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人の書〜エルドラド建国記〜  作者: 水井竜也(仮)
第6章・女騎士アルテミスと神魔双刻の女王様

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『王国再編』第9話・エリスとの論戦!

この作品の税金の仕組みは、フィクションです。

一応、念の為に、お断りさせていただきます。

 王都の目抜き通り。ここは、いつも賑やかだ。


 ボクは、いつもの場所で、ぼんやりと靴磨きの道具を広げていた。


 何も考えずに手を動かすのは得意だった。けれど、今日は違う。


 昨夜のことが頭をよぎる。何故、あんな言い方をしてしまったのだろう……


 パン屋の前に昼食を求めて列ができる頃、ふと声を掛けられる。


「こんにちは。いつも此処で靴磨きしてるの?」


 思わず顔を上げる。サティだった。


「……来ないんじゃないかと思った」


 思わず、呟いていた。


「あら、ごめんね。日課があってね」


 途端に、昨夜から抱えていた寂しさが、少しだけ和らいだ気がした。




 サティは呼び込みを手伝いながら、人通りが少なくなると、靴磨きの仕事についてボクに質問した。


 単なる興味かもしれない。でも、それが『ボクを理解しようとする行動』に思えた。


 だから、ボクもずっと気になっていたことを聞くことにした。


「ねえ、なんで靴磨きって税金を払わなくていいの?」


 そう。ボクは自分の仕事のことすら、よく知らなかった。


 エリス先生に「靴磨きは尊い仕事」だと教えられ、ただ、がむしゃらに技術を磨いてきた。それだけだった。


 サティは少し考え込むと、わかりやすく説明してくれた。


「うーん、そうね。税金を集めるにもお金が掛かるのよ。徴税するにはギルドに依頼するか、店舗がある職業なら民税と一緒に徴収しなきゃいけない。でも、靴磨きみたいにギルドに属さない仕事は、徴税コストのほうが高くつくから免除しているのよ」


「コスト……」


 税を集めるのに、税金が必要。そんな単純なことにすら、ボクは考えが及んでいなかった。


「それにね、靴磨きや金物回収、花売り、マッチ売り、内職なんかは、少し訓練すればできる仕事として優遇されている面もあるの」


 サティの言葉には、どこか優しさがあった。


「……ニョルズ、あなたが望むなら、靴磨きじゃなくて、靴職人として修行したほうがいいと私は思うわ」


 ボクの腕が認められた気がして、少し嬉しくなる。確かに、多少の綻びなら修繕できる自信もある。


 ……でも、それが本当に、ボクのやりたいことなのか?そう考えると、違うような気がした。




「ねえ、王宮の復旧作業で、なんで『聖国』の戦士たちがあんなに厚遇されてるの?」


 ボクは、昨日の『講習会』で感じた疑問を口にした。


「ああ、それはね。彼らは『聖国』のお金で働いているの。それだけじゃ申し訳ないから『王国』として炊き出しなどで、お礼をしているのよ。それに『王国』の騎士達や『公共事業』に参加している国民も、同じ待遇で働いているわ」


 なるほど……でも、エリス先生の言ってた事と違う。どっちが本当なんだろう?


 ボクが首を傾げていると、サティがそっと横に寄ってきた。そして、耳元で小さく囁く。


「……これは内緒なんだけどね、王宮が壊れたのって、『聖国』の宰相のせいなのよ。だから、律儀な『聖国』の戦士達は、その償いをしてるの」


「えっ!?」


 それって、ボクなんかが聞いていい話なの!?


 驚いて顔を上げると、サティはいたずらっぽく笑って、人差し指を唇の前に立てる。


「しーっ。ナイショよ」




 18時の鐘が鳴る。シチューの美味しそうな匂いが漂ってくる。


 今日の仕事は、終わりにしよう。


「ボクは、今日も『講習会』に行くけど……」


 サティにも聞いてみる。『講習会』に良い印象がないサティは来ないと思った。


「……私も、行くわ!!」


 しかし、サティは強い決意の目を、ボクに向けたのだった。







 いつもの『講習会』の会場へ向かうと、ちょうどエリス先生が教壇に立ち、話し始めるところだった。


「みなさん、ついに希望の日が、訪れようとしています!国外での、受け入れの日が決まりました!希望者は後で名乗り出てください!もちろん、我々『講習会』は引き続き、この地でみなさんのサポートを行います。まだ、決心がつかない方も安心してください!」


 ついに、ボクが待ち望んだ日が来た……そのはずなのに、なぜか迷っている自分がいる。


「……やっぱりね」


 サティが、隣で小さく呟くのが聞こえた。


 エリス先生は、ボク達に最後の講習を始めるつもりらしい。


「思えば、この『王国』では、借金に苦しむ国民を『女王』は見て見ぬふりをしている……」


 その瞬間。サティが無言で手を上げた。


「はい、ええと……サティさん?」


 ニヤニヤと笑いながら、サティがゆっくりと立ち上がる。


「はい、エリス先生!『女王』は、借金で困っている国民のために、国庫で一時的に肩代わりする制度を作りましたよね?それ、なんで『講習会』では教えないんですか?」


 そんな制度があるなんて、知らなかった!!


 確かに、借金で困っていた人達に、エリス先生は教えなかった!!


「……そのような制度は、確かにあったかもしれません。しかし!『女王』が酷いのは、それだけではありません!!労賃の高い仕事は、税金も高く設定されています!!」


 反論しながら、エリス先生の声が少しだけ上ずる。


 サティは、余裕たっぷりに立ったまま、もう一度挙手する。


「はい、エリス先生!『女王』は、クーデターの鎮圧祝いで減税してますよ?それに、消費税も宰相の意向で取ってませんよ?」


 た、確かに!!最近パンが安くなってるのって、消費税がかかってなかったからなの!?


 エリス先生は、明らかに動揺しながら吠えた。


「ぐぬぬ……あの空に浮かぶ『結界』!『女王』は、あれを使って国民を支配しようとしている!!」


 しかし、サティは余裕の表情を崩さず、ゆっくりと手を上げる。


「はい、エリス先生!あの『結界』こそ、『強制労働と差別を廃止する法律』の象徴です。『自由』と『自立』を促す『サートゥルナーリアの大結界』……『世界の強制力』が働き、『女王』であっても不可侵ですよ?」


「な……!」


 『女王』よりも上位の存在……それが、あの『結界』なのか!?


 狼狽するエリス先生を見据えながら、サティはさらに挙手する。


「エリス先生、質問です。なぜあなたは、『貴族や王族と一般国民の差』について語らないのですか?」


「!?」


 場の空気が凍りつく。


 貴族や王族こそ、その『差』を秘匿しているはずでは!?


「『女王』は明言しています。『貴族や王族と一般国民の差』は、『権能を使えるかどうか』にあると。その知識を共有するために、『女王』は『ペルセポネ・アカデミー』を設立しました」


 確かにそうだ……貴族や王族は『権能』を持つことが多い。単純な力比べでは、ボク達が勝てるはずもない。


「だからこそ、あなた方がすべきことは、『権能』の知識を共有すること……そうよね?神話に謳われる女神『エリス』の名前を持つ、講師さん?」


 エリス先生も『権能を持つ者』ってこと!?


 ……だけど『権能』について、エリス先生から聞いたことがない!!


 サティは、一拍置いて、鋭く問いかける。


「あなたの『講習会』は、本当に『民のため』なのですか? それとも、この『講習会』の目的は別にあるのですか?」


 エリス先生は、顔を引きつらせながら叫んだ。


「わ、私が女神の名前を持つからといって、『権能』に詳しいわけではないわ!!」


 その言葉を待っていたかのように、サティはゆっくりと笑う。


「そうですか。それでは、もう一つ質問を……」


 サティは再び挙手し、会場を見渡しながら言い放つ。


「この『講習会』は、受講料を取っていますよね? 王族の搾取を批判する一方で、あなたは民から金を取っている。……それって矛盾していませんか?」


 エリス先生の顔色が、一気に青ざめる。


「誰か!その部外者をつまみ出しなさい!!」


 『講習会』の関係者が、こちらに向かってくる。


「……行こう、サティ!」


 ボクは、サティの手を引き、急いで会場を後にした。







 ジェラートを食べるな!の階段と噴水のある広場。


 この広場では、階段に腰掛けることも禁止されている。


「……サティ、ボクはまだ混乱している。信じていた『講習会』の主張が、正しいわけじゃなかったんだ」


 逃げてきたせいか、サティの頬は紅潮し、それでもどこか晴れやかな笑顔を浮かべていた。


「いいえ、ニョルズ。私が言ったことも、正しいとは限らないわ。私はただ、王宮側の主張を伝えただけ。どちらを選ぶかは、あなた達、国民が決めることよ」


 そうだ。サティが教えてくれた。何でも鵜呑みにするのではなく、自分で考えることが大切なんだ。


 ふと、『講習会』の人達やエリス先生の顔がよぎる。


「……だけど、『講習会』は……エリス先生は、ボクに優しかったんだ……両親のいないボクを親身になって……ボクは、両親のことも、よく覚えてないのに……」


 ボクの両親は、ボクが小さい頃に亡くなっている。


「……ニョルズ」


 サティは、そっとボクを抱きしめ、優しく告げる。


「覚えておいて。あなたの名前、『ニョルズ』は両親からの贈り物よ」


 ボクは驚いて、サティの顔を見る。


「『ニョルズ』は、北方の神話に登場する、海の神の名よ。長く厳しい冬を乗り越え、短い夏に海の恵みと豊穣をもたらす存在……あなたのご両親は、そんな『ニョルズ』のように、どんな困難にも負けず、あなたの未来が豊かでありますようにと願ったのよ!」


 ボクの名前が、神様の名前だったなんて……!


「一般の国民が、神々の名を知るのは難しい。きっと、あなたの両親も苦労したはず……でも、その名前こそ『権能』を使うための条件なのよ」


 ボクに『権能』が?ボクは両親に、愛されていた……?


 涙が止まらなかった。ずっと、一人ぼっちだと思っていた。


 でも……ずっと近くに、父さんと母さんがいてくれたんだ。


 ボクが泣き止むまで、サティは側にいてくれた。


 少し恥ずかしくなってサティから、そっと離れる。


 だけど、サティの目を見て、はっきりと宣言した。


「……サティ!ボクは決めたよ!この名前に誇りを持つって!!もう、名前なんか要らないなんて言わない!」


 サティは微笑み、優しく頷く。


「その調子よ、ニョルズ!」







 サティを見送った後、ボクには向かうべき場所があった。


 『講習会』。エリス先生に、別れを告げるためだ。


 だが、まだ早い時間だというのに、『講習会』はがらんとしていた。


 ……暗がりの中に、人影がある。エリス先生……?


「ふふふ、逃げた子羊が戻ってくるなんてね」


 その時!エリス先生の目が、怪しく光る!




 次の瞬間、ボクの意識が遠のいた……


「……サ、ティ……女、王……さ、ま……」


 ボクが覚えているのは、そこまでだった。

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