何がいったいどうなってるんすかね
幽霊というものになってもうだいぶ時が経つ。
気付いたときにはここにいて、血塗れの自分の姿が鏡に映らないことに絶望して、生前の記憶に涙して…
その後は終わりの見えないゴースト生活を無為に生きていた。もう死んでいるが。
「でもあれですねぇ、成仏出来ないなりに今を楽しんでいるのですからいいんじゃないでしょうか?もちろん出来るに越したことはないですが。あ、チェーンありますー?」
「無いっすけど…雰囲気台無しっす」
「デュエル中に物思いに耽っている方が悪いですよー。効果処理を終えてバトルに入りますね」
私の名は蜂須賀渚。かつて在籍していた学校に住み着くお化け的な何かである。
享年は多分17歳で、死因は…覚えていない。
覚えているのは断片的な生前の思い出と、見るも無惨な自分の姿。そして理由のわからない後悔…
そんなどうして死んだかも知らなければ成仏も出来ずにいる私を見かねてやって来たらしいのが、目の前でカードをしばいている残念な美人さん、自称天国の女神である。
「私の評価酷いですねぇ。11200打点をお見舞いしてさしあげましょうか?」
「…敗けでいいっす」
私を見かねて…とは言ったものの、実際は遊びに来るばかりでこのゴースト生活が変わる気配はない。
何故この自称女神はわざわざこんな幽霊を訪ねてカードゲームなんてやっているんだろうか。
「それは楽しいからですよ。ストレス発散しなければ天国の女神なんてやってられません。それに成仏できない魂のケアも私の業務の内ですから」
「仕事なら早く終わらせてさしあげたいんすけどもね…」
「ご自身でもよくわかっていないからこんな状況になっているのですから、そう急ぐものでもないですよ。デュエルに付き合ってくださる方もなかなかいませんし」
「だからって後攻ワンキルで気持ち良くなるためだけに私に挑むのはよして欲しいっすよ」
「無理な相談ですねぇ。あははー」
この自称女神、私と遊ぶためではなく私で遊ぶために会いに来ているな…多分そうだ。
「そこまで人聞きの悪いことを言わなくても…めそめそ」
「めそめそとかわざわざ口に出すから言われるんすよ」
「あははー…でもあなたが心配なのは本当ですよ?仕事とはいえ本心から真っ当に成仏していただきたいと思っています。そうなるといいおも…友人を失うことになるのが残念ですがねぇ」
「今おもちゃって言いかけたっす!言い話っぽく纏めようとしてたのが台無…ん?」
「どうかなさいましたか?」
何故だか浮遊感を感じる。幽霊である私はその気になれば浮くことも出来るのだが、それとは違う吸い上げられるような感覚だ。
「蜂須賀さん!上!上!」
「上…?ってなにこれ!?」
天井に目を向けてみれば、謎の光が私を吸い込もうとしていた。
浮遊感の正体はこれか…
もしやこれが昇天という奴なのではないだろうか?
「いやそれだったら私こんな反応しませんって!はやく逃げて!」
「わかりま…あ無理っすこれ」
「ちょっと!?」
まずいかもしれない。というかまずい。
既に抜け出せないところまで吸い上げられ、光に取り込まれようとしていた。
あの自称女神がこれだけ焦る現象だ。きっとろくでもない。
「くっ…よくわからないけどここでお別れかもしれないっすね…あでもまた会えるかもしれないんでお茶菓子の用意よろしくっす」
「実はまだ余裕ありますね!?」
「そんなこと無いっす………………あーもう無理!さよなら!!」
「蜂須賀さん!?蜂須賀さーん!」
自称女神が手を伸ばすのも間に合わず、私は光のなかに消えてしまった…
「お嬢様!?しっかりして下さい!お嬢様!」