やな予感のする時世
レオン確保からそれなりの時間が経った。とはいえ現状さしたる進展もなく、どうにも行動を起こせずにいる。
そう、残念ながらレオンから得た情報はたいして役に立たなかったのだ。押収した私物からも、依頼主とやり取りをしたという酒場からもめぼしい情報は得られなかった。今も先生達は見落としがないかと奔走しているが……正直あいつは何か隠している気がするし、現状ではなにも見つからないのではと思う。
というわけで暇な私は、授業をサボっていたジャックを引っ張り出して模擬戦の真っ最中である。
「ハチスカ☆シューティングG2!」
「当たらないさ!そらぁっ!」
私が放った弾幕をジャックは宙を跳び回りながら避けていく。前回は見なかったが、彼も私で言うところのハチスカ☆スカイウォークが使えるらしい。しかも二段ジャンプしながら方向転換してる。
私が前にそれを試したときは、足場がどうにも安定しなくてできなかった。弾幕の軌道も読まれていたし、流石に魔法研究にのめり込むあまり先生に変人呼ばわりされるだけのことはあるらしい。
「前回ほどすんなりやられてはいただけないようですわね!」
「物珍しさだけで何度も勝てるほど甘くはないさ!それに戦術としてはそこまで複雑ではないからねっ!」
まぁ確かに、死角から不意打ちできるといっても弾幕と防御壁しか手数がないなら無理もないだろう。先生の話を元にすれば、私の強みは相手の意識外から魔法を撃てることだ。けれど現状扱えるのはさっき挙げた2つのみ。しかも遠くの場所で魔力を扱おうとするとすごい集中力を使うので切羽詰まったときとかはあまり使えない。
つまり、弾幕のバリエーションで勝負するしかない!
「ハチスカ☆スピアバレット!」
「うおっと、そうはいかない!」
ジャックの着地の瞬間を狙って弾幕をぶつけようとすると、瞬時にそれを凍らせてこちらに向かって弾き返し──────
「……あ、これまずいな」
残念ながらというか当然というか、ジャックの弾幕の前に見事リベンジされてしまったのであった……
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「いやぁ、これで僕の凄さをわかってもらえたかな?君のそれも手数を増やせば脅威だが……今は僕には及ばないだろうね」
「所詮は急拵えの魔法ですもの。それでも脅威になり得るとの言葉さえ聞ければ満足ですわ」
制服に付いた砂を落としながら答える。反射された弾幕で自分が蜂の巣になる事態は急場で出した防御壁で避けられたが、避けきれず一発だけかすってしまった。
おそらく本来の実力差はこんなものなんだろう。シャルロットさんとは実力が拮抗していたとのことなので、この身体の本調子はまだ出せていないらしい。私の経験不足も大きそうだけど。
「ところで元々使っていた方はまだ出せないのかい?あれからもうだいぶ経ったと思うが」
「ええ。なぜなのでしょうね……」
「正直元の魔法が使えなくなったことも代わりに変な魔法を編み出したこともかなり興味深いからね、よければ知り合いの研究者でも紹介しようか?」
「え、遠慮しておきますわ」
研究者がどんな奴か知らないが、なにされるかわかったもんじゃない。興味本位での提案ならなおさら怖い。
「それならそれで構わないよ。模擬戦ならいつでも歓迎するし。最近はいろいろと物騒だからね」
「物騒……というと?」
「最近はどうも憲兵達が騒がしい……杞憂かもしれないが、やはり心配になるね」
そういえばこんなのでも王族なわけだし、その辺りの動きに敏感なのだろうか。被害が出ずにすんだとはいえ事件自体はかなり大事だっただろうし。
こいつに私の事件についてバレるといろいろ面倒くさそうだけど……
「近頃は学園の中でも深夜に鬼火が出るとか幽霊が出るとか妙な噂も出てくるし、一体何がどうなっているのやら」
「……想像していたものとはだいぶ斜め上の方向の物騒さですわね。まあ気に留めておきますわ」
「そうしたまえ。正直言って君の方が僕より余程立場ある人間なのだし、気を付けるようにしなよ」
「仮にも王子がそのようなことを言うものではないでしょうに……」
渚がこんなネーミングセンスなのは昔イナ○マイ○ブンを見ていたからですが、にしたっていちいち自分の名字をつける理由はわかりません。なんなら本人もわかってないと思います。私もわかんない。




