【BAD】政変の英雄【END】
「【私を捕らえ、クーデター派に投降しなさい!】」
その瞬間、アルテミスの瞳が虚ろになる。
『絶対遵守の命令』。抗うことのできない権能によるものだった。
そして、アルテミスは目の前の私の腕を取り、拘束した。
王宮を出たアルテミスは、闇夜の中を進む。
奇妙なことに、誰も私達に気付かない。
ここが二人だけの世界ならば、どれだけ良かったことか……
やがて、クーデター派の本陣にたどり着く。
「何者!?」
衛兵達が剣を抜く!しかし、それを制する男がいた。
「待て!まさか『女王』と、アルテミス……か?」
コーアン伯爵。クーデター派に取り入った男が、不敵に笑う。
「……王宮側は降伏し……女王を、引き渡す……私は、新たな国王、ハーデス陛下に……忠誠を誓う」
アルテミスの声は掠れ、まるで操り人形のようだった。
その様子に、コーアン伯爵は嘲笑を浮かべる。
「くっくっく!これは、傑作だ!!……ハーデス様!クーデターの同志諸君よ!『庶民の女』……いや失礼、裏切り者のアルテミスにより、我が方が勝ったのです!!」
クーデターの本陣が、割れんばかりの歓声に包まれる。
本陣の奥、王座に座る少年・ハーデスは、静かに立ち上がった。
女王に歩み寄り、そっと囁く。
「……これでよかったのですか、『女王様』?」
幼い瞳が揺れる。私は小さく頷いた。
「……ええ、覚悟の上よ。騎士団も、クーデター派も……そして、アルテミスを救うには、これしかなかったのよ」
私の頬を何かがつたう。私の、涙か……
その沈黙を破ったのは、コーアン伯爵だった。
「『女王』……いや、『王国』を混乱に陥れた『魔女』を処刑せねば!火炙りの刑か、貼り付けの刑か!?」
沸き立つクーデター派の首脳陣。
「『魔女』を殺せ!」の大合唱が巻き起こる!!
その時、ハーデスが声を上げる!
「ならん!」
ハーデスは声を張り上げ、夜空を指差した。
「『魔女』は『王国』に『呪いの結界』を施した。それがアレだ!……『魔女』を殺せば、何があるかわからない!!」
空に広がるのは『サートゥルナーリアの大結界』。
それは本来、『自由』と『自立』を促すものだ。
「……『魔女』め、神々を騙し、そのような姑息な手段を!」
コーアン伯爵は、忌々しげに顔をしかめる。
しかし、法律や権能の知識があるはずのハーデスが、『サートゥルナーリアの大結界』を『呪い』などと。
「コーアン伯爵、『魔女』を辺境の牢獄に囚える任務を、貴殿に一任する!しかし『呪いの結界』が解けるまで、『魔女』を処罰してはならない!これは勅命である!!」
私は、今さら理解した。ハーデスは芝居を打ったのだ。
私の、命を守るために……?
「……ははぁ!かしこまりました、ハーデス様。このコーアン、謹んで任務を遂行いたします!」
私は、コーアン伯爵の兵により護送される。
闇夜の中、アルテミスの虚ろな目と、視線が合った気がした。
………………………………………私は、愚かだ。
主が、本当に欲していた物を、見誤ったのだ。
私は、『主が安全な国』を求め、
主は、『皆が住み良い国』を求めていた。
私は『政変の英雄』と祭り上げられた。
ハーデス陛下は、爵位と領地をくださった。
しかし、私が本当に欲したものは……
私の守護神は『月の女神アルテミス』。
『月』は、『太陽』が無いと輝けない。
私の『太陽』は、何処に?
何かが、落ちる。
『誠』の文字。
きつく、抱き締める。
……………………………………………『女王様』
勝 ち 取 る ん だ 、
私 の 手 で !
私 の 、 『 太 陽 』 を ! !
C O N T I N U E ?
[ Y e s ] N o
『女領主アルテミスと運命改変の魔女様・第0話』