荒事慣れはしてないけども
珍しく2000文字越しました。
「うーん…変わった様子は見られないですねぇ…」
電話の向こうで、ストーキング中に得た大量の写メを見ながら自称女神が呟く。
学園生活も始めてから一週間が経った。怪しまれないよう飛び飛びにだが調査を続けていたものの、なかなかめぼしい情報は出ない。
そもそも彼女は図書館に入り浸って本を読むばかりで、他人と話しているところすら見なかった。異常がないか調べろと言われていたが、あまりに変化が無さすぎて心配になってくる。
どんな子か知らないけど勉強以外も大事にした方がいいぞヴィルジニーさんよ。
「やっぱりつけ回すだけじゃなくてなんか他のアプローチを考えた方がいいっすかね」
「そうですねぇ…………ん?」
「どうかなさいましたか?」
「いえこの人…守衛でしょうか?この人だけ他の写真にも高頻度で映っているんですよねぇ…」
ああそれか。確かに守衛さんとヴィルジニーさんとのツーショットをよく撮ったものだが…
「ですがそうおかしな話でもないのではなくて?図書館内での写真が主なら同じ人が複数回映ることだって…」
「最初はそう思ったんですけど、よくよく見てみたら全体の8割はこの方も映っているんですよねぇ。いくらなんでも多すぎですよ。これって本当に偶然なんでしょうか?」
確かに、そこまでいくとさすがに怪しい。しかも私がストーキング中に写メっていたのは、別の部屋に移動したとか別の本を取りに行ったとか誰かに会釈したみたいな、わずかでも動きがあったタイミングだ。偶然画角に入り込んだにしては多すぎる。
…偶然じゃないとしたら、こいつもヴィルジニーさんをつけ回している?だとすると理由は…
「女神様、学園の警備は軍人がやってるって話だったっすよね…じゃあ、誘拐事件の捜査って誰がやってるんすか?」
「えーと、この『アルメリア王国国家組織図解』という本によりますと…犯罪捜査と犯人確保は憲兵隊なるものの管轄のようですねぇ」
「なんすかその本…というか憲兵隊?」
「国内の治安維持を担うアルメリア軍の組織の一つですわね。有事の際は前線に出るようですが基本はこちらで言うところの警察的存在ですわ」
知らないうちにシャルロットさんが日本に詳しくなってきている…というのは置いておいて、警備と捜査を大本が同じ組織がやっているということは…
「私一つ思い付いたことがあるんすが…」
「…………?」
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夜も更けて図書館の利用時間も終わり、例のご令嬢も勉強道具をまとめて帰って行った。毎日毎日こんな時間まで熱心なことだ。
俺は最近になってある目的のためにこの図書館の守衛を担当することになった。今日も一仕事を終え、今は提出しなければならない日報を書くため一人図書館に残っていた。
ふとここ最近よく見かける三つ編みの女子生徒のことが思い浮かんだ。何者かはわからないが、どうも彼女も例のご令嬢を探っているようだ。今日は見かけなかったが、一体何が目的なんだろうか?あの人は何か知っていそうだったが、聞こうとしてもはぐらかされてしまったんだよなぁ…
日報を書き終えた矢先、どこからかドンという大きな音がした。
「何か落ちてきたのか?どれ…」
音のした方へ行ってみると、本棚に囲まれて行き止まりになっている場所に本が落ちていた。
「まったく、誰かが変なしまい方したんだな。一体どこのどいつが「隙ありいぃぃぃぃいっす!」
「うおっ!?」
背後から羽交い締めにされた。まさか賊か!?
くっ、動きを封じられた上相手の顔が見えない。魔法で蹴散らすには危険すぎるか…
「さぁ神妙にするがいいっす!ストーカーの正体見たり枯れ尾花っすよ!!」
「神妙にしろはこちらの台詞だ!貴様一体何者だ!!」
「ストーカーに名乗る名などないっす!それより答えてもらうっすよ!あんた何のためにヴィルジニーさんをつけ回してたんすか!!」
例のご令嬢絡みか?どんな関係があるかはわからないが賊に情報を流してなるものか!
「ふん、貴様のような賊に答える必要はない!警備の軍人を敵に回してただですむと思うなよ!」
「うるさい!ハチスカ☆ジーグブリーカー!!」
「ほげぇ!?」
急に腹部を強く締め付けられた。だがそこまで力が強い方では無さそうだ。だがどの程度武器を持っているかもわからない以上迂闊に動くわけには…
「お宅らがどの程度あの事件について掴んでいるか知らなければならないんす!教えやがれっすよ!この学園で何が起きているのかを!!」
あの事件?例のご令嬢を監視するきっかけになった誘拐事件のことだろうか。しかし口振り的に犯人が口封じに来たわけでは無いように感じる。一体…?
「おい…その辺にしておけよ、シャルロット・ド・フランベルジュよ」
「「へっ!?」」
■ハチスカ☆ジーグブリーカー
背後から抱きついて全力で締め付ける技。腰周りを引き裂く勢いでやるのがコツ。自称女神が授けた喧嘩殺法で、正直抱きつく向き以外元ネタそのまんまである。




