女従者アルテミスと絶対遵守の女王様・第8話
『絶対遵守の命令』。
『サトゥルヌス』神の祭典『サートゥルナーリア』で、解放された奴隷や、主従関係の逆転を、最終日に元に戻すための『秩序』を司る権能です。
『女王様』は、『サートゥルナーリア』を『解放と秩序』の権能として、再解釈しているということです。
そして、それは『忠誠心』によって、抵抗することができます。
『王国』に、『政変』が起こります。
首謀者は、まだ未成年の、ハーデス殿下です。
ハーデス殿下は、『女王様』の従兄弟であり、『事件』の生き残りでもあります。
……ですが、取り巻きの大人たちの『傀儡』とみて、間違いないでしょう。
クーデター派は、『女王様』が主導した『強制労働や差別を廃止する法令』に、不満がある貴族や有力商人などが、その主要な構成員です。
私、アルテミスは『非常時』であると、判断いたしました。
三軍の騎士団。すなわち、中央軍騎士団、左軍騎士団、右軍騎士団に、『王下十字騎士』として召集をかけます。
我が主、『女王様』に代わり、訓示を述べます。
「貴公らは、誉れ高き『王国』の騎士団に所属する、勇敢な騎士である!
我らが『女王様』に対して、クーデター派は反旗を翻した!
これは『忠誠心』の欠片もない行為である!
今、此処が、貴公らの『忠誠心』を示す場所となるだろう!」
私が話し終わると、熱気に包まれる。
『女王様』を讃える声。
『サトゥルヌス』神への祈り。
それも、そのはずです。
私が『王下十字騎士』となってから、『女王様』への『忠誠心』が高い者を重用したのです。
否応なく、士気が上がるというものです。
三軍の騎士団は、それぞれ約500人。近衛騎士団も含めると約1700人。
斥候の偵察によると、あちらは約1000人。地方貴族の寄せ集めで、よく準備した方です。
ですが、練度が違います!
戦いは、『女王様』側の一方的な、殲滅戦になるでしょう!
『女王様』に、出陣前の挨拶をします。
「『女王様』!アルテミスです!」
入室を促されます。自室に閉じこもっている『女王様』。
慣れない戦に、戸惑っているのかも知れません。
「我が主、どうかご安心ください。敵は少数の寄せ集めです。我が軍は、『女王様』の指導のもと、精強な騎士たちを揃えました!私も『絶対』に、無事、帰還いたします!」
『女王様』を安心させるために、気丈に振る舞う。
戦に『絶対』は無い。もしかすると、命を落とすかも知れない。
しかし、クーデター派を倒すことができるのならば、『王国』は『女王様』の元で、一つに纏まるはず。
そのためなら、私の命など、惜しくはn……
「……もう、終わりにしましょう」
『女王様』が、つぶやきます。
「何を弱気な!こちらには、三軍の騎士団と近衛騎士団が付いているのです。クーデター派を退けることができるでしょう!」
『女王様』は、頭を振ります。
「それでは、騎士団であっても、クーデター派であっても犠牲者が出るわ!どちらにせよ、我が国民なのよ!」
「……騎士であるならば、死ぬ覚悟もできているはずです!あなたを守れるならば、騎士として本望でしょう!」
『女王様』は、尚も食い下がります。
「……でも、それは、『誰かにとってのアルテミス』なのでしょ!?」
……な、何を、言っt
「アルテミス、私は、あなたに出会って『愛』を知った。『事件』によって、両親や親戚のみんなを失った私にとって、あなたが『導きの光』だった」
『愛』。その言葉が、私の身体を巡る。
「あなたが居ない世界ならば、私は要らない。あなたが、私の日常を守ってくれた!」
『女王様』と過ごした日々が思い出される。
「だけれど、アルテミスが無事だとしても、誰かが犠牲になる。それは騎士団なのか、クーデター派なのか、わからない。けれども、『誰かにとっての大切な人』なのよ!!」
……そうだ。私は『忠誠心』を貫くために、死のうとしている。
私じゃなくとも、誰かに『忠誠心』を抱かせ、死なせようとしている。
『女王様』は、それが『私』か『誰か』か、と問うているのだろうか?
「私は、アルテミス、あなたに生きていてもらいたい。それは、他の人であっても!」
『女王様』の、これまでの努力は、何も保身のためではなかった?
「もう、『事件』に『合わせる』のは、たくさんよ!」
覚悟を決めた『女王様』に、権能の力が渦巻きます。
ですが、『絶対遵守の命令』ならば、私の『忠誠心』で抵抗できるはずです!
「我が騎士アルテミスよ!
【私を捕らえ、クーデター派に投降しなさい!】」
……私、の……『忠、誠……心』で……
「再び【命令】する!
【私を捕らえ、クーデター派に投降しなさい!】」
二か、?わ、……『ちゅ、誠、し……』……
「三度【命令】する!
【私を捕らえ、クーデター派に投降しなさい!】」
……わ……、……『ち……、誠、……』、……
「さ よ う な ら 、 ア ル テ ミ ス」