『鉄壁魔都』第4話・魅了されたエルフ
私とスカジは、エルフ族の都に向かっています。
エルフ達を刺激しないために少人数で向かうことと、『魔族の都』の偵察を葛葉様と玉藻様にお願いしたためです。
道すがら、私はスカジに質問します。
「ヴォルフガングとは、どのような人だったのでしょうか?何度か口にしていましたけど……」
スカジは、バツが悪そうに答えます。
「前回の『勇者召喚』のときの、人間族の『勇者』だ。『勇者パーティー』のリーダー的存在で……『魔王』の攻撃から、オレを庇って戦死した」
なるほど、昔の仲間の名前だったのですね。
「すみません。知らぬ事とは言え、辛い過去を思い出させてしまいました」
私は、スカジに詫びます。
「……いや。こちらこそ、すまなかった。オレは、昔の仲間に貴殿らを重ねていた……しかし『魔王』が蘇った今、仲間達の『復讐』を果たさなければ……その思いがオレを突き動かすのだ!」
その言葉に、私の『正義』の心が熱くなるのを感じます。
「スカジ、私の『正義』の心をもって、あなたと共に歩みます!必ずや『魔王討伐』を成し遂げましょう!」
私はスカジの手を取り、目を真っすぐに見ます。
「……あぁ、あぁ!この世界のため、『魔王』のために散っていった『勇者』達を慰めるため、共に力を尽くそう!!」
そうです!この世界の人々に害を成す『魔族』。そして『魔王』を許すことはできません!
私の『正義』の心に誓って!!
エルフの都に向かう途中、森が不穏な空気をまとっているのを感じます
「この静寂……何か、おかしいな。気を緩めるなよ、アルテミス」
森が、不気味なくらい静かなのです。
「ええ。エルフ族の領地なのにエルフ族と合わない。遠くから、息を潜めて監視されている?そのような感覚ですね……急ぎましょう!ペルセポネの『欲求』は危険です!」
深い森を抜けた先に広がる湖。その中央に浮かぶ島には、エルフ族の都が佇んでいました。
新緑と白亜の石材が織りなす調和は、まるで『城』のようであった。
「……遅かったか」
エルフの都の中心部。おそらく族長達が会議をする区画なのでしょう。
ペルセポネを中心に、大勢の若く美しいエルフ族が侍っていました。
私は呆れながら、ペルセポネに問い質します。
「久しぶりですね、ペルセポネ。あなた『魅了』の魔法でエルフ達を虜にしましたね?『勇者』にあるまじき行いだと思いませんか?」
ペルセポネは悪びれもせず、妖艶な笑みわ、浮かべながら答えます。
「あら、アルテミスではないですの。久しぶりですわ。わたくしが何をしようと、他人が口を挟むことではないわ。この『支配』の『欲求』が湧き上がる限り、抗うのもまた愚か……」
ペルセポネは、コレクションを見せびらかすように腕を広げる。
「ご覧なさい、この美しきエルフ達。彼らは、わたくしに忠誠を誓い、わたくしの側で満たされているのですわ!『勇者』としての責務だなんて、そんな退屈なことは、もうどうでもいいのですの!」
エルフ達は、無表情でペルセポネに従っている。
黙って見ていられずに、スカジが口を開く!
「ふん、これはどう見ても『魔族』の所業だ。ペルセポネ、お前は、これが正しいと思っているのか?『勇者』の誇りはどうした!?仲間を『支配』して自らの『欲求』を満たすなど、リュミエールなら許さないはずだ!!」
スカジの言葉に、訳知り顔で応えるペルセポネ。
「リュミエール?……なるほど、あなたが前回の『勇者パーティー』の生き残り……『勇者』の誇りなんて、まだそんなことを言ってるの!?」
ペルセポネは、ため息をつきながら話し始めます。
「……あなた達ね、いくら『魔族』や『魔王』が現れたからといって、自分達では何もせず『召喚した勇者』にすべてを託すなんて、どうかしてるわ!」
!!……ペルセポネは、いったい……何を?
「まずは、自分達が『魔族』に立ち向かう努力をすべきじゃないかしら?……試しに『魅了』の魔法を掛けて回ったけど、防げたエルフは、ほんの一握り。失望したわ」
た、確かに、魔法を扱う者なら『支配系』の魔法対策はすべきでしょうが……
「あと『種族補正』!これは、確かに身体を最適化してくれるけれども……」
ペルセポネの髪の間から、エルフ族特有の長い耳が見えます。
「『魔王討伐』後のことを考えたら、『勇者』の血を種族に取り込む『仕組み』とも考えられるわ!……そこの所はどうなのよ?ドワーフの『勇者』さん!?」
いきなり話しを振られた、スカジは驚きながら口籠ります。
「オ、オレは……そこまで、考えては……」
その様子を見て、ペルセポネは確信を得たように話します。
「ドワーフの『勇者』、あなたも薄々感じているように、この世界は歪んでいるわ!そして『欲求』!!」
『欲求』に、何かヒントがあるのでしょうか?
「スカジ、『欲求』とは何なのでしょう?確かに私の仲間では、玉藻様やペルセポネは、身勝手な性格だ。しかし、私やスカジは『欲求』による『暴走』が見られない。『魔王を倒し、世界に平和をもたらす』という任務に、忠実であると感じます」
そう、私の『正義』の心に誓って!
「 確かに、オレ達は『欲求』に囚われていないように感じるな。だが、それがなぜなのかはわからん。もしかしたら、オレは仲間を失った悲しみと『魔王』への『復讐』という使命に燃えている。それがオレの『欲求』を押し留めているのかも知れん!」
ペルセポネは、やれやれといった感じで肩をすくめる。
なんだか、ペルセポネのペースです。
「……あまり使いたくなかったのですが、やむを得ませんね」
私は、ペルセポネに向き直ります。
「ペルセポネ、あなたは、エルフ族やその領地がどうなるか知ってますか?『魔族の都』から来る『魔族』に『支配』されてしまうのです。あなたのお気に入りのエルフ達が『魔王』によって奪われるのです!あなたは自身の所有物を奪われて、満足なのですか!?」
そうです。ペルセポネの『支配欲』を煽るのです!
ペルセポネの目が一瞬大きく見開かれ、動揺が表れる。
「……何ですって?エルフ族が……奪われた……ら?たしかに、わたくしによって一瞬で制圧されたエルフ達でも、誰かに奪われるなど、到底許される話ではないわ!」
その瞳に不安と怒りが交錯するが、すぐに冷笑に変わる。
「うふふふ、アルテミス。あなた、わたくしの『欲求』を掻き立てようとしているのかしら?けれども、その程度の言葉では足りない。わたくしの『欲求』がどれほど深いか、あなたたちは、まだ分かっていないのですわ!」
失敗でしょうか?私達は身構えます。
「わたくしから何か奪うなんて、許せるわけがない!逆に、わたくしは『魔族』を……いや『魔王』を手に入れ、この世界をわたくしの意のままにしてみせる!そのためなら……どんな力でも使ってやるわ!」
『討伐』すべき『魔王』を手に入れる!?
なんだか、目的が違うような……
「……よ、よし、これでやっと、ペルセポネが本気になったようだな。『支配』の『欲求』に動かされる形でも、こちらに引き入れれば上出来だ。アルテミス、うまくいったな!」
スカジが、スルーしようとしています。
「……ええ、動機は不純ですが、本気になったペルセポネほど、心強い者はない!」
私も、スルーしておきましょう。




