アルメリア学園の誘拐事案
【報告書】
王立アルメリア学園におけるマスターキー紛失及び誘拐事案について
1.概要
某月某日、深夜の時間帯において、王立アルメリア学園(以下「学園」という。)の学生寮で警備を担当していた守衛が、守衛室内に保管されていた寮のマスターキーが紛失していることを確認した。これを受け、直ちに警備中の守衛に加え、仮眠中であった守衛も動員し、施設内外にわたる捜索を実施した。
2.被害者の失踪と初動対応
マスターキーの捜索中、学園所属の生徒シャルロット・ド・フランベルジュ氏の居室が荒らされているのが発見され、同時に当該生徒の所在が不明であることが確認された。この状況を受け、当局は本件が誘拐事件である可能性が高いと判断し、待機中であった憲兵部隊を直ちに動員し、被害者および犯人の捜索を開始した。
「犯人連中はこのマスターキーを使ってシャルロットさんの部屋に忍び込んだっすか」
「幸か不幸か、そのお陰ですぐに事件が発覚したようですわね」
3.容疑者の特定と追跡措置
守衛室管理担当者および門衛の証言によれば、当時の警備責任者レオン・アヴァラルド氏と、その御者が操る馬車のみが、マスターキー紛失以降の期間に学園敷地外へ出たことが確認された。これを踏まえ、当局は同氏一行の行方を追跡する措置を講じた。
一行が王都を出立する際に実施された検問において、対応にあたった憲兵がレオン・アヴァラルド氏と面識のある者であったため、本来規定されている馬車の検査を十分に行わないまま通行を許可していたことが判明した。検問時の会話内容から、一行の目的地がアルメリア王国西部、プルバギナの国境付近であることが明らかとなったため、当局は直ちに憲兵部隊を同地域へ派遣した。
なお、当該憲兵の職務遂行における不適切な対応については、後日、謹慎三ヶ月の懲戒処分が科されている。
「地名については私よくわかんないっすから一旦スルーするとして、いっぺん事件関係なく憲兵を鍛え直した方がいいんじゃないすか?身内だからって普通に怠慢じゃないすか」
「セビーチェン先生の皺が増えますわね…ちなみにプルバギナは国境近くの地域の一つで、森が深いためにあまり栄えてはいない土地ですわね。特産品の林檎が有名ではありますが」
「詳しいっすねシャルロットさん」
「未来の公爵家当主ですから」
4.現地での捜索と被害者の発見
派遣された部隊は、当該地域において馬車の轍跡を手がかりに捜索を実施し、その足取りが国境沿いに広がるプルバギナ樹海(以下「樹海」という。)へ向かっていたことを確認した。当該樹海には、現在無人となっているジュダイナ教の廃教会が唯一の建造物として存在しており、当局は同所を潜伏先の可能性が高い地点と判断し、部隊を急行させた。
現地にて、一行が使用していたものと見られる馬車が放棄されているのを発見したことを受け、部隊は廃教会を潜伏先と断定。慎重な包囲の後、教会内への突入を実施した。その結果、犯人と見られる人物の姿は確認されなかったものの、教会内において被害者の保護に成功した。憲兵部隊は被保護者を伴い、王都へ帰還した。
なお、廃教会内では、被害者と共に紛失していたマスターキーが発見されたほか、それとは別に大量の遺留品も併せて回収されている。これらの遺留品の一部は、本件と関連のある可能性があるため、現在、詳細な鑑定および照合を進めている。
5.捜査の現状と今後の対応
その後の調査により、犯行グループに関しては、前警備責任者レオン・アヴァラルド氏が関与していた事実を除き、動機を含めた全容は依然として不明である。
また、被害者が連れ出された学園施設内においては、誘拐犯の侵入や犯行の痕跡を示す証拠は、荒らされたシャルロット嬢の私室を除いて一切確認されていない。このことから、当局はレオン・アヴァラルド氏が他の証拠を意図的に隠滅した可能性が高いと判断している。
さらに、検問時の応対に関し、御者が発した指示に従い、レオン・アヴァラルド氏本人が会話を行っていたとの証言が得られており、当局は御者に扮していた人物が本件の主犯である可能性が高いと判断し、現在も引き続き捜査を進めている。
「…なるほど、こういった経緯だったのですわね」
「シャルロットさんのお父さんが警備責任者を共犯と言っていたのもこれでわかったっす。実行犯の中に指示役がいたんすね」
例のあの日の状況については大体わかった。最も、今の時点で考察できる要素はあまり無さそうだが。
しかし、考査直前というのにかなりカロリーの高い文章を読んでしまった。ちゃんと役に立ってくれることを祈るか……




