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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第7章・女勇者アルテミスと鉄壁魔都の魔王様
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【DEAR】勇者パーティー【DAYS】

 オレは『勇者パーティー』に馴染めずにいた。


 ドワーフ族の『勇者』として召喚されたが、元の世界の記憶のほとんどを失っていた。


 覚えているのは、自分の名前がスカジだということ。そして……


 『みんなの仇を取る』……その『復讐』の感情だけだった。


 


「わたくし『元の世界』では、エルフ族の姫だったんですの!」


 『勇者パーティー』の面々は、楽しげに『元の世界』の話をしていた。


 それが羨ましくもあり、どこか憎らしくもあった。


 次第に、オレは皆との語らいを避けるようになった。


 そんなある日……


「スカジ、夕飯の準備ができたぞ。一緒に食べようではないか?」


 声をかけてきたのは、人間族の『勇者』ヴォルフガングだった。


 高潔な騎士道精神を持つ青年で、王国の騎士団長の家系に生まれた剣の天才。


 パーティーのリーダー的存在でもある。


「……すまない。オレは、一人で食べたいんだ」


 オレの言葉に、ヴォルフガングは落ち着いた声で続ける。


「スカジ、もしかして君は……『元の世界』の記憶が無いのか?」


 その問いに、オレは顔を上げてヴォルフガングを見た。


「……やはりそうか。早く気づいてやれなくて、すまなかった。実は、みんなも所々『記憶の欠落』が見られるんだ。おそらく『勇者召喚』の後遺症だろうけど……話しているうちに、少しずつ思い出せると思ってね」


 ……みんなも『記憶の欠落』に苦しんでいたのか。


 あんなに楽しそうに『元の世界』を語っていたのに、きっと皆、不安だったのだ。


 そう思うと、オレは初めて、みんなと……『勇者パーティー』と、繋がれたような気がした。




 天使族の『勇者』セラフィオンは、六翼を持つ天使族の青年。神聖魔法の使い手で、特に治癒と結界術に長ける。


 獣人族の『勇者』ガルザークは、 狼族の戦士。並外れた身体能力と直感で戦う、豪快な性格の男。


 フィッツ族の『勇者』ニコロは、小柄だが天才的な発明家。機械仕掛けの義手とブーツで高速移動しながら戦う。


 『魔王討伐』という短い旅だったが、オレ達は仲良くなった。


 特にオレは、ヴォルフガングのことばかり見ていた気がする。


 優しく、頼りがいがあって、いつも周囲に気を配っている。


 もしかすると、オレは……ヴォルフガングのことが、好きだったのかも知れない。


 ……けれど。


 魔法と弓を組み合わせた精密な狙撃を得意とする、エルフ族の『勇者』リュミエール。


 美しく、聡明で、誰もが目を奪われるような存在。


 彼女の隣にいるヴォルフガングは、まるで絵に描いたように釣り合っていた。


 仲睦まじく談笑する二人を見て、オレは思った。


 ……自分の『恋心』には、気付かないふりをしておこう。


 気付いてしまえば、もう後戻りできなくなる気がしたから。







 旅の終着点。『魔王の城』。


「『サウナ』だ!……『サウナ』こそ、世界を……いや、宇宙を統べる!!」


 『魔王』。それは、半裸でマグロを背負った、髭面のオッサンだった。


 そして、異様に熱い。辺りは熱気に包まれている。


「もっとだ!もっと、ロウリュに水を撒け!……この世界に『サウナ』の楽園を作る。そのためには、大量のサウナストーンが必要なのだ!!」


 蒸気が満ち、『魔王』は、高笑いをする。


「……そのために、罪もない民が苦しめられるのか?『魔王』よ、貴様の道楽のために、何人の住民が犠牲になったと思っているんだ!?」


 ヴォルフガングは、苦悶の表情で『魔王』に問う。


「……なんだと?『サウナ』の楽園が造られたら、お前達も、その恩恵を受けられる……それでも、俺の邪魔をする気かぁぁぁっ!?」


 『魔王』は、背負っていたマグロを手に取って構える。


「いくぞ、みんな!『魔王』の暴虐から、世界を救うんだ!!」


 ヴォルフガングをはじめとした『勇者パーティー』も、各々、武器を構える。


 しかし、『魔王』がニヤリと笑う!



「一気に、カタを付けてやる!


 ネ ギ ト ロ ・ ボ ン バ ー !! 」



 ……なん、だ……これは!!


 ねっとりとしたマグロの旨味が、とろける……いや、『とろ爆発』だ!!


 ちくしょう……ネギの香りが……マグロの脂を、操ってやがる……!!


 シャキッとした青ネギの清涼感が、重厚なトロの甘みを完全にコントロールしている。


 そして、ほんのり効いた醤油が、最後にズドンと決めてくる。


 ……これはもう、料理というより、芸術……!こいつは、本物の戦場(バトルフィールド)だ!!




 気付いた時には『勇者パーティー』は倒れていた。


 あの一撃で……みんなは無事なのか!?


「おや?まだ、しぶといのがいるな。俺のネギトロを食らって、生きてるのは賞賛に値する!」


 オレは、また、みんなを失うのか!?


 ……そんなの、許されるはずがない!!


「……ほう、立ち上がるか!『サウナ』を極めることは、全てを極めること!それを怠った報いを受けるがいい!!」


 また……あの攻撃が来るのか!?


 絶望が押し寄せた、その瞬間。


「ぐっ!!」


 ヴォルフガングが、オレの前に飛び出した。


「ヴォルフガング!なぜ、オレなんかのために!?」


 彼は、オレをかばうように盾となり、凄まじい衝撃をその身に受け止めた。


 血を吐き、膝をつきながらも、ヴォルフガングは……微笑んだ。


「……なぜって?……好きな……女を……守るのに……理由なんて、要らない……だろ……?」


 その言葉とともに、彼の目が……静かに閉じられていく。


 好きな、女?


 オレが、ヴォルフガングの……?


 何かが、胸の奥で崩れた。


 ずっと目をそらしていた想い。言葉にしなかった感情。


 オレも……オレだって、ヴォルフガングのことが、好きだったんだ!!


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 叫びとともに、オレはその身に眠る力……女神『スカジ』の権能を解き放つ!


「女神『スカジ』よ!そして『ドワーフ族の宝珠』よ!オレに『復讐』の力を!!……オレが愛した男、ヴォルフガングに!安らかな眠りを!!」


 オレの眼前に、再び現れた『魔王』が笑う。


「そう来なくっちゃな!俺のマグロが光っt……


「遅いッ!!」


 渾身の一撃を叩きつけた。


 怒りと、愛と、すべてを込めて!


 炎が燃え盛り、蒸気が吹き上がり、『魔王』の姿が爆煙に消える。







 後日。『魔王の城』は崩れ去り、『魔王』の姿は発見されなかった。


 そのため、『魔王討伐』は成功と認定された。


 オレは、ただ一人、生き残った『勇者』として、民衆から讃えられた。


 ……でも、心はずっと叫び続けていた。


 誰かの声を探していた。笑い声を、叱咤を、何気ないやり取りを。


 オレは、今でも探してしまう。あの仲間達を。あの場所を。


 『勇者パーティー』という、かけがえのない日々を……







 『魔王の城』跡地。


「……ごほごほ。いやー、死ぬかと思った!……つか、普通、技名くらい言わせるよな!?」


 それは『魔王』……いや、ヒゲオッサンだった。


「この世界には『サウナ』は、早かったようだ……しかし、究極の『サウナ』を求めて、俺の旅は続く!」


 そう言うと、指先から青白い電流を放ちながら、虚空に両手を掛ける。


 まるで、扉を開くように押し広げる!


 バリバリバリバリバリッ!


 なんと、次元に穴を開けてしまったのだ!


「さあ、次の『サウナ』は、何処かな!?」


 亜空間に消えた、ヒゲオッサン。


 その後には、次元の扉に挟まれて焼き切れた、マグロの兜焼きが残されていた。


Special Thanks:カラスのカンヅメ(前回『魔王』のキャラ原案)

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