002話
なにか――とてつもなく痛かった気がする。
胸に違和感を覚えた直後、全身をねじ伏せるような激痛が走った。
どこが痛いのか、なにがどうなっているのかすらわからず、ただひたすら「痛い」だけが自分を支配して――
そこで、意識が途切れた。
だが、今――考えている自分がいる。
「……あれ?」
反射的にゴーグルを外そうと、手を動かす――つもりだった。
けれど、なにも感じない。視界も真っ暗なままだ。
「え? 触覚が……ない?」
いつものように、唇をすぼめたり、舌で歯をなぞったりしてみる。
だが、何の反応も返ってこない。
耳も、鼻も沈黙している。音も匂いも、何一つ存在しない。
「声、出てる? ……いや、これ、声帯も機能してない?」
意識ははっきりしているのに、感覚器官がすべて遮断されている。体を動かしても何も伝わってこない。
「呼吸」すら、意識してみても、その感覚がまるでない。
(……まさか、本当に死んだ……?)
いや、落ち着け。これは単なる夢の中の覚醒状態かもしれない。
あるいは、あの痛みのあと、救急搬送されて、今は麻酔処置中という可能性も――。
「全身麻酔……術後覚醒の初期段階か? それなら、これくらいの感覚遮断は理屈に合う……?」
けれど、あの激痛から、ここまで意識が飛んだ記憶がないのが不自然だ。
そもそも、目覚めた感覚すら曖昧。なにかが、違う。
思考だけが宙に浮かんでいるような、奇妙な感覚。
(……これは、ただの意識の再起動とは思えないな)
自分がどこにいるのかも、今の状態が何なのかも分からない。ただ、何か大きく「通常」とは違うことだけは、明確だった。
思考しかできない現状に、不安と推測が交錯する。
主人公はただ、意識の内側で静かに考え続けていた――。