『鉄壁魔都』第1話・種族補正
ここは人間族の都のようです。
都の広場では、人々がざわめき、緊張感が漂っています。
『魔王』の復活がもたらした混乱が、街全体に影響を与えているようです。
私、アルテミスは『召喚』されたばかりで、まだ状況を把握していませんが、『勇者』としての誇りと使命感を胸に抱いています。
「くっ!……『勇者』?私が?」
『召喚』されてから、頭痛に悩まされています。『過去』を思い出そうとすると、頭が痛いのです。
「私は、アルテミス。私は『女騎士』?それとも『女領主』?」
まるで、二つの記憶が混在するかのよう。
『アルテミス、私が世界を手に入れようとするならば、あなたが私を殺しなさい!!』
『かしこまりました。あなたの行動の全てを見定め、侵略の意志があるのならば、私が、あなたを殺します!』
不意に、過去の情景が思い出されます。あれは、誰との約束?
「どうしてこんなことに。異世界に『召喚』されただけでなく『魔王』だなんて……だけど、私は『勇者』です。何があろうと、この使命を果たさなければ!」
私は『正義』の心を奮い立たせ、頭痛と記憶の混濁を吹き飛ばします。
そこに、重々しい足音が近付いてきます。
「あなたは!その風貌、まさかドワーフ族の『勇者』か?……私はアルテミス。人間族の『勇者』として召喚されました」
長身で筋肉質な体躯と鋭い目つきの、ただ者ではない雰囲気を放っている女性が現れました。
「人間族の『勇者』アルテミスよ!いかにも、オレはドワーフ族の勇者スカジだ!」
『スカジ』。こちらにも権能があるとすれば、北方の神話に登場する『雪山と狩猟の女神』です。女神『スカジ』は巨人であったと……なるほど、鍛え上げられた肉体は権能が影響しているのかも知れません!
「……貴殿には、迷いの気配を感じる。迷いのある者に、オレの背中は任せられない!」
迷い。この頭痛の正体は、迷いなのか!?
「スカジ!私は『勇者』の使命を誇らしく思っています。私の『正義』の心に誓って、『魔王』を討伐します!」
私は声を張り上げ、否定します!
「……口では、なんとでも言える。『誠実さは、行動で示せ!』……ヴォルフガングなら、そう言う!」
スカジの覇気が膨れ上がる。
「ドワーフ族の秘宝・バトルアックスよ!オレの呼び掛けに応えろ!!」
バトルアックス。無骨な大斧が、空間を裂いて召喚される!
「さあ!貴殿の実力を見せてみろ、人間族の『勇者』アルテミス!」
私も、権能の圧力を高めます!
「我が守護神『アルテミス』よ!我に月光の輝きを、我の意志を貫く力を!!」
スカジは、バトルアックスを軽々と担ぎ、私との距離を詰めます!
「オレの一撃を受け止められるかな!?」
その重量、腕力、慣性……それらを、まとったバトルアックスが唸りをあげて振り下ろされます!
「くっ!!」
ガツーン!
私の剣とスカジのバトルアックスが合わさり、火花が散る!
……辛うじて、いなすことができました。
「ふふふ、気付いたようだな。この世界では『種族補正』が入る。元々人間族の貴殿ならば、単純な強化と言えよう」
『種族補正』!?……なるほど、この世界の理に順応する必要がありそうです。
「ならば今度は、こちらからいきます!」
私は、地を蹴り、飛び上がる。
スカジの背後を取り、剣を振り上げる!
「……スカジ!もらいました!!」
しかしスカジも、さる者。バトルアックスを軽々と持ち上げ、盾のようにして防ぐ!
「……その『膂力』!女神『スカジ』の権能だけではないですね?……まさか、ドワーフ族の『種族補正』が上乗せされているのですか!?」
私の問いに、スカジはニヤニヤしながら答える。
「人間族の『勇者』アルテミスよ、なかなかの洞察力だ!!……いかにも、『勇者』の証として皆にもらった『ドワーフ族の宝珠』……これにより身体が最適化されて、ドワーフ族としての『種族補正』を手に入れることができるのだ!!」
バトルアックスに、埋め込まれた宝石が輝きます。
私も、族長達にもらったネックレスを見る。
『人間族の宝珠』。これが『種族補正』の『根源』!!
「女神『スカジ』の権能、ドワーフ族の『種族補正』。これらが絶妙に噛み合っている……強い!」
スカジは向き直り、バトルアックスを肩に掛ける。
「さあ、アルテミスよ!オレに敵わないのならば、『魔王』討伐など、夢のまた夢……真の実力を見せろ、アルテミス!!」
私は後ろに飛び退き、月光の弓を召喚する。
「……剣がダメならば弓か?失望したぞ、アルテミス!……ヴォルフガングは、そんな事をしない」
「なんとでも言うがいい!この弓こそ、守護神『アルテミス』と、我が『主』から賜った力だ!!」
月は……出ていない!権能の覇気を高めるため、祝詞を唱える!
「我が守護神『アルテミス』よ!
我に力を与えたまえ!
敵を貫き、我が意志を示す力を!!」
権能の高まりに、スカジの焦りが見える!
「ぬぅ……なんという圧力!だが、オレの絶対の防御を貫けるかな!?」
バトルアックスを持ち上げ、防御の体制をとるスカジ。
「くらえ、我が奥義!月・光・砲ぉぉぉっ!!」
月光の矢は、スカジに直撃する。
しばらくして、土煙が晴れる。
「……貴殿の本気は見せてもらった。だけれど、まだまだだな」
驚くべきことに、スカジは健在でした。
「アルテミス、貴殿は権能に頼りすぎている。この世界では『種族特性』を重視すべきだ!オレは『ドワーフ』であり、フィジカルが最大限に強化される。それに対して『人間』……可もなく不可もなくといった所だな」
その時、スカジの頬に傷が入ります。
「!!……まさか、権能を囮に、斬撃を加えていたのか!?」
私は、冷静にスカジに告げます。
「権能は確かに強力だけど、それだけに頼るつもりはない。私も騎士として培った、戦術と技術を忘れてはいないつもりです!」
スカジは、その場にアックスを下ろし、戦意を収める。私は認められたのでしょうか?
「……ふふふ、思った以上だ。貴殿は、ただの『人間』じゃないのだな。権能も剣の技術も使いこなしている」
スカジは、右手を差し出す。
「貴殿の覚悟は分かった。アルテミス、貴殿を『勇者』として認めよう!」
私も、右手を差し出し、握手します。
「ありがとう、スカジ。さあ、一緒に『魔王』の元へ向かいましょう」
こうして、私は『魔王討伐』の心強い味方を得たのでした。
ここは『魔族の都』の郊外に急遽造られた『魔王の城』。
「ニョルズ、特殊な魔力を浴びた者は『魔族』となってしまうようだ。ほぼ全員が『魔族』となったと考えるべきだな?」
『魔王様』が、ボク、ニョルズに問いかける。
「はい。『上級魔族』の皆さんにより、『都』の中心部に集められています。なんでも『欲求』を増幅され、『暴走』している方が多いのだとか」
ボクの報告に、考え込む『魔王様』。
顔を覆う兜のせいで表情はわからないけど、皆さんを心配しているのかも知れない。
「全域に展開した『結界』を通じて、皆に語りかける。すぐに準備せよ!」
「はい、かしこまりました」




