『鉄壁魔都』第9話・スカジの権能
『魔王の城』にて、『魔王』との決戦が繰り広げられています。
私達『勇者パーティー』は、渾身の攻撃を繰り出しました。
しかし、物理攻撃は『魔王』の鎧が、属性攻撃は『四天王』の球体が防いでしまう。
「『勇者』諸君よ!この『魔王』に勝てるかな!?」
体勢を立て直した私達に、スカジが告げます。
「ペルセポネ、周囲に氷雪を撒いてくれ!みんなは援護を!一か八か、オレの権能に賭けてみる!」
『北の四天王』と戦った時に、スカジが思い出した権能。それを、この場で再現しようと言うのです。
ペルセポネは氷結の魔法を唱えるために、魔力を練り上げます。
私は剣から月光の弓に持ち替え、他のみんなも援護の体勢を取ります。
「なるほど。我に敵わないとみて、隊列を変えるか。それもまた良し!」
「『魔王様』、お気を付けください。近接武器がスカジさんのバトルアックスだけなんて、異常です!」
『魔王』とニョルズも何事かと、興味深げです。
「さあ、スカジ!この『魔王の城』を覆う、氷の結界を作りましょう。『春の女神』が去りしとき、大地は氷雪に覆われる!!」
それは『春の女神』の『再解釈』!!
女神『ペルセポネ』が、地上に訪れている間は冬の寒さが遠退くように、冥界に帰るときには冬が訪れる。
ペルセポネは、この伝承を氷結魔法に落とし込み、威力を底上げしているのだ!!
「ありがたい!ペルセポネ!!」
ペルセポネの宣言通り、玉座は氷結し、『魔王の城』を氷漬けにしていきます。
「オレの権能は、女神『スカジ』!雪の上を自在に進み、氷の上で優雅に踊る女神!!」
スカジが、権能の覇気をまといます!
そう。女神『スカジ』とは『雪山の女神』!
雪や氷の上を自在に渡る女神であり、人間にスキーやスケートを教えたとされています。
「いくぞ!『魔王』!!」
スカジの巨体が、滑るように床を駆けていきます!
「くっ!なるほど『スカジ』の権能には、そのような効果もあるのだな!?」
スピードに乗った、バトルアックスが『魔王』に襲い掛かります!
「こいつで、どうだ!?」
スカジのバトルアックスが、『魔王』の玉座を真っ二つに切り裂きます!
……しかし、『魔王』が見当たりません!!
「……危なかった。ニョルズも居たから、『禁じ手』……『時間停止』を使ってしまった!」
「『魔王様』、死ぬかと思いました!!」
なんと、我々の後ろ。この部屋の入り口付近に移動しているではありませんか!!
そして『時間停止』?……うっ、頭が!?
「アルテミス殿!『魔王』の『時間停止』ならば、魔法や遠距離攻撃を密にすることにより、防げまする!スカジ殿を援護するために、我々の力を結集しましょうぞ!」
「わかりました。葛葉様!……我が守護神『アルテミス』よ!我が友の行く末を、月光で照らしたまえ!」
続いて、ペルセポネが。
「スカジ!氷の道は、維持しますわ!あなたは前を向いて、『魔王』に集中するのですわ!」
ルシファーが、光と闇の魔力を矢のように放つ。
「『魔王』の力は並大抵ではない。しかし、見たところ『属性魔法』しか防げない様子!我の力ならば、無効化するのも難しいと見える!」
玉藻様が、葛葉様に語り掛ける。
「葛葉よ!妾達の力を皆に見せようぞ!狐火の幻覚で、スカジを援護するのだ!」
「わかり申した、玉藻の!主殿、申し訳ないが今回は出し惜しみなしでござりまする!!」
周囲に無数の狐火が舞い、それぞれがスカジの幻覚を映す!
『勇者』達の連携攻撃が、再び『魔王』に向かう。
「よし、これで『時間停止』は、できまい!皆、オレが『魔王』に近づく隙を作ってくれ!いま一度、力を合わせるんだ!」
遠距離攻撃と魔法が交錯し、『魔王』に『時間停止』の権能を使わせない!
スカジは、雪上での機動力を活かしながら、反撃の機会を狙う!
「スカジの強みを、前面に押し出すスタイル。こちらは防戦一方で、手が出せない。本来、俊敏な戦士に有効な魔法のバラ撒きも、スカジの防御力の前では意味もない」
『魔王』は、私達の連携に舌を巻いているようでした。
しかし、一瞬の思案の後『魔王』は動き出しました!
「ならば!これはどうかな!?」
なんと!先ほど否定したはずの『魔法のバラ撒き』を始めたのです!
その威力は凄まじく『権能で強化された魔法』かも知れません!
私の月光の矢や、狐火の幻覚、ルシファーの光と闇の矢は、バラ撒かれた魔法で相殺されてしまいます。
しかし……
「この程度の魔法など、オレには通じないぞ!」
スカジの防御力は『魔王』の魔法を、ものともしません!!
『魔王』は、苦し紛れの『魔法のバラ撒き』を行った……誰もが、そう考えた、その時!!
ガクンッ!!
スカジが足を取られ、転びそうになります!
「……まさか!『魔王』、これがお前の狙いか!?」
スカジは何かに気付き、『魔王』も笑って答えます。
「……ふふふ。そうだ!あなたに『魔法』が、効かないのは百も承知!ならば、あなたが滑る氷の床を攻撃したまでよ!」
先ほどまで氷雪で覆われていた床は、炎魔法で溶けかかり、爆発魔法や土魔法でデコボコに穴が空いています!
「スカジ!今、氷を張り直すわ!」
ペルセポネが魔力を集中しますが、デタラメに撃つだけの『魔王』に早さで勝てません。
「どうだ!『勇者』諸君よ、スカジよ!我に降伏する気になったか?」
『魔王』は、余裕を見せています。
しかしスカジの目は、まだ死んでいません!
「……『魔王』よ。オレは、まだ諦めない!オレをこの場に導いてくれた、全ての者の期待を背負っている!それが『勇者』なんだ!!」
スカジは助走を付けたあと、おもむろに飛び上がりました。
そして、なんと『壁』に着地して、そのまま滑り出します!
「くっ!そんな、曲芸みたいなことを!!」
『魔王』の『魔法のバラ撒き』が迫りますが、スカジは『壁』から『天井』、そしてまた『床』を滑りながら『魔王』に迫ります!
そして『天井』を蹴り、その勢いでバトルアックスを振り回します!
「『魔王』!これが、オレと仲間達の究極の一撃だ!!」
私達も『魔王』の『時間停止』を警戒して!援護の遠距離攻撃や魔法を放ちます。
「くっ!魔界の王『サタン』よ、我が盟約に応えよ!
我は欲する!圧倒的暴力に逆らう力を!
盟約に従い、我の肉体を強化せよ!!」
切羽つまった『魔王』は、権能による『自己強化』を行う。
『権能を持つ者』すなわち『人間』ならば、出力不足となりやすい『自己強化』ですが、それが『根源』ならば……
『魔王』の肉体は盛り上がり、『大鎌』を構えてスカジを迎え撃とうとしています!
「『魔 王 ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ っ !!』」
「 ス カ ジ ぃ ぃ ぃ ぃ っ !! 」
スカジのバトルアックスと『魔王』の『大鎌』がぶつかる!!
その圧力に『魔王の城』が崩れ始め、土埃が舞う!
土埃が収まり、スカジが倒れているのが見えます。
「スカジ!大丈夫ですか!?」
私達は、スカジに駆け寄ります。
「……あぁ、オレはなんとか……『魔王』は!?」
土埃が完全に晴れた、次の瞬間!!
「……ふふふ、見せてもらったぞ!『勇者』スカジの魂の一撃!!」
『魔王』は、まだ、その場に立っていました!
「くっ、オレの一撃は、お前には届かなかったのか!?」
悔しそうに、吐き捨てるスカジ。
私達は、『魔王』の攻撃に身構えます!
「……いや、そうでもないぞ?」
バキンッ!!
大きな音と共に『魔王』の兜が割れ、装甲で覆われた顔が露わになりました。
その顔を見た瞬間、私は激しい頭痛に襲われます!
そして、スカジは驚きと共に『魔王』につぶやきます。
「……お前は、だれだ!?」




