蠢く影と呑気な人々
「………様、レオンの行方は未だ知れず、どこかに潜伏しているのか、あるいは憲兵の手に落ちたかは不明でございます」
「ふむ、そうか………元々切り捨てる予定だったとはいえ、失敗した挙げ句に大人しく死んでもくれんとは。少々面倒なことになったな…」
あの男を引き込めたのは幸運と思っていた。腕が立ち正義感が強く、綱紀の乱れを正そうとしたために現場から外された男。本来であればあれがこのような計画に手を貸す筈もない………だがあの可愛がっているという姪のためならば話は別だったらしい。
それがこの始末。まったく、とんだ期待外れの男を捕まえたものだ。
「仮に捕らえられていた場合、奴は我々について話すでしょうか?」
「あれが話すことができる情報などたかが知れている。何か知っていたとてあの娘のことを思えば話さんだろう。その点は心配はいらんな。これについては一旦は捨て置いていいだろう」
あの娘を拐うことには失敗したが、あれ自体はあまり重要な意味を持たない。学園内部やフランベルジュの者への手出しがさらに難しくなったであろうことは痛手だが………
………むしろ、我らに忠誠を誓っているわけではないあやつを縛りつけるには丁度良いかも知れんな。あやつの望みなど知ったことではないし、かといって我々を頼る他無いのだ。
シャルロット・ド・フランベルジュについては後回しで構わない。順調に事が進めば、あの家の命運は全て我々が握ることになるのだから………
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「「ふぇっっくしょい!!」」
「どうしたんですか二人して。夏風邪ですか?」
「いや私はともかくシャルロットさん風邪引かないでしょ。幽霊なんすから」
「そういえばそうですねぇ。じゃあ誰かがあなた方のことを噂でもしたんじゃないですか?」
あー………考えてみれば、今は私もシャルロットなのだ。誰かが噂して、御本人様と一緒にくしゃみをしてもおかしくない。そんなの迷信だと言われたらそれまでだが。
「ていうか女神様、いつの間に帰ってたんすね」
「ええ。昨日戻ってきましたよ。あ、シャルさんこれお土産です」
「こちらは一体なんなのでしょうか?」
「浜松名物うなぎパイ、美味しいですよー」
へーうなぎパイかー。噂には聞いたことがあるけれど食べたことないな。羨まし………
「あれ、女神様って岡崎出張だったんすよね?まさかわざわざこんな時に静岡まで観光に行ってたんじゃ………」
「失礼な!単に新幹線でうっかり寝過ごして浜松まで行っちゃっただけです!!」
「何やってんすかあんた!?」




