『鉄壁魔都』第11話・護るべき民
やっと、頭痛が治まってきました。
私、アルテミスは『魔王』を見ます。
「……『魔王』。あなたは、私の『何』ですか?」
『魔王』は、一瞬だけ悲しい顔をしました。
しかし、笑顔で話し始めます。
「……そうね。あなたは、今『女騎士』と『女領主』の記憶が混在して、記憶障害を起こしてるのかも知れない。そして『女勇者』の責務と『正義』の『欲求』に苛まれている」
……『正義』の『欲求』!?
「アルテミス、冷静に聞いてほしいの。私達は、いずれの『過去』においても、仲良く暮らしていた。そして『現在』も、この世界において問題を起こしていない。ならば『仲直り』することは、できない?」
確かに『過去』と『現在』に問題がなければ、争う必要はないかも知れません。
しかし『未来』は!……そう『正義』の心が囁くのです!
「あなたは『魔族』の他に『上級魔族』と言える存在を『召喚』して、この世界に圧力を掛けている!その暴挙を、私の『正義』の心が許さない!!」
『魔王』は頭を振り、穏やかに否定する。
「……誤解よ、アルテミス。『上級魔族』……『ソロモンの悪魔』は、領民の『暴走』を抑えるために、そしてこの世界の住民との『接触』を避けるために『召喚』したのよ」
私は、権能の覇気をまといます!
「そんなこと、口では何とでも言える……『魔王』よ!私に、あなたの『正義』を見せなさい!!」
「くっ……アルテミス!」
『魔王』は『大鎌』を『召喚』する。
私は、さらに権能の力を高めるために、口上を述べます。
「我は、女神『アルテミス』の加護を受けし者!
闇を切り裂く、一筋の月光!
この世に仇なす『魔王』よ!
守護神『アルテミス』に代わって、仕置きつかまつる!!」
私は光を屈折させる。それは分身のように姿をブレされる。
そこにフェイントを織り交ぜながら、『魔王』との距離を詰める。
これで、多少は『魔王』の『時間停止』に対抗できるはずです!
「甘いわ!『大鎌』の特徴は『間合いを制する武器』!!」
ブオーーーンッ!!
『大鎌』が空間を薙ぐ。
ただそれだけで、光の屈折が霧散してしまいます。
ならば、その内側に飛び込むべきでしょう!
……しかし!
ガツンッ!!
「……驚きました。刃の反対側……石突きでの防御も良くできています。鍛錬の賜物ですね」
権能や『種族補正』などで膂力は底上げできますが、技術は誤魔化しが効かないのです。
「……そう。『教育者』が、優秀なのよ」
そう言って、なぜか『魔王』は優しい笑みを向けるのでした。
その時!『魔王の城』の床が、崩壊します!
私と『魔王』は、階下に落ちていきます!
気が付くと、私は『魔王』を抱きしめ、倒れ込んでいました。
背中が凄く痛い……『魔王』を落下の衝撃から庇った!?
「!!……アルテミス、あなた!咄嗟に私を庇ってくれたの!?」
『魔王』が驚きます。私も自分の行動に驚くばかりです!
その時、外から声が聞こえてきます。
「『魔王様』、お許しください。『魔王の城』が氷漬けになったり、ヒビが入ったりするのが見えて、居ても立ってもいられず、来てしまいました」
「ご無事ですか『魔王様』?我々ができることは限られていますが、あなたのお役に立ちたいのです!」
「ちゃんと『ソロモンの悪魔』さんに、守ってもらいながら来たよ!」
それは、たくさんの『魔族』でした。
……いいえ!
「領主様!こちらに、いらしたのですか?」
「アルテミス様、よくぞご無事で……いや、怪我をしてるのでは!?」
「アルテミスさま!アルテミスさまが行方不明で、僕は不安だったんだよ!」
侯爵領とは名ばかりの、本当に小さな領地でした。
角や、牙や、爪が生えても、領民ひとりひとりの顔は覚えているつもりです。
『クロノシア侯爵領』。それが私が守るべき、領地と領民でした。
「……みなさん、心配をかけました。私は……少し怪我をしていますが……無事です!」
私は、『魔族』となって変わり果ててしまった領民達の、変わらない笑顔に包まれました。
「思い出したみたいね、アルテミス」
『魔王』……いえ、我が『主』が言います。
「はい、サティーナ様……記憶が混乱していたとは言え、主に対して無礼を働きました。この命に代えましても償いたく存じます」
サティーナ様に向き直り、騎士の礼を捧げます。
不意に、剣の腹で、肩を軽く叩かれました。
「我が忠実なる騎士・アルテミスよ!
あなたの剣は、誰のために振るわれる?」
それは『王国』式の『忠節の儀』。
「……はい。我が主、サティーナ様のために振るわれます!」
サティーナ様は微笑み、私に告げます。
「……そう、よろしい」
ボクこと、ニョルズと『朱雀』様による、スカジさんとの戦いは膠着状態となっていた。
『朱雀』様の炎の攻撃と『炎の再生』の権能で回復してしまうため、スカジさんの体力が削られているようだ。
「……はぁ、はぁ。最初に戦った時は『クイズ』などと、手を抜いていたな?こんなに厄介な相手だとは!」
『ほっほっほっ!あの時は「時間稼ぎ」が任務だったのじゃ。おぬしら六人相手だと、この老いぼれには荷が重かったのでな』
『朱雀』様を侮ったスカジさんは、まんまと長期戦に誘い込まれてしまったのだった。
……あれ?これボク必要ない?
「……なめやがって!オレは『魔王』に『復讐』するまでは、止まるつもりはない!!」
スカジさんが、権能の覇気を高める!
「オレの権能は『雪山の女神』!『冬の厳しさ』を司る権能!!」
次第に周囲が凍結していく!ボク達も『夏』の権能を高めなくては!
「……お前達、震えたことはあるか?」
しかし、スカジさんの圧力が強くて、氷結が止まらない!!
「……強大な敵に打ちのめされたこと、ひとり孤独に戦ったこと……仲間や家族を皆殺しにされたこと!!」
スカジさんは、何を言ってるんだ?
「そんなこと!『魔王様』には……サティ様には関係ないでしょう!!」
……もしかすると、元の世界の記憶?
「関係ある!オレの『復讐』を遂げることで、この世界は救われる!……この『ドワーフ族の宝珠』が、オレに『復讐』するための力をくれるのだ!!」
『宝珠』は『種族補正』と『欲求』を高める効果がある?
『欲求』を刺激された者は、過去の記憶がネジ曲がってしまう?
「『魔王』に『復讐』することが、オレの全てだ!!」
そして『欲求』に従うのが正しいと誤認する。
これでは『魔族』も『勇者』も変わりないではないか!
「それを阻む、お前達を倒す!!」
スカジさんはバトルアックスを振り上げ、ボクに振り下ろす!
……ボクの身体は、真っ二つに引き裂かれた。




