問題には基本ノータッチがうちの方針だし、わざわざ本人に伝えるもんでもねぇと思ってたんだが、知ってるなら関係ないわな」
生徒の問題にノータッチは教師としてどうなんだとは思うが、それぐらい自力で解決しろということなのだろう。この辺りは私のような日本のいち庶民の常識で図るべきではないかもしれない。
「目に余るようでしたら頼りますが、現状はこちらで何とかして見せますわ。ちなみに噂の出所について何かご存知ですか?」
「知らん。俺も盗み聞いただけで誰が話していたかも知らないしな」
「そうですか……正直な話、わたくしに喧嘩を売る度胸のある方もそういない気がするのですが」
「ま、身分的にはな。覚えてないかもしれんがお前を慕う奴も多いし……心当たりがないではないが。お前リゼットって奴知ってるか?」
「えーっと、リゼット……リゼット…………?」
必死にシャルロットさんから教わった知り合いリストを思い返す。実家で復学の準備をしていた時期に覚えたシャルロットさんの知り合いの中に、そんな名前の令嬢がいたはず……
「ああ!リゼット・ド・モーリアン様のことですわね!性格のよろしくない方だという」
「……ちゃんと覚えていたから感心しそうだったのに、覚え方最悪だな」
リゼット・ド・モーリアン。シャルロットさんの学友の中で、正直あまり関わりたくないなと思った人物である。
シャルロットさんと同じ公爵令嬢。だがその性格は大きく違い、立場相応の責任感も才覚もあるが、高圧的な上シャルロットさんを敵視している節がある……と聞いている。性格が悪いとはシャルロットさんの評だが、まだ会ったことはないもののあの人にそこまで言わせるレベルということで警戒していた相手だ。
「知識として知るのみで鵜呑みにするのもどうかとは思っていますが、そこのところはどうなのでしょうか」
「まあ高圧的なのは間違いないな。性格も…………いや、やめよう。仮にも教師が言うことじゃねぇ」
「何か言おうとして呑み込みましたわね……で、その彼女が何か?」
「考査の順位が出た時奴が2位とかだったんだが、その後お前の順位に目を向けた瞬間我が世の春とばかりに悪い笑顔を見せていてな。お前は元々目の敵にしていた相手だし同格だしで、噂の発端の容疑者第一候補だ。証拠はないし大きな声じゃ言えんがな」
「……まあ確かに、教師の立場では問題のある発言でしょうね。生徒に疑いをかけるなんて」
「とはいえ、ボロだしゃそこにつけこむであろう奴なのは確かだからな。気を付けろよ?記憶喪失の方も未解決なんだから」
「え?あー…………そうですわね」
そう思うと、事件が非公表になったのは学園だけじゃなく公爵家の体裁を保つ意図もあったんじゃないかという気がしてくる。
本当貴族って奴は難儀な連中だな…………。




