やつれたおっさん現る
ヴィルジニーさんとやらのストーキングを続けて数日。今のところ収穫はない…が、ひとつ気になることがあった。
最初にヴィルジニーさんを見つけた日に感じたような謎の視線…あれをちょくちょく感じるようになったのだ。まさかストーカー?もしそうならなんて卑劣な奴だろうか………
「おい……ボーッとしてないで答案を埋めたらどうだー?シャルロット・ド・フランベルジュよ」
「ひゃいっ!?」
そうだった。今小テストの真っ最中なんだった。驚きのあまり声が出てしまうなんて恥ずかしい…
今は魔法学…その中でも魔法史の授業中。通常の歴史とは分けられている分野らしく、これがまぁなかなか範囲が広くて難しい。暗記量もたくさんあるようなので小テストレベルでも今の私にはだいぶきつい。
「…時間切れだ。答案を回収するぞー」
…もう終わりか。正直自信無いな…シャルロットさんに申し訳ない。いや流石にどうしようもない面はあると思うけども…
「結果は次回の授業で配るからなー。ちゃんと復習しておけよ。それじゃあこの授業は終わりだ。ほい、解散しろー」
「あ、シャルロット嬢、お前は放課後に魔法学資料室まで来いよ」
へ!?私なんかやらかした!?
「詳しい点までは出してないが、あまり小テストの調子が芳しくないな。答案を埋めるのにだいぶ苦労していたようだし…お前にしては珍しい」
私のことを呼び出したのは、魔法学教師のやつれたおっさん。名前は確か…なんだったっけ。
「まぁお前の事情は聞いているがな。大方その辺の記憶も失ったってとこだろう…その様子じゃ俺の名前とかも忘れてそうだしなー」
「あ、バレてましたか」
「変に言い訳しないあたりは変わらんな。俺は魔法学教師のセビーチェンだ。もう忘れんなよ」
変な名前だなー。確かに忘れなさそう。
「それで今回はどういったご用件で…?」
「ん、補習の予告だよ。お前も記憶喪失ってーのは不可抗力だろ?こっちとしてもそれで成績を落としたくはない…。だから特別に授業を組んでやる」
「よろしいんですか!?」
「ああ。まぁ別にたいした時間はとらん。ちらっと答案を見ただけだが、一応固有名詞は頭に入っているようだからな。お前ならすぐ追いつけるだろ」
ちゃんとその辺の知識は付いてたんだ…毎晩教科書の文を詰め込んでいた甲斐があって良かった。
「ちなみに元のわたくしはどのレベルの成績で?」
「学年で1から3番をうろちょろするぐらいだ」
たっっっっっか!シャルロットさんそんな優等生だったの!?いやまぁ公爵令嬢だしノートの中身とか見てそんな気はしてたけども!そりゃあ心配もされるだろうな…
「であればお言葉に甘えさせていただきます。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたしますわ」
「ん、やる気が溢れているようで何よりだ。もっとも今日は予告の段階だから補習を入れるのは明日以降だ。わかったらもう行って良いぞー」
「ありがとうございます!」
さっきは何事かと思ったが、私にとってだいぶありがたい話で助かった。放課後はヴィルジニーさんをストーキングする用事もあるが…まぁなんとかしよう。
…でも予告だけにしては妙に時間をとらされたな。わざわざ呼び出しまでして…
あれか、私の記憶喪失が機密事項だから二人っきりになれる場でしか話せなかったとかそういうあれかな。そういうことにしておくか。




