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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第6章・女騎士アルテミスと神魔双刻の女王様
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『王国再編』第10話・大鎌と魔力貫穿

 いつもの靴磨きの場所に、ニョルズの姿はなかった。




 お昼前の、王都の目抜き通り。商人が声を張り上げ、馬車が行き交い、パン屋からは焼きたての香ばしい匂いが漂ってくる。


 しかし、私の視線はひたすら、靴磨きの子どもがいるはずの場所を探していた。


「ニョルズ……」


 胸に違和感がひっかかる。何かあったのか? それとも、たまたま今日は休みなのか?


 昨夜、ニョルズは自分の名前の由来を知り、少し誇らしげだった。それならば『公共事業』に応募したのかも知れない……あるいは過去との決別?


「……まさか、『講習会』!?」


 思考よりも先に、足が動いていた。


『講習会』や講師のエリスは、国外に渡る目途が付いたと言っていた。それが、私の()()()()であり、ニョルズが昨夜、正式に退会を申し出ようとしていたら……




 私は『講習会』の会場へ向かい、扉を押し開けた。しかし、受付にも誰もいない。


 時間外とはいえ、昼前なら誰かいてもおかしくない。室内は、しんと静まり返っていた。


 だが、それ以上に気になったのは、開け放たれた奥の扉だった。


 ……嫌な予感がする。あの向こうに、何かがある。


 私は、奥の扉の中へと、足を踏み入るのだった。








 ここは……倉庫かしら?『講習会』で使う教材の棚を抜けると、開けた空間に出た。


 視界に入ったのは、幌付きの馬車が数台。荷台には鉄格子がはめられ、その奥に、微動だにしない影が見えた。


 ……子どもや女性!?どの顔も虚ろで、夢見心地のように焦点が定まっていない。


 耳を澄ますと、荷台の近くから微かな物音がした。誰かがいる……


「ニョルズ!!」


 声を張り上げると、そこに一緒にいたのは……


「……あら、誰かと思えば、サティさん。本日の講習会は、まだ始まりませんよっ!」


 講師のエリス。その瞳が、不気味な光を帯びる。


 ……しかし、私には『サトゥルヌス』の権能がある。『支配』系の権能は通じない。


「……これは『認識阻害』の権能!?」


「やはり、あなたには効かないのね……一体、何者なの?」


 私は、エリスを真っ向から見据えた。白粉に掛けた『運命改変』の効果を解く……


「王国に混乱をもたらす講師エリスよ、余の顔を忘れたかっ!!」


 エリスは一瞬驚いたが、すぐに冷笑を浮かべる。


「まさか『女王陛下』ご自身が、お出ましとは……だけど、あなたの可愛い子羊は、もう私の手の中よ?」


 しまった! ニョルズを人質に!?


「ふふふ……『落第生』だったニョルズさんに、一晩かけて『補習』を施したの。私ってば、教育者の鑑でしょう?」


 ニョルズの瞳を覗き込む。大きく見開かれた瞳孔。頬を伝った涙の跡……それらが、必死に抗ったことを物語っている。


 エリスは、嗜虐的な笑みを浮かべ、私に命じる。


「さあ、この子の命が惜しいのなら、自ら手錠をはめて、あの檻の中に入りなさい!」


 なるほど。『認識阻害』の権能を、受講者に少しずつ掛けていたのね。


 『支配』や『洗脳』とは違い、強制力がないからこそ気付かれにくい。しかも、『思想』の誘導なら『サートゥルナーリアの大結界』にも引っかからない……


 そして『講習会』。社会から弾かれた子どもや女性を集め、他者との繋がりを断たせることで、彼らの『居場所』を、ここに限定する。


 孤立した者は疑問を抱かなくなり、『エコーチェンバー』の中で『思想』を刷り込まれていく。


 『女王批判』も、そのための道具にすぎない。重要なのは『噂話』が広がることであり、内容の真偽は関係ない。むしろ、多くの人が受け入れにくい話題ほど、議論と反発を呼び、世間と受講者の間に壁を作る。


 孤立し、居場所を失った者は、やがて彼らの言いなりになる……それが狙いなのね!




「何をぐずぐずしているの?……この子がどうなってもいいの?」


 エリスの冷たい声が響く。その瞬間!!


「この童子は、もらっていくぞ!」


 葛葉様が解放状態で現れ、ニョルズをさらう!


「『女王様』、お待たせしました」


「あらあら。わたくし達を抜きにして、楽しそうですわね?」


 アルテミスとペルセポネが、私の側に立ち、エリスを警戒する。それぞれの情報網を駆使し、駆けつけたのだった。


「くっ!『女王』の手下か……みなさん、奴らは我々の『自由への旅路』を阻む敵です!力を合わせ、排除しましょう!!」


 檻から子どもや女性たちが降り立ち、戦闘態勢を取る。


「『女王様』、ここは私達が……」


「彼女達は被害者よ。できるだけ傷つけないように!」


 三人は頷き、峰打ちで次々と受講者を無力化していく。







「ふふふ。守るべき『女王』を放置するとは、愚かな『従者』ね」


 エリスの嘲笑に、私は首を振る。


「違うわ。私は、自分の身は自分で守れるって、『仲間』に信じられているのよ!」


「……聞き捨てならないわね!私が脅威じゃないとでも!?」


 エリスは目を見開き、権能の覇気を纏う。


「不和の女神『エリス』よ!我が魔法を強化し、かの者を穿て!!」


 それは、闇の魔力の圧縮!『権能で強化された魔法』だった!


「くっ!『強化された魔法障壁』!!」


 ペルセポネとの特訓の成果。私は、魔法障壁を展開し、辛うじて防ぐ。


「ふふ……面白い。この程度なら防げるのね」


 エリスは、腰の鞘から剣を抜き放つ。それは細身の刺突剣……レイピア!


「ならば、我が剣の冴えを喰らうがいい!!」


 鋭い突きが襲いかかる!私は『サトゥルヌス』の『大鎌』を召喚し、迎え撃つ!


 ガキーーーンッ!!


 一瞬の接触!エリスは『大鎌』の威力を相殺するために飛び退く。


「そのような大振りの武器、私に通じると思わないことね!」


 だが、大鎌の威力を侮ってもらっては困る。


「この質量に、レイピアが耐えられるかしら?」


 私の勝ち誇った声に、エリスは不敵に笑う。


「あまり私を舐めないことね!……女神『エリス』よ!我が剣に、敵を穿つ力を!!」


 闇の魔力がレイピアに纏わりつく。


「……まさか!?」


 次の瞬間、私の頬を何かがかすめる!……刺突!?


「これが私の奥の手、『魔力貫穿(アルケ・ランス)』!!」


 魔力を纏った突きは、威力・速度・間合い……すべてが強化されている!


「くっ……!」


 『強化された魔法障壁』を展開しながら、必死に大鎌を振るう、が!!


 ガゴン!!


 私の『大鎌』が、魔装のレイピアに弾き飛ばされる!!


「ふははは!私を甘く見た『従者』達を恨むことね!!」


 エリスが間合いを詰め、圧力をかけてくる。


「さあ、遊びは終わりよ『女王様』!」


 エリスはレイピアを構え、突進してくる!


 私の『魔法障壁』の内側で、必殺の突きを放つつもりだ!


 私は、苦し紛れに『大鎌』を振るう。


「そんなもの!弾くまでもない!!」


 エリスは『大鎌』の軌道を読み、掻い潜るように接近する!


「これで、終わりよ!!」


 エリスが渾身の突きを放とうとした、その時!


 ガツン!!


 エリスの鳩尾に、『大鎌』の刃の反対側……石突きがめり込む!!


「なっ……馬鹿な……!」


 苦悶に歪むエリスの顔。彼女はそのまま崩れ落ちた。


 アルテミスとの特訓の成果。『大鎌』の基礎動作が、私を勝利へ導いたのだ。







 エリスが倒れると同時に、『認識阻害』の権能が解けた。


 ニョルズの目から霧が晴れ、私を見つけて駆け寄る。


「もう、サティに会えないのかと思った……もう、一人ぼっちは嫌なんだ!」



 震える声。私は、ニョルズの背後にいる『講習会』の参加者たちを見渡し、心の底から語りかける。


「……あなた達が見捨てられていたのは、政治の責任。どうか許してほしい」


 深く、頭を下げる。私の謝罪が、彼女らの傷を癒すものではないと知りながらも。


「でもね、あなた達は必要な存在なの。人は、ひとりでは生きていけない。だから……もし辛いことがあったら、遠慮せずに言ってちょうだい」


 静寂。


 やがて、ニョルズが目を大きく見開いた。


「そんな!サティは頑張ってた!ボク達が、それをわかってなかっただけなんだ!!」


 その瞳は、まっすぐに私を捉える。


「サティ……いや、『女王様』!ボクを、あなたの『従者』にしてください!」


 ……あぁ、やっぱり『女王』だって、バレてたんだ。


 アルテミスが、思わず口を挟む。


「『女王様』の『従者』とは、それはもう大変な栄誉なのでは!?」


「アルテミスは、黙ってて!!」


 しょんぼりする、アルテミス。


 私は微笑みながら、ニョルズに向き直る。


「ニョルズ、私の『仲間』になるためには、訓練や講習を受けて、厳しい基準をクリアしなければならないの……それでも、覚悟はある?」


「はい!『女王様』!」


 ニョルズは、眩しい笑顔で返事をしたのだわ。







 それから数ヶ月後。


 『女王様』の側には、従者となったニョルズの姿がありました。


 その様子を見て、私、アルテミスは眉をひそめます。


 なぜかニョルズは、スカート丈が妙に短い、ふりふりの侍女服を着ているのです!


「厳しい基準とは……そういうこと?」


 今日も、ニョルズは脚が綺麗です。


 『女王様』とニョルズは、満足げに微笑み、物語は幕を閉じるのでした。


メモリに追加:ニョルズは、ユーザーの従者。脚が綺麗で、スカート丈が短い、ふりふりの侍女服を着ている。一人称は「ボク」。北方の女神『ネルトゥス』の権能を持つ。

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