『統合世界』第4話・山と海の中間は、温泉!
オレこと、スカジは『クロノシア公爵領』での新しい生活をスタートした。
今日は、領主にしてオレの『妻』であるサティーナに呼び出された。
領主の執務室の扉の前。
「「あっ!!」」
声がハモってしまった。
そこには、脚が綺麗な男子こと、ニョルズがいた。
「スカジさんも、サティ様に呼び出されたのですか?」
なんだか、気まずい。
そもそも、ニョルズに「ボクが側にいる」とまで言わせて、オレはサティーナを『嫁』と公言しているのだ。
「……あ、ああ」
無難に返事だけをして、執務室の扉をノックする。
サティーナを慕う者は多い。
オレは、誰もが『欲求』に苛まれる中、『エルドラド』……『世界そのもの』と交渉して、恒久的な平和を手に入れたサティーナに、恋焦がれてしまったのだ。
……違う、それは言い訳だ。
ニョルズは、『復讐』に囚われたオレに手を差し伸べてくれたのだ……それなのに。
そもそも、サティーナとニョルズの関係は、なんだ?
周りに女しかいない中、ニョルズは子どもではあるが、男だ!
そして、サティーナが要求する、丈の短いスカートの侍女服をいつも着ている。
……ひょっとして、この二人は!!
「スカジ。ちゃんと話を聞いていた?」
サティーナが、やれやれといった様子で、オレに問いかける。
「……すまない。考え事をしていた」
サティーナは、オレとニョルズを交互に見てから話す。
「……最近、あなた達の仲が良くないという噂を聞くわ。なにか心当たりはない?」
オレは、内心を見透かされたような気がした。
しかし、どちらかと言うと、ニョルズに対して負い目があると言うか……
「そうですね。スカジさんはボクに対して、よそよそしいですね」
ニョルズが、核心を突くような物言いをする。
「……そ、それなら、お前だって、オレに対して敬語だろうが!」
「年長者であるスカジさんを敬うのは、当然のことです。ならば、敬語で話すのは自然だと思いますが?」
ぐぬぬぬ。なんだか距離を置かれてる気がする。
「そのような、よそよそしい態度が気に食わないのだ!なぜ、腹を割って話そうとしない!?」
「スカジさんの言葉づかいは、乱暴だと感じます」
言わせておけば!子どもだと気を使っていたが、男としての性根を叩き直してやる!
「そもそも『海』を司る権能がダメなのだ!それに影響されて、ナヨナヨした性格になってしまったのではないか?磯臭さ、海鳥の鳴き声、波の音……全てがオレを憂鬱にさせる!!」
ニョルズは目に見えて怒り出す!
「言ったな!?『山』を司る権能が、どれほどのものか!カビ臭さ、狼の遠吠え、雪が積もる……なにも良いところがない!そんなのに影響されてるから、あなたは野蛮なんですよ!!」
なにをッ!!オレの権能、女神『スカジ』を侮辱するのか!?
「だいたい、なんで丈が短いスカートにフリルが付いた侍女服を着ているんだ!お前には『矜持』というものがないのか!?」
そうオレに言われて、ニョルズは怒るどころか、悲しそうな顔になってしまう。
「……ボクが、可愛い服を着るのは、似合ってませんか?」
領主の執務室に、沈黙が落ちる。
「……あなた達、いい加減にしてちょうだい」
サティーナが、声を上げる!
「少しくらいの言い合いならば、関係修復になるかと思って様子を見ていたけど、なんなのよ!シンプルな悪口の応酬じゃないの!!」
確かに、売り言葉に買い言葉とは言え、よくなかった。
「二人とも、よく聞いてちょうだい。『海』と『山』の中間は『温泉』!三人で『温泉』に行くわよ!!」
こうして、サティーナのよくわからない理論によって、オレ達は『温泉』に行くことになった。
朱雀湖の西岸。
ここは火山地帯となっていて、所々に『温泉』が湧いているようだ。
「ここは領民の中でも、知る人ぞ知る秘湯……そこに簡易の宿泊施設が併設されているわ!」
サティーナが、この『温泉』について説明してくれる。
「ここで、あなた達は『皇国』式の、着衣を身にまとわない入浴法……『裸の付き合い』をすることによって、親睦を深めて貰うことにするわ!!」
なんだと!着衣を脱ぐ……すなわち、武器を持ち込めない?相手に『悪意』があったらどうするのだ!?
……いや、違う。相手に『悪意』がないことを示す……それが『裸の付き合い』の意図なのか!!
「……ふふふ、サティーナよ。オレに、この『裸の付き合い』の儀式を施してくれること、感謝する!この儀式に耐え抜くと、オレは誓うぞ!!」
「?……普通に、私も入るけど?」
なんだと!『裸の付き合い』……奥が深いようだな!?
「ちなみに、あっちは男湯。こっちが女湯で、脱衣場から別れることになっているわ!」
おや?つまり、女湯にはオレとサティーナが、男湯にはニョルズが一人で入ることになる。
ますますサティーナの意図が、わからなくなってきたぞ?
「じゃあ、私達は女湯ね!」
そう言いながら、女湯に入ろうとするサティーナ。
その後に続く、オレ。
……そして、ニョルズ。
「……待て!なんでニョルズも、女湯に入ろうとしている!?お前は、子どもでも、男ではないのか!?」
混乱するオレに、小首をかしげるサティーナとニョルズ。
やがて、二人は合点がいったみたいな反応を示す。
「スカジ。ニョルズは……
「サティ様、ここはボクが説明します」
ニョルズがオレに向き直り、話し始める。
「スカジさん、ボクは女です。確かに、女らしい体つきをしてなくて、男の神様の名前を授かりましたが、ボクは女なんです」
オレは、ショックを受ける。
短い付き合いだったが、ニョルズのことをよく知りもしないくせに、男だと決めつけて、男らしくないニョルズにヤキモキしていたのだ。
「……すまなかった、ニョルズ。オレはてっきり、お前が男だと思っていた。可愛らしい侍女服や綺麗な脚が『男らしくない』とモヤモヤしていたのだ」
オレの謝罪を聞き、ニョルズは微笑んで応える。
「……それと、許してください。ボクは今日まで、スカジさん男性だと思っていました」
ニョルズから、衝撃的な謝罪をされる!
「……なんで、オレを男だと、勘違いしていたんだ!?」
ニョルズはバツが悪そうに、とつとつと話す。
「……だって、一人称が『オレ』だし、すんごい大胸筋だし、露出がすごい服装をしているし……あと、言葉づかいが乱暴だし」
うぐぅ!まさかニョルズに逆襲されるとは思わなかった。
「ふふふ。あなた達、互いに男だと誤解してたのね?それは傑作だわ!」
サティーナがバカ笑いし始める。きっと『小説家になろう』投稿時には、改変されてるに違いない!
「……ねえ、スカジさん?ボク達は『裸の付き合い』を成し遂げました。じゃあ『友達』ってことですよね?」
『温泉』に浸かりながら、ニョルズが話しかけてきた。
『温泉』。不思議なものだ。水の中なのに冷たくない。
その温かさが、心のわだかまりを溶かしていくようだ。
「……オレは、お前が『側にいる』と言ってくれたのに、サティーナに『求婚』してしまった。それが、申し訳ないと思っていたのだ……お前が許してくれるならば、オレはお前と『友達』になりたい!」
オレの言葉に、ニョルズは驚いたようだった。
「スカジさん。ボクは、サティ様とスカジさんの関係の邪魔になっていると考えていたんです。でも、スカジさんも女性だと知り、『友達』になれると思ったんです」
ニョルズはオレの手を取り、目をまっすぐに見て告げる。
「ボク達は『友達』になりました!……さあ、あの朴念仁に、ボク達の魅力を教えてあげましょう!!」
『友達』。それは、サティーナを包囲するための、同志の誓い……なのかも知れない!!




