『鉄壁魔都』第13話・勇者と魔王の和解
気が付くと、私は仲間達に囲まれて横たわっていた。
「サティーナ様!いきなり倒れたので、心配しました……お身体は大丈夫ですか?」
アルテミスを筆頭に、みんな異口同音に、私に声を掛けてくれる。
「……心配をかけたわね、みんな」
私は、みんなを見渡し、一呼吸してから話し始める。
「みんな、よく聞いてちょうだい。私は『この世界』に会ってきたわ!そこでの話し合いを共有するわ!」
最初は、私の言動を疑っていたみんなだったが、次第に納得してくれたみたいだった。
「では、この『世界』とは、巨大な生命体なのですね!?」
「それは『他の世界』を『捕食』しているのかしら?」
「そして『他の世界』の『住民』を『魔族』に変えてしまうのでござりまするな?」
「さらに『魔族』を『討伐』するために『勇者』を『召喚』するのだな?」
「『魔族』や『勇者』は『欲求』を刺激され、『世界』にとって都合のいいように操られるのですね?」
アルテミス、ペルセポネ、葛葉様、ルシファー、ニョルズが、私の説明を補足してくれる。
その話を聞いて、スカジがゆっくりと語り始める。
「……オレは、愚かだった。『魔族』が、ただの『遭難者』だったことを知らなかったのだ……いや、もしかしたら、オレに対して助けを求めていた『魔族』もいたかも知れない……それでも、盲目的に『魔族』や『魔王』を倒すことを目指していたのだ」
スカジは私に向き直り、頭を下げて謝罪する。
「サティーナよ、すまなかった!『世界』に騙されていたとは言え、お前を『魔王』と勘違いして『危害』を加えたのだ……そうだ!『クロノシア侯爵領』の『住民』も、お前が統制してくれてなければ、『勇者』として『討伐』していたかも知れない!……どうか、許してほしい。この償いは、オレの命をもってする!!」
なおも頭を下げるスカジに、私は告げる。
「……顔を上げてちょうだい、スカジ。みんな、スカジは『危害』や『討伐』などと物騒な言葉を言ってるけど、実際、私達は『被害』を受けたのかしら?」
私は……決して下品な笑みにならないように……みんなに問いかけた。
「いえ、我が主よ!我らに対して、『勇者』スカジも、この『世界』も、『被害』を与えることはできませんでした!……これも全て、サティーナ様の指導の賜物と存じます!!」
代表してアルテミスが、ニヤニヤしながら答えた……ってことは、私もニヤニヤしてるって、コトォ!?
「……ごほん!スカジ、どうやら私達は、あなたや『世界』から、『被害』を受けてないみたいね。つまり、あなたが、私や仲間達に『謝罪』する必要もないみたいね!」
スカジは顔を上げ、私の目をまっすぐに見る。
「……ありがとう、サティーナ。そして、みんな!」
その顔は晴れやかで、『勇者』の責務から解き放たれたようだった。
「サティ様は、なれたんだね。 みんなを救える、本当の『勇者』に……」
その後、引き続き『魔王』として『世界』に君臨すること、『世界』と友達になって『エルドラド』と名付けたこと、『欲求』や『種族補正』は廃止することを報告した。
けれども……
「嫌っ!!」
『種族補正』によって、身体の変化が引き起こされる。『クロノシア侯爵領』の領民が『魔族』になってしまったのが、それだ。
「ペルセポネ、なぜ、『種族補正』の廃止に反対するの?」
ペルセポネが、身に着けていた指輪……『エルフ族の宝珠』を手放そうとしないのだ。
「……だって、これのおかげで、伸び悩んでいた『魔法の威力』が上がるのですわ!手放すのは惜しいのですわ!!」
『魔法』のことになると、ペルセポネは人が変わってしまう……いや、結構いろんなことで、人格が変わってるような気もする。
「サティーナ様。ペルセポネの提案にも、一理あります。我々は、この『エルドラド』で大変な思いをしました。ならば、なにか得る物がなければならないと考えます!……『種族補正』を、無害な形で活用することはできないでしょうか?」
アルテミスに諭されるとは。
確かに、今回の『労力』に見合った『報酬』が欲しいところ。
「わかったわ!ペルセポネ、エルドラドに掛け合って、『種族補正』を有効に使えるように調整してみるわ。例えば、各『宝珠』を身に着けている時だけ、効果があるとか、どうかしら?」
ペルセポネは、私に向き直る。
「ありがとう!サティーナ!」
髪の間から覗かせる、エルフ特有の長い耳が可愛らしかった。
「……サティーナよ、オレは決めたぞ!」
話し合いも一段落したところで、スカジが声を上げ、ズカズカと私の近くに歩み寄る。
そして、スカジは私の右手を取り、真剣な眼差しで見つめる。
「お前を、オレの『嫁』とする!!」
……はいぃぃぃっ!?
「なぜ?唐突に?『嫁』って!?」
スカジは頬を掻きながら、照れ臭そうに話す。
「……いや、その、お前って『強い』じゃないか!……いや、腕力とか、そうゆうのじゃなくて、なんていうか……『心』が!」
私は、頭が真っ白になる。
「もう、後悔はしたくないんだ!だから、オレの『嫁』になってくれ!!」
スカジの突然の『求婚』の混乱から立ち直った、私は周囲を見回す。
「葛葉様。玉藻様が見当たらないようなんですが?」
葛葉様は、気まずそうに私に説明する。
「……その、主殿が気を失っている最中に、どこかへ立ち去ってしまったみたいでござります。葛葉達は主殿が倒れて、玉藻どころの話ではなかったので……」
私は、ショックを受ける。
確かに玉藻様は……『開放状態』の葛葉様は、葛葉様の『良くない面』として、忌み嫌う人もいる。
でも、私にとっては『封印状態』の葛葉様と共に、陰陽術の師匠であるし、私の幼少期の数少ない理解者……姉のような存在なのだ!
「……そんな……玉藻様」
私は、耐え難い喪失感を覚えた。
私の頬を、なにか熱い物が流れる……私の、涙か!?
「……葛葉様、『封印解除』」
寂しさのあまり、私は、いつもの『合言葉』をつぶやいていた。
その時!
「……ふぁぁぁ、久々の『開放』だな。サティーナよ、妾を忘れた訳ではあるまいな?」
葛葉様から煙が放たれ、艶やかな『開放状態』の葛葉様に変化する!
「玉藻様?……葛葉様と、また『同化』したのですか?」
私の問いかけに、ポカンとする『開放状態』の葛葉様。
「玉藻、とは、誰のことだ?」
今度は、私がポカンとする番だ。
「この『世界』に来てから、葛葉様……『封印状態』の葛葉様と『分離』が起こり、玉藻と名乗っていたのではないのですか!?」
私の問いに『開放状態』の葛葉様は答える。
「いや?妾の出番は、ここしばらくなかったではないか。メタ的には、ルシファーと初めて戦った時から……というか、ここは何処だ?」
私は、唖然とする。
「……じゃあ、玉藻様とは、だれだったんだろう?」
謎を残して、私達の『鉄壁魔都』の話は幕を閉じるのだった。
メモリに追加:スカジは屈強な女戦士。『エルドラド』においては、ドワーフ族の『勇者』として認知されている。一人称は「オレ」。北方の女神『スカジ』の権能を持つ。




