お前に食わすカツ丼はねぇ!
あの深夜の大捕物から二日がたった。
いろいろあって捕縛されたレオンは先生達に連れていかれ、当然ながら牢屋にぶちこまれた。
あのやたらと強いレオンのことだ。縛り上げられても何かしらの魔法で逃げられたりしないのかと心配していたのだが、先生によると、
「コツがあるんだよ。縛ってる間適度に身体が痛むようにして、魔法発動に必要な集中力を散らしてんだ」
という。牢屋も部外秘の方法で内部の魔力を空っぽにしているらしく、徹底的に魔法を使わせないようにしてあるようだ。さすがにそっちは方法を教えてくれなかったが。
…………でだ、この度何故かそのレオンの取り調べに誘われた。
私が捜査に関わることをあまりよく思っていないはずの先生からの提案には正直言って驚いたが、お言葉に甘え、こうして学園を離れこのブタ箱へ足を運んだのである。
「本当にわたくしもご一緒してよかったのですか?」
「まがりなりにもレオン確保はお前のお陰だからな。礼みたいなもんだ。それに話を聞けば、何か思い出せるかもしれんぞ」
「そうはいってもわたくし本来部外者でしょう?」
「自覚があるならじっとしていて欲しい…ってのは置いておいて、それは心配いらん。このために担当を俺とプラシドだけにしたんだ」
「なるほど………いろいろとありがとうございますわ」
咄嗟に考えた記憶喪失設定がここまで役に立つとは思っていなかったが、本当にありがたい話だ。折角の配慮も、そもそも記憶喪失が嘘だから意味があまりないのは申し訳ないが……まぁ仕方がないだろう。
「…………取り調べるならそろそろ始めてもらっていいかな?」
鉄格子の向こうのレオンが急かしてくる。どうにも協力的に見えるのは、極刑もありうる罪状を軽くする代わりに情報を話すことで合意したかららしい。詳しいことは知らないが、司法取引というやつか。
「それもそうだな。プラシド、書記頼む」
「承知しました」
さて、一体どんな話が飛び出てくるんだか………
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「まず前提として、レオン・アヴァラルド、お前はシャルロット・ド・フランベルジュ嬢の誘拐に関与したか?」
「ああ。当日の計画立案と実際に誘拐するところまでを僕がやった」
「計画っていうと具体的にはどっからどこまでだ?」
「協力者を学園内に入れ誘拐を実行し、隠れ家の廃教会まで連れ込むところまでかな。ただ想定よりも見つかるのが早かったものだから、彼女を放棄して逃げ出したんだがね」
追手が思いの外早く来たから人質を放棄してでも逃げ出した……筋が通っているようで、どうにも違和感がある。こうも大層な計画を実行しておきながら、シャルロットさんをおいて逃げられるか?
「なぜ放棄したのです?どのような目的か存じ上げませんが、わざわざ誘拐したのならわたくしごと逃げればいい話でしょう」
「それができれば良かったんだろうけどね。あの深い森を気絶していた君を連れて抜けるのは不可能だっただろうさ。憲兵隊も撒く必要があったし」
「そうは言うがじゃあなんでこいつを誘拐しようとした?やらかしたことの割に諦めが良すぎないか」
「知らないさ。協力者にでも聞いてくれ……どちらかといえば協力者は僕の方か」
「それってあれか、お前に指示を出してたっていう御者!」
「ああ。僕が受けた依頼はそいつの誘拐を手引きしてくれって内容なんだが、余計な詮索はするなと釘を刺されていて彼についてはあまり知らないんだ」
「じゃあ知っていることはなにもないのか?」
「名前すら聞かせてもらえなかったぐらいだからね。顔は知っているから面通しぐらいはできるが」
正直言って、それが本当だとしたらかなり迂闊な気がする。兵士でも上の立場だったらしいこの人がそれに気がつかないとは思えないけど…
「…………お前の言い種だと、誘拐の時一緒にいた奴と依頼してきた奴は違いそうだな。どういう経緯で受けたんだ?」
「3ヶ月前の休日、酒屋で神父風の男にとんでもない額の報酬を提示されて受けた。あの時僕がお金に困っていて、かつ憲兵隊内部での綱紀の乱れについて調査していたことも知っていて依頼してきたらしい」
「お前そんなことやってたんだな」
「この間使った避難路もその調査の時に見つけたんだ。まったく、目立つ事件が少なくて皆仕事を舐めているんだね」
「公僕は横柄な割に不真面目ですものね」
「その公僕の目の前で言うことじゃねぇしなんならお前も公権力の側だろ」




