乗っ取りゴースト、記憶喪失を詐称する
「…ここは…?」
謎の光に吸い込まれた私、蜂須賀渚は見知らぬ天井の下で目を覚ました。
とりあえず命の危険があるようななにかではなかったようだ。もう死んでいるが。
ここは…ベッドの上?
「ようやく目を覚ましたか…シャルロット」
「…?」
声のする方へ目を向けると、なんとも豪勢な服装のおっさんが立っていた。
どうやら私に向かって話しているようだが…シャルロット?一体何を言っているんだろうか。
いや、そもそも…何故見えている?
自称女神はわかる。だって女神なのだから。だがこのおっさんは生身の人間のように見える。よく見ると侍女らしき人々が控えていたが、彼女らも間違いなくこちらを見ていた。それも泣きそうな顔で…
そこまで考えてようやく気付いた。自分の身体の重さに。
「生きて…る…?」
理由はわからないが間違いない。肉と骨の重みがあって、心臓が脈打っている。久しぶりの…年数にして大体3年ぶりの感覚。
「その通りだ…あの日以来2日間寝込んでいたが、外傷もなくこうして帰ってきた」
一体何の話だろうか。血塗れ傷だらけの幽霊だった私が「外傷もなく」とか言われている時点で訳がわからない。そもそもこんな色白だったっけ…
本当に訳がわからない。まさか他人の身体を乗っ取りでもしたのだろうか?駄目だ、考えても心当たりがない…が、ひとまずこの状況をなんとかしなければ…とはいえどこの誰とも知れない人相手に話を合わせられる気はしない。
考えた末に…
「あの…どちら様で?」
「!?」
記憶喪失ということで、ゴリ押すことにした。
「記憶喪失とはなんとお労しいことか…!」
「心配かけてごめんなさいね…少し頭を整理したいの。1人にさせてくれる?」
側についていた侍女に部屋から出てもらい、ひとまず状況を整理する。
あの後軽い検査をした上で、自身のパーソナリティーを説明してもらった。
まず、やはりこの身体は私の知らない人物だった。この身体は名をシャルロット・ド・フランベルジュという、公爵家の長女らしい。ちなみに17歳。永遠の17歳である私と同い年である。そしてさっきのおっさんはなんと父親だった。フィリップというらしい。
詳しくは教えてくれなかったが、誘拐事件に遭い、意識を失った状態で保護されたそうだ。さっき言っていたあの日とはこの時のことだとか。
公爵令嬢…ということは貴族か。なら、これが自称女神の手の込んだイタズラとかでないのならここは私の知る世界ではないのかもしれない。よくある異世界転生という奴か?
…しかし、
「思いの外冷静な自分にビックリっす。伊達に3年ゴースト生活送ってないっすねぇ」
本当はもっと焦るべきなんだがなぁ。あのおっさ…父親は、世界観に関わることはほとんど教えてくれなかった。記憶喪失で一般常識まで飛ぶとは普通思わないだろうし仕方がないが、今後どうすれば良いかが何もわからない。
「ホント神様も酷なことをなさるっすよ…あの人のせいじゃないっすけども」
いやマジで私にどうしろと言うんだ一体…




