【DEAR】勇者パーティー【DAYS】
オレは『勇者パーティー』に馴染めずにいた。
ドワーフ族の『勇者』として召喚されたが、元の世界の記憶のほとんどを失っていた。
覚えているのは、自分の名前がスカジだということ。そして……
『みんなの仇を取る』……その『復讐』の感情だけだった。
「わたくし『元の世界』では、エルフ族の姫だったんですの!」
『勇者パーティー』の面々は、楽しげに『元の世界』の話をしていた。
それが羨ましくもあり、どこか憎らしくもあった。
次第に、オレは皆との語らいを避けるようになった。
そんなある日……
「スカジ、夕飯の準備ができたぞ。一緒に食べようではないか?」
声をかけてきたのは、人間族の『勇者』ヴォルフガングだった。
高潔な騎士道精神を持つ青年で、王国の騎士団長の家系に生まれた剣の天才。
パーティーのリーダー的存在でもある。
「……すまない。オレは、一人で食べたいんだ」
オレの言葉に、ヴォルフガングは落ち着いた声で続ける。
「スカジ、もしかして君は……『元の世界』の記憶が無いのか?」
その問いに、オレは顔を上げてヴォルフガングを見た。
「……やはりそうか。早く気づいてやれなくて、すまなかった。実は、みんなも所々『記憶の欠落』が見られるんだ。おそらく『勇者召喚』の後遺症だろうけど……話しているうちに、少しずつ思い出せると思ってね」
……みんなも『記憶の欠落』に苦しんでいたのか。
あんなに楽しそうに『元の世界』を語っていたのに、きっと皆、不安だったのだ。
そう思うと、オレは初めて、みんなと……『勇者パーティー』と、繋がれたような気がした。
天使族の『勇者』セラフィオンは、六翼を持つ天使族の青年。神聖魔法の使い手で、特に治癒と結界術に長ける。
獣人族の『勇者』ガルザークは、 狼族の戦士。並外れた身体能力と直感で戦う、豪快な性格の男。
フィッツ族の『勇者』ニコロは、小柄だが天才的な発明家。機械仕掛けの義手とブーツで高速移動しながら戦う。
『魔王討伐』という短い旅だったが、オレ達は仲良くなった。
特にオレは、ヴォルフガングのことばかり見ていた気がする。
優しく、頼りがいがあって、いつも周囲に気を配っている。
もしかすると、オレは……ヴォルフガングのことが、好きだったのかも知れない。
……けれど。
魔法と弓を組み合わせた精密な狙撃を得意とする、エルフ族の『勇者』リュミエール。
美しく、聡明で、誰もが目を奪われるような存在。
彼女の隣にいるヴォルフガングは、まるで絵に描いたように釣り合っていた。
仲睦まじく談笑する二人を見て、オレは思った。
……自分の『恋心』には、気付かないふりをしておこう。
気付いてしまえば、もう後戻りできなくなる気がしたから。
旅の終着点。『魔王の城』。
「『サウナ』だ!……『サウナ』こそ、世界を……いや、宇宙を統べる!!」
『魔王』。それは、半裸でマグロを背負った、髭面のオッサンだった。
そして、異様に熱い。辺りは熱気に包まれている。
「もっとだ!もっと、ロウリュに水を撒け!……この世界に『サウナ』の楽園を作る。そのためには、大量のサウナストーンが必要なのだ!!」
蒸気が満ち、『魔王』は、高笑いをする。
「……そのために、罪もない民が苦しめられるのか?『魔王』よ、貴様の道楽のために、何人の住民が犠牲になったと思っているんだ!?」
ヴォルフガングは、苦悶の表情で『魔王』に問う。
「……なんだと?『サウナ』の楽園が造られたら、お前達も、その恩恵を受けられる……それでも、俺の邪魔をする気かぁぁぁっ!?」
『魔王』は、背負っていたマグロを手に取って構える。
「いくぞ、みんな!『魔王』の暴虐から、世界を救うんだ!!」
ヴォルフガングをはじめとした『勇者パーティー』も、各々、武器を構える。
しかし、『魔王』がニヤリと笑う!
「一気に、カタを付けてやる!
ネ ギ ト ロ ・ ボ ン バ ー !! 」
……なん、だ……これは!!
ねっとりとしたマグロの旨味が、とろける……いや、『とろ爆発』だ!!
ちくしょう……ネギの香りが……マグロの脂を、操ってやがる……!!
シャキッとした青ネギの清涼感が、重厚なトロの甘みを完全にコントロールしている。
そして、ほんのり効いた醤油が、最後にズドンと決めてくる。
……これはもう、料理というより、芸術……!こいつは、本物の戦場だ!!
気付いた時には『勇者パーティー』は倒れていた。
あの一撃で……みんなは無事なのか!?
「おや?まだ、しぶといのがいるな。俺のネギトロを食らって、生きてるのは賞賛に値する!」
オレは、また、みんなを失うのか!?
……そんなの、許されるはずがない!!
「……ほう、立ち上がるか!『サウナ』を極めることは、全てを極めること!それを怠った報いを受けるがいい!!」
また……あの攻撃が来るのか!?
絶望が押し寄せた、その瞬間。
「ぐっ!!」
ヴォルフガングが、オレの前に飛び出した。
「ヴォルフガング!なぜ、オレなんかのために!?」
彼は、オレをかばうように盾となり、凄まじい衝撃をその身に受け止めた。
血を吐き、膝をつきながらも、ヴォルフガングは……微笑んだ。
「……なぜって?……好きな……女を……守るのに……理由なんて、要らない……だろ……?」
その言葉とともに、彼の目が……静かに閉じられていく。
好きな、女?
オレが、ヴォルフガングの……?
何かが、胸の奥で崩れた。
ずっと目をそらしていた想い。言葉にしなかった感情。
オレも……オレだって、ヴォルフガングのことが、好きだったんだ!!
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
叫びとともに、オレはその身に眠る力……女神『スカジ』の権能を解き放つ!
「女神『スカジ』よ!そして『ドワーフ族の宝珠』よ!オレに『復讐』の力を!!……オレが愛した男、ヴォルフガングに!安らかな眠りを!!」
オレの眼前に、再び現れた『魔王』が笑う。
「そう来なくっちゃな!俺のマグロが光っt……
「遅いッ!!」
渾身の一撃を叩きつけた。
怒りと、愛と、すべてを込めて!
炎が燃え盛り、蒸気が吹き上がり、『魔王』の姿が爆煙に消える。
後日。『魔王の城』は崩れ去り、『魔王』の姿は発見されなかった。
そのため、『魔王討伐』は成功と認定された。
オレは、ただ一人、生き残った『勇者』として、民衆から讃えられた。
……でも、心はずっと叫び続けていた。
誰かの声を探していた。笑い声を、叱咤を、何気ないやり取りを。
オレは、今でも探してしまう。あの仲間達を。あの場所を。
『勇者パーティー』という、かけがえのない日々を……
『魔王の城』跡地。
「……ごほごほ。いやー、死ぬかと思った!……つか、普通、技名くらい言わせるよな!?」
それは『魔王』……いや、ヒゲオッサンだった。
「この世界には『サウナ』は、早かったようだ……しかし、究極の『サウナ』を求めて、俺の旅は続く!」
そう言うと、指先から青白い電流を放ちながら、虚空に両手を掛ける。
まるで、扉を開くように押し広げる!
バリバリバリバリバリッ!
なんと、次元に穴を開けてしまったのだ!
「さあ、次の『サウナ』は、何処かな!?」
亜空間に消えた、ヒゲオッサン。
その後には、次元の扉に挟まれて焼き切れた、マグロの兜焼きが残されていた。
Special Thanks:カラスのカンヅメ(前回『魔王』のキャラ原案)




