譲れないもの
「そもそもこいつは本当にあの公爵家のご令嬢なんですか?聞いてたイメージと全然違いますし、こんなことするなんて意味がわからないですよ」
「軽く変装してるみたいだが、本人で間違いないと思うぞ。ちょっと眼鏡取って三つ編みほどいてみろ」
「えー………折角やりましたのに」
「お前よくこの状況で口答えできるよな」
仕方がないので言われた通りにする。
「うわぁまじか、本物だ………」
「そんな感極まるようなものですの?」
「よく見ろあれ感極まってるんじゃなくて引いてんだよ。記憶喪失前のお前は品行方正で通っていたしそりゃあんな反応になるわ」
失礼な!………と反論するには私に落ち度がありすぎるなこれ。隠し通せると思って行動に移したが、こうなってはシャルロットさんの名誉が危ない。
「しかし何故正体を知っていたんですの?この変装には割と自信があったのですが」
「確かに見た目じゃ気付かなかったろうな。だがこいつが怪しい動きをしてた生徒のことも監視して報告してくれたお陰で気付いたんだよ。そいつが行動を始める時間が大体お前の補習が終わった辺りだって」
「あ!」
「日によって終わる時間はバラバラだったのに全部綺麗に合致したから間違いねぇなと思った。補習を申し出たのは偶然だったのに、まさかこうなるとは…」
迂闊だった。まさか補習を終えたその足でストーキングに向かっていたせいでバレるとは…。
「模擬戦も一段落ついたし、そろそろ動くと思ってたんだ………なぁ、やっぱりお前は例の誘拐事件を追うつもりでこんなことしでかしたのか?」
「それも知っているんですのね」
「当たり前だ。俺らも似たような理由でヴィルジニー・アヴァラルドを監視してんだ。お前に動機があるとすればこれしかねぇだろ」
「そういえば、誘拐の被害にあったご令嬢とは彼女のことでしたか…」
「恨み辛みもあるだろうし、思うところはあるだろうが手を引け。そうすりゃ今回の件も見なかったことに「お断りしますわ」
「…………即答されたな」
「そういう展開になるだろうとは思っていましたから」
「捜査はこっちの仕事だ。そんなに人に委ねるのが嫌か?そんな無理を通そうとする奴じゃなかった気がするんだが」
…確かにそうなんだろうな。関わり始めて間もないしとはいえ、自分のプライドを先行させて道理を引っ込ませるタイプでないことはなんとなくわかる。
だが、別に私もプライドの為に言っている訳じゃないというのはともかくとして、ここで引き下がるわけにはいかない。
私が行動しないことで、犠牲になるのはシャルロットさんだ。
説明して信じてもらえる内容ではないけれども。
「危険を冒してでも、取り戻さなければならないものがあるのです。それが何かを説明することはできませんが」
「説明できないのに、納得させられると思うか?」
「納得していただけなくても勝手にやるだけですわ。あまりシャルロット・ド・フランベルジュの名誉を傷つけたくはありませんが、それでもなにもしないよりずっとマシですから」
名誉云々は私の勝手な意見かもしれないが、自分の人生をいきなり奪われるなんてことが罷り通って良いはずがない。何故死んだかも知らない私が言っても説得力がないかもしれないが、選択肢は事件解決と原因究明のみだ。
そのことをはっきり言えたら良かったんだけどなー…
それに…………
「それに、ちゃんと自分の手で立ち向かわないと全員不幸なまま終わる気がしてならないから…」
………?
あれ?なんだ……?この言葉は……なんでそんな考えに思い当たった……………?
「だぁっ!あーもう、こういう手合いが一番面倒くさいんだよ…………………わかった、」
「え?」
「そこまで言うんならお前にも一枚噛ませてやる。お前が何に巻き込まれたか………その謎を探る同士としてな」




