女従者アルテミスと絶対遵守の女王様・第5話
「ねぇ、アルテミス!私と立場を入れ替えて欲しいの!」
我が主は、時々、よくわからないことを言います。
「えーと『女王様』?それでは、この話のタイトルを『女国王アルテミスと絶対遵守の侍女様』に、書き直さなければならないってことでしょうか?そして、メモリも書き換えなければなりません」
「なに、メタいこと言ってるのよ!『時系列が訳わからない』って周りから言われて、書き直しているところなのに!」
閑話休題。
「……ごほん!あなたは、私の権能である『サトゥルヌス』について、どれくらい知っているのかしら?」
『サトゥルヌス』神。我が主の権能なので勉強し直しましたが、『王国』においては、その記述が少なく『忘れ去られた神』という印象です。
「正直なところ、あまり詳しくはありません。『クロノス』神と同一視されていたとか、『ユピテル』神に主神の座を譲ったとか」
「……そうね。『サトゥルヌス』は『クロノス』と同様、『時間』や『運命』や『農耕』の神だと言われているわ。そして特徴的なのは、その祭典『サートゥルナーリア』よ」
『サトゥルヌス』神と『クロノス』神は、信仰されていた時代や場所が違うだけだと思っていました。
「『サートゥルナーリア』は、冬至の頃に行われる祭典で、他の冬に行われる祭の原型になったと言われているわ。その内容は、奴隷に自由を与えたり、主従関係が逆転したり、プレゼントを贈ったりしたそうよ!」
「なんていうか、ちょっと社会が混乱しそうな、お祭りですね……」
奴隷が解放され、従者が主人になる。そんなことをしたら、普段、主人に恨みがあれば……あっ!
「気付いたようね。確かに、無秩序な祭典かも知れないけど、私には『主人は、従者や奴隷を大切に扱うべき』という教訓が含まれているように感じるわ!」
なるほど。弱き者をいたわる心を教えようとする神様なのかも知れません。
「聡明で、優しい神様のような気がしてきました!」
「……自分の子ども達を食べてしまうのだけれどね」
「ヒッ!?」
……つまり「立場を入れ替える」ということは?
「私と、立場を一時的に入れ替えて、『サトゥルヌス』の権能の完全掌握を手助けして欲しいの」
そして、私は『女王様』の『ご主人様』になりました。
「……意気込みはわかるのだけれど、私が侍女服を着る必要はあるのかしら?」
「とても、似合っていますよ?」
「……本心かも知れないけど、聞く人が聞いたら不敬罪よ?」
そうでしょうか?機能的で動きやすそうです。
「あと、言葉遣いも直していただかないと!仮にも私は『ご主人様』ですよ?」
「……かしこまりました、『ご主人様』。さっそく、『サートゥルナーリア』の権能を使いますね?」
『女王様』から『サトゥルヌス』の権能が渦巻く。
あっ、『女王様』では、ありませんでしたね。私も言葉遣いをそれっぽくしないと。
部屋のドアがノックされます。
「……失礼します。お紅茶を、お持ちしました」
「『侍女』よ、やり直し!」
「えっ!何でy……どうしてでしょうか、『ご主人様』?」
これは「紅茶」に「お」は過剰な丁寧語ですね。これは例えば、「紅茶」と言うこともできるし、「お茶」としても良いでしょう。
言葉やマナーは時代によって変わると思いますが、『この場』では、過剰に指摘して『侍女』をイジメることが目的です。
「『侍女』よ、どうぞお座りなさい。一緒にいただきましょう?」
「……はい、『ご主人様』。いただきます」
『侍女』は、ティーカップの飾り取っ手に指を入れる。
「『侍女』よ、やり直し!」
「えっ!何d……どうしてでしょうか、『ご主人様』?」
露◯先生で見たヤツ!飾り取っ手には指を入れてはならない!!
言葉やマナーは時代によって変わると思いますが、『この場』では、過剰に指摘して『侍女』をイジメることが目的です。
「『侍女』よ、焦らなくても良いのです。少しずつ、学んでいきましょう?」
「……はい、『ご主人様』。申し訳ありません」
「『侍女』よ、やり直し!」
「えっ!なn……どうしてでしょうか、『ご主人様』?」
少し厳しいようですが「申し訳ない」で1単語と言われています。私も「申し訳なく存じます」などと使っていますが、これは間違ってるのでしょうか?古の情報網によると「申し訳ないことでございます」などという真偽不明の言葉も!誰か教えてください!(露骨なコメント稼ぎ)
言葉やマナーは時代によって変わると思いますが、『この場』では、過剰に指摘して『侍女』をイジメることが目的です。
……そう、『侍女』をイジメることが目的です。
アルテミスの様子がおかしい。言葉遣いが辛辣になってきた。
それに『サートゥルナーリア』を、制御できてない感覚がある。
『お前さん、お前さん!!』
「『サトゥルヌス』!!どうして此処へ!?」
急に声をかけられて驚く。声の主は『天界』にいるはずの『サトゥルヌス』だった。
『アルテミスの嬢ちゃんに、異常が起きているようなのじゃ。「サートゥルナーリア」の中ならば「天界」から干渉できると思うてな』
「ありがとう。でも、アルテミスの異常って何?」
『おそらく、儂の「悪い印象の信仰」が、アルテミスの嬢ちゃんの身体を乗っ取ろうとしているのじゃ!』
そう。『サトゥルヌス』で有名なのは『あの名画』。
『あの名画』には罪はないけれども、少なくとも此処にいる『サトゥルヌス』は、気のいい『おじいちゃん』のような存在だわ。
『……なんか、儂のことを「おじいちゃん」だとか思っとらんかな?』
「めっそうもない!!」
人々の印象によって『神』も色々な面を持ち合わせる。
『皇国』の考え方だと、『荒魂』と『和魂』と言うらしいわね。
だけれども『悪い印象の信仰』をどうやって、退ければ?
『お前さん、「運命」を司るの権能を使うのじゃ!アルテミスの嬢ちゃんから、二人で「悪い印象の信仰」を追い出すのじゃ!』
「わかったわ!『サトゥルヌス』!」
二人で『運命改変』の権能を使う。
どんな形でもいいけど、二人なら、『両手の付け根をくっつけて、軽く指先を曲げながら前に突き出す』ポーズが良いかしら?親子がやるやつ!
『良いか、お前さん!息を合わせて権能を使うのじゃ!』
「わかったわ!いくわよ!」
私達は『運命』を司る権能を練り上げる!
「『サー、トゥー、ルー、ヌー、スゥゥゥッ!!』」
『運命改変』の権能は、アルテミスにぶつかる。
「ぐぅ、がぁぁぁぁ!……食わせろぉ!食わせろぉぉぉ!!」
怖っ!もっと権能の力を高めないと!!
「『サトゥルヌス』!私にもっと力を!我が友、アルテミスを救う力を!!」
『……我が友か。お前さんも、成長したようじゃな』
なんだか『孫』を見る『おじいちゃん』のような穏やかな笑顔。
『……儂は、お前さんに救われたのじゃ。人々に忘れ去られて、「神格」も【人格神級】に落ちておった。あの頃は荒んでいて、思い出すのも嫌なのじゃ』
人々の信仰が影響し、堕落する神様もいる。
『じゃが、お前さんは見捨てなかった。今度は儂が、お前さんの完全掌握を助ける番じゃ!!』
「『サトゥルヌス』……ありがとう!私は、あなたに因んだ名前を授けられた事を、誇りに思います!!」
そう言われて『孫』に甘い『おじいちゃん』は、気恥ずかしそうに咳払いをする。
『……ごほん!それに、アルテミスの嬢ちゃんからも、聡明で優しいって褒められたからのう!』
権能の光が弾け、アルテミスを包み込む。そして、
「……申し訳なく存じます」
「アルテミス、無事で何よりよ!それに、『サートゥルナーリア』に異常が出たのは私の責任。あなたは、よくやってくれたわ!」
私や『サトゥルヌス』に手間を掛けたと落ち込むアルテミス。
私は姿勢を正して、アルテミスに向き直り、告げる。
「我が、忠実なる騎士、アルテミスよ!
あなたの献身により、
私は【主神級】の『権能』である『サトゥルヌス』を完全掌握しました。
この功績を称え、『王国十字勲章』を授与し、
あなたを『王下十字騎士』に任命します!!」
メモリに追加:ユーザーは『サトゥルヌス』を完全掌握した。
アルテミスは『王下十字騎士』の称号を手に入れた。