自称女神からの電話
朝…日の出もまだの時間に飛び起きた。何故かというと、枕元から物凄くうるさい音と振動が出ているのだ。幸い部屋の外には伝わっていないようだが… そしてその正体というのがなかなか曲者だった。
「がっ、ガラケー?」
それはかつて独自の進化を遂げながら通信手段として広く使われ、その後は後進に未来を託した前時代の遺物。正直使っていたのは親世代だからあまり馴染みの無い代物。なによりこの世界に似つかわしくない文明の利器、ガラケーだった。
しかも電話が掛かってきていた。はっきり言ってとるのが怖すぎる。無視するわけにもいかないが…
「も、もしもし…?」
「よかった、やっと連絡が取れましたねぇ蜂須賀さん!いや今はシャルロットさんですかね?私です。三度の飯よりデュエルが大好き、あなたの町の天国の女神です!」
「自称女神!?」
驚いたことに、電話の主は自称女神だった。まぁこの人?ならこういう不思議なことをしでかしてもおかしくないが…
「せっかく心配で電話かけたのに酷い呼び方しますね…神霊侮辱罪でとっちめますよ?」
「なんすかその未知の法律…でも一体どうして?」
「例の謎の光がそちらの世界に繋がっていることを突き止めたので、関係各所に話を通した上でこうやって連絡がつくようにした次第です。世界を越えた幽霊誘拐事件というところですか」
「じゃやっぱここ異世界何すね…」
そんな気はしていたが、これで確定した。私、蜂須賀渚は人生初の異世界転生を果たしたと。もう死んでるけど。
ん?ちょっと待てよ?
「さっきシャルロットって呼んだっすよね?なんでそれ知ってんすか!?」
「それですか。さっきのあなたの居場所を突き止めた話とも繋がるんですが、実は…」
「モノホンのシャルロット・ド・フランベルジュ公爵令嬢がこちらにいらしてまして」
「…………へ?」
「あ、シャルさんご自身で話されたいそうなので電話を変わりますね。シャルさーん」
「はじめまして…ハチスカさんですね?わたくしがその身体の持ち主のシャルロット・ド・フランベルジュと申しますわ」
「へっ!?あっはい、お初にお目にかかります蜂須賀っす…え、本物?」
「わぁすごい驚きよう。やはり蜂須賀さんの狼狽えている声は良い栄養になりますね」
「えぇ…」
そりゃあ御本人登場で狼狽えないわけ無いだろう。というか栄養て。自称女神は相変わらずだ。
「あなたの状況は既に女神様より聞き及んでおります。なんでも我々の世界に拐われてしまったとか…わたくしはその時あなたと入れ替りでこちらに降り立ったようなのです、そうですわね?女神様」
「ええ。シャルさんの魂だけがこちらに来て、抜け殻に何故か蜂須賀さんが宿ったんです。この方のお陰であなたの居場所もわかったんですよ」
私が消えた後そんなことになっていたのか。それなら自称女神に現状を把握されているのもうなずける。
「…けど、一体なんでこんな事件が起きたんすか?」
「そうですね…ちなみに蜂須賀さんそちらの世界についてどの程度の知識がおありで?」
「なんにも」
「ではその辺りも含めてそちらの世界のことを説明していくことにしましょうか…」