『神魔双刻』第2話・ルシファーの審問
その時、天から突然、灰色の髪と翼を持つ者が舞い降りる。
「おお、人間よ!人の身で生前の『神格化』とは、聞き捨てならぬ!……このルシファーが主に代わり、お前の罪を裁こう!!」
『天界』の大天使・ルシファーである。
ルシファーは冷笑を浮かべ、玉座の間を見回す。
「……多少、腕が立つ者を集めたからと言って、思い上がったと見える。お前の配下達が、本当にお前を崇拝しているのか、あるいはただの恐れからか……」
突然の大物の登場に、私はかしこまりつつも、毅然と反論する。
「お初にお目にかかります、ルシファー。少々、誤解があるようですね。まず、この者達に対する非礼を詫びてください!彼女らは、みな、私への『優しさ』から忠誠を誓ってくれているのです!私にとって得難い、大切な『仲間』なのです!!」
私の語気に、ルシファーは目を剥く。
「あなたの要件は私の『神格化』だったはず。私の話を聞く気があるのなら、みんなへの無用な挑発は控えてもらいたいですね?ルシファー」
ルシファーは地上に降りることなく、空中に留まったまま告げる。
「ふん、誤解と申すか。よかろう。配下の者たちへの非礼を詫びるとしよう。我もまた、忠誠とは何たるかを理解している。彼女らが真に、お前への忠誠を誓っているのであれば、それを尊重せねばならぬ」
『人間なんかと目線を合わせない』……天使特有の見下した態度なのかも知れない。
「さて、『神格化』の話に戻ろう。人間が『神格化』し、神々の領域に踏み込むことなど、傲慢の極み。お前が、どれほどの権能を持とうとも、神の位に立つなど、神聖なる秩序を乱す行為。神々がそのような冒涜を許すと思うのか?」
ルシファーは、挑戦的な目で私を見つめる。
「歴代の国王は、条件に当てはまっている場合、死後に神々によって『神格化』が行われ、神の座につきます。王国法の条文を見る限り、生前に『神格化』してはならない、との記述はありません。ですが、私は生前の『神格化』の前例が無い以上、慎重に取り扱うつもりでいます」
私は自分の立ち位置を、ルシファーに伝える。
「人間が神となることがどれほどの重みを持つか、お前は本当に理解しているのか?その覚悟があるのか?我はそれを確かめに来たのだ。お前の言葉だけではなく、行動を見せてみよ!」
私は、ルシファーに違和感を覚えつつ、説得を続ける。
「『言葉だけではなく、行動を見せてみよ』とは、まさしく『私が成した功績』によるものです。『神格化』について、『王国法』では以下の条件が課せられてます。
・【主神級】以上の権能の所持:これは、最初から【主神級】以上を所持していても構わないし、自分の権能を名声によって強化する方法もある。後者の場合は自分の名前を世に示すことにより、叶うのだから『本人の行動』によるものですね。私の場合は、残念ながら『サトゥルヌス』継承時点では、【人格神級】まで落ちてました。後述の『私の行動』によって【主神級】以上に至ることができたのです。
・政治的な功績:アルテミスと成した『強制労働と差別を廃止する法律』が評価されています。また、その他の政策や、議会の設置なども功績と言えるかも知れません。
・軍事的な功績:クーデターを鎮めた軍功が評価されています。特に次世代を担う、ハーデスを無傷で奪還したことが大きいですね。また、隣国である『聖国』の侵攻を許し、一時、王権を奪われましたが、これを奪還して恒久的な和平を結びました。
あと『あちらの世界線』では、アルテミスの領地を守るために中央・右・左の王国軍騎士団、ならびに近衛騎士団を相手に、相手方の損失半数以上の戦果をあげ、撤退させました。こちらの軍功は、あなたの主なら知覚できることですので、敢えて話しました。
これらが、あなたの言う『私の行動』に当たらないのかは、わかりませんが、王国法においては『神格化』の条件に当てはまるのです」
そしてルシファーに、私は問う。
「ルシファー、あなたは勘違いしておいでです。『王国法』は、神と国民の間を王族が取り持ったことから始まる法律であること。つまり『神格化』の条件は、あなたの主を含む、神々も了承してることなのです!……あなたの、この訪問は、あなたの主はご存知なのですか?」
ルシファーは、私の質問を鼻で笑いながら返す。
「……我の訪問も、お前への警告も、すべて主のためにある!主の意を汲むのが、本当の『忠誠心』であろう?」
そうだ。ルシファーの行動は、私が知っている神々の行動とは違う。
大天使・ルシファーは、本来、金色の髪と神々しい翼を持つという……しかし、今はどちらも灰色!
「ルシファー。私は、あなたの主に対して敬意を払い、使者であるあなたにも、丁重な対応を心がけています。
しかし、私の『仲間』を挑発したり、
『王国法』が『神と人間との契約』であることをご存知でなかったり、
私の平行世界における功績を知覚してなかったり、
そもそも私の『サトゥルヌス』が【絶対神級】であるのに私の権能を侮ったり、
私がメモリに収まらないからって記述してない権能に思い至らなかったりするのは、
明らかに不信です!
……再度問います、あなたの主は、この訪問をご存知なのですか?あなたの言動は、あなたの主の意思なのですか?」
逆に、人間世界への過干渉は、天界では『堕天』と判断されてもおかしくない!!
ルシファーの顔に、憤怒が表れる!その目は狂気に燃えている!
「人の身で、何を言うか!我が主の意思を曲げるなど、ありえない!我は常に主の意志に従い、その言葉を実現するために動いている。お前ごときが我を疑うなど、許されることではない!」
大天使としての威厳は完全に失われ、ルシファーは、ただ憤怒に駆られた存在となっている。
「お前は、我の『忠誠心』を疑い、主の意思を侮辱した!そのような行為は許されない!主の名において、今ここでお前を裁く!!」




