こいつエリートだったはずなんすけど
「まぁとにかく、君を置いて逃げることを最終的に決めたのはもう一人の方なんだ。犯行の動機とかを知っているのは彼だろうね。あの時僕に見張りを命じて自分は教会の中で何かやっていたみたいだが………」
私にとっての本命が来たか。あっち側と世界を繋げるタイミングがあるとすればその時の筈だが……
「その時なにをしていたか、あなたはご存知なのですか?」
「生憎外で見張りをするよう言われていてね…僕にも見られたくなかったのかもしれない。ただ追手の気配を感じて彼に声をかけようとした時、かなり落胆した様子だったのは気になるが」
「落胆………?」
「何があったかは知らないがね。別に取り乱したりはしていなかったとはいえ、落ち込んでいるのが見てとれた」
その彼が入れ替りを引き起こした犯人だと仮定して、落胆していたという話を信じるなら何かうまくいかなかったことでもあったのか?
こっちはだいぶ異変が起こったっていうのに、その反応は正直予想外だ。世界を越えて入れ替わりなんてトンデモ現象を引き起こしておきながら何が不満だったのか………
なんにせよ、追手のこと以外にも向こうにとっての想定外が何かしらあったのは間違いなさそうだ。もっともこいつからはこれ以上の情報を引き出せそうにないが。
「んでお前はなんでこんな事件に手を貸したんだ?高給取りの癖に。こっちは教職に切り替えてから給料がダダ下がり………」
「先生ちょっと私怨混じってませんか?」
「さっきも言ったが金に困っていてね。以前に作った借金が膨れ上がってどうしようもなくなっていた所にこの話だ。そりゃあ受けるさ」
「公僕だった癖に?」
「お前さっきから発言に棘があるな………言っていることには同意するが」
「………………………」
…?急に何か思うところがありそうな黙り方をするな………痛い所突いちゃったのか?そんな良心があるんならこんな事件に手を貸さないでほしかったんだが。
「んじゃ最後の質問だ。こないだは何故姪に会いに学園に忍び込むような真似をしたんだ?リスクがでかいだろそんなの」
「………正直もう二度と会えないだろうと踏んでいたから最後に顔が見たかった。それだけだよ。なんせ命を狙われているからね」
「ほーん、命を狙われて……………」
「「「えっ!?」」」
「依頼してきた男に失敗を報告したら袋叩きにされそうになってね。命からがら逃げたはいいが暗殺者を差し向けられてしまったよ。どうも君を置いて逃げたのが気に障ったらしい」
「依頼人からすりゃ当然だわな」
「ていうかなんでそんな状況で可愛い姪に会おうとするのですか!?危ないでしょう!主にヴィルジニーさんが!!」
「しばらく前に撒いて以降は見かけなかったし、あの道については報告していなかったから問題ないよ」
「問題ないって………それに、何時集合かもわからない手紙で呼びつけて本当に会えると思っていたんですの?」
「それは単に僕が何時に着けるか予想がつかなかっただけだね。まぁあの娘なら伝わる」
「えぇ…………」
さっきからなんか叔父と姪の関係にしてはやたらと距離が近い気がする。そういえば二人とも実家と折り合いが悪いって話だったな。
「ちょっと待て、お前が殺されそうになったんだったら、そのもう一人の方はどうなったんだ?」
「ん、襲われたのを見て驚いてはいたが何かされた様子はなかったかな。まぁ彼の方がどうかはわからないが、少なくとも僕にはもう利用価値はなかっただろうしね。………これで満足かな?」
「どうだ?シャルロット」
「とりあえず聞くべきことは聞いたと思いますが……」
「んじゃ俺達はこれで切り上げる。これを元にお前の罪もある程度軽くしてやんだから大人しくしているんだな」
「そうさせてもらおう。また何かわかったようなら来ると良い。話せる範囲で協力してあげよう」
「ではこれで失礼しますわ………」
───────────────────────
「とりあえず供述調書はこちらに。後で複製したものを捜査員やシャルロット嬢にも渡しますね」
「ありがとなプラシド。………で、お前らどう思う?あの供述について」
「現状信じるしかないとは思いますわ。ただ………何故だかしっくりきませんの」
「確かにな………」
全てが嘘だとは思えなかった。けれど、証言を全て鵜呑みにして良いかは、彼が罪人だという事実を差し引いても怪しい気がした。
「現状奴の行動には不自然な迂闊さがある……それがどういう意味を持つかはわからんが」
ただ目先に利益に駆られて怪しげな誘拐に疑いも持たず参加したお馬鹿なのか、あるいは…………?




