004話
「で……神様、ねぇ。自称“神様”。これほどまでに胡散臭い自己紹介は、人生でも初めてだわ……」
『そう言われましても……そもそも、技術レベルも文化体系も違う世界の存在なものでして。僕が管理するエリアの知的生命体からは“神”として認識されているので、そう名乗るしかないんですよ……』
神を名乗るこの存在は、私の独り言のような思考にさえ丁寧に反応してくる。
それにしても、なんだろうこの……威厳ゼロ。おどおどした態度に自信のなさげな口ぶり。尊大さの欠片もない。
「神様って、こんな小動物みたいな対応するもんなんですか? 新しい疑問が湧いてきたんだけど」
『あの……はい、たしかに僕には威厳も荘厳な雰囲気もありません……ええ。他の同型ユニットと比べて攻撃性も低いし、“強そう”な印象を与えないって、同期との共有時にからかわれたこともあります……』
思ったことが筒抜けらしい。
そして、なぜだかこの反応に妙な罪悪感が生まれる。こっちは当然の感想を持っただけなのに、どうしてこんな後味の悪さが残るんだろう。
「あー……その、悪かった。別に傷つけるつもりはなかった。そこは、謝るよ」
『あっ、いえ。僕には“傷つく”という概念は、物理的にも精神的にも存在しませんから。でも……なんでしょうね、こう……僕みたいなパラメーター設定された管理ユニットよりも、もっとあなたのイメージ通りの、威厳や尊厳、自信に満ちた“神らしい”同期型の方が、ちょっとだけ羨ましく感じることはありますね……』
どうやらこいつは、“誰か”に作られた存在らしい。
それも複数体いる同型ユニットの一つ、という自己申告付き。AI的な何かであることはほぼ確定だ。
『その考えで合っています。僕は、あなたの世界から見れば“違う世界の一部エリアを管理するために上位構造体によって作られ、派遣された管理ユニットの一つ”という立ち位置です』
うん、まあ丁寧な自己紹介ありがとう。
でも、そんな“何かを管理する存在”が、私に何の用?
……というか、私は今どうなってる? そもそも「いる」のか?
まさかこれ、VRか何かにハッキングされて、高周波で催眠状態にされて感覚遮断されて、洗脳されてるってパターンじゃない??
『ち、違います違います! 僕そんなひどいことしませんよ!?』
神(仮)が否定に慌てる。
『あなたは……コンピュータを操作中に、突発性の疾患で死亡しました。
即死ではなかったようですが、数分間苦しんだ末に生命反応が停止しました。
通常ならその後、魂は肉体から離れてエネルギーを失い、徐々に消失していきます。
ただ今回は、そのプロセスに僕が介入し、魂を原型のまま保存して、こちらの管理領域に移送しました』
……まじか。死んだのか、私。
いや、死んだのかぁ……?
でもこれさ、月曜まで誰も気づかなくない?
月曜に無断欠勤しても、会社って即自宅確認までは来ないでしょ?
スマホが繋がらなくても警察や親に即連絡ってわけでもないし……ってことは火曜?
いやいや、3日無断でようやく家族に連絡行くかどうか……水曜?
……いやそれって、腐ってるんじゃね!?
父ちゃんに退去時の清掃費請求いくやつじゃね!?
てか会社に返さないといけなかった開発中のサンプルディスク、どうすんの!?
ああああ!!
考えることも、迷惑かける相手も多すぎて、もうどうしたらいいのよコレ!!