最初の手掛かり
授業を一通り終え、放課後は学生寮を案内してもらうことになった。
「こちらの学生寮は1階のみ共用スペースで食堂などがありますな。他の階は全て生徒と職員の生活スペースです。あなたの部屋は…寮の鍵はお持ちで?」
「はい、父が持たせて下さいました」
「鍵に刻まれた数字が部屋番号です。最初の数字が階を表し、後の数字が大きい順に北から南へと続いていくのですな。何かあれば1階の守衛にご相談を」
「何から何までありがとうございます…」
「なに、これも仕事ですからな。それではこの辺で失礼しますな」
学園長と別れ、自室へと向かう。鍵の番号通りに探してみると、なんと2階の角部屋だった。忖度かな?
中に入ってみると、物は少なく簡素ながらかなり広かった。多分生前住んでいたアパートより広い。しかも家具の一つ一つがやたらと豪華に見える。特にベッドがでかい。修学旅行みたいな気分だ。
さて…そろそろ彼女たちに連絡を取らねば。
「もしもし?こっちでは初日の登校を終えてきたっすよ」
「あら蜂須賀さん、お疲れ様です。もっとも本番はここからですがね…学園の様子はどうでしたか?」
「長く休んでたんで滅茶苦茶心配されたっすけど…やっぱり生徒側は真実を聞かされてない様子だったっすね」
「なるほどー。こちらもいろいろと資料を取り寄せてみたんですが手掛かりに乏しくてですねぇ…前途多難ですよ」
自称女神は神でも細かい事象は把握できないと言っていた。例え神の視点でも世界ひとつが秘める情報量はあまりに膨大で、望む情報を手に入れられる可能性は低いのだという。
「そういう意味では蜂須賀さんは運が良かったですねぇ。シャルさんのお陰で居場所の特定に苦労しませんでしたから」
私の時はシャルロットさんが自分の経歴を洗いざらい話してくれたお陰でなんとかなった。身元や出身国の詳細、世界観の情報が全て揃ったためだ。
だがここからの調査は手掛かりもほぼゼロからのスタート。集められる情報にも限界があるらしいのだ。
「ホント下界の情報なんて私たちからすれば砂漠の中の1粒の砂を探すようなものです。商業ルートを通った出版物でやっとこちらから手が出せるといった感じですねぇ」
「大変なんですのね。現状分かっているのは警備責任者が共犯だったことぐらい…」
「あ、そういえばルシエラが学園で人事異動があったとかなんとか言ってたっす」
「!それシャルさんが休んでいた期間の話ですよね!?」
「具体的にどのポジションが動いたんですの?」
急いでルシエラのリストを捲る。読んでみると新顔に関する来歴や第一印象が事細かに書かれていた。関連がありそうなのは…
「警備関連がかなり動いてるっすね…問題の警備責任者から門番まで。理由は書いてないっすけど…」
「手元の資料によれば学園の警備は軍部の管轄だそうで、毎年9月に人事が発表されるそうです。今そちらでも6月なので時期外れですねぇ。事件の影響と見て間違いなさそうです」
「でもなんでルシエラはこんなリストを?毎回こんなん作ってるんすか」
「ええ…あの子顔が広くて、学園の守衛にも知り合いが多かったから人事については敏感みたいなのですわ」
新聞でついつい自分が世話になった教師がどこに異動になったか調べちゃうあれか。
「問題の前責任者のこともあるっすね。名前がレオン………アヴァラルド?」
「手元の資料によればアヴァラルド伯爵家とかいうところの当主の弟のようですよ。良いとこの出の癖に何故こんなよく分からない誘拐事件に手を貸したんですかねぇ…」
まったくだ。なんか弱みでも握られてたのかな?
「なんにせよここから攻めていくしかないでしょう。ひとつ手がありますわ」
「何か作戦が?」
「ええ。ハチスカさん、あなた尾行の心得は?」
「幽霊時代しょっちゅう高校の生徒をストーキングしてたんで得意っす」
「あまり自慢げに言うことじゃないですよそれ…」
気付いたら総合評価が100pt越してました。わぁい。




