『聖国襲来』第3話・伝説の悪魔
ここは『荒れ果てた領地』の、北の山地の廃坑跡。
突然の『聖国襲来』に、間一髪で王宮を逃げ出した、私と葛葉様。
『聖国』の不自然な点を話し合った私達は、共通の結論に至る。
「ミトラ王よりも、クロノスの方が危険なのではないかと考えられます!」
葛葉様が試すように、私を見つめる。
「……して、お前は、どのように『王位』を取り戻すつもりだ?」
「基本方針として、あちら側の『権能を持つ者』を引き離す必要があります。アルテミス、ペルセポネ、ハーデスを、こちら側に引き込むのです。ひょっとしたら、ペルセポネは……」
葛葉様は、頷いている。ここまでは『正解』ということか。
「……ですが、王宮は『聖国』の戦士達と、もしかしたら『支配』された『王国』の騎士達によって守られています。それに対抗するには、新しい仲間達が必要です……葛葉様、『ソロモン王』について、ご存知ですか?」
「『ソロモン王』については、妾も聞いたことがある。彼は、古代の伝説的な王であり、『72柱の悪魔』を従えたことで有名だな」
私は頷き、私の遠い先祖のことを紹介する。
「同様に『王国』の初代国王も、ソロモンの名を授かり、偉大なる『ソロモン王』の権能を使い『72柱の悪魔』を従えたと言います」
葛葉様は、昔の思い出が蘇ったのか、目を細めて私の話を聞いている。
「そして、ソロモン王が従えたとされる『72柱の悪魔』を呼び出す、契約の指輪『ソロモンの指輪』は、私の左手人差し指にあります!」
私は『ソロモンの指輪』に強く念じる。
「古の契約をもて、我に姿を見せよ!パイモン!バルバトス!」
周囲の闇が集まり、二つの魔法陣になる。しかし……
「人手不足を補うために、常時召喚してたのが裏目に出たかしら?……もしかしたら『聖国』側に取り込まれたのかも……」
「それだと、妾達の予想外れではあるな」
呼び出した、二柱の悪魔が、なかなか姿を現さずに焦る。
しばらくすると、上空から声が聞こえてきた。
「お待たせ、おねえちゃん!!」
パイモン君とバルバトスは、魔法陣の上に降り立つ。
「魔界からの召喚だと魔法陣に現れるけど、現世では転移できないんだ。ごめんね」
「……そうなのね。苦労をかけたわ」
何か、本当に、ごめん。
「……この者たちが『ソロモンの悪魔』なのか?」
何故か、臨戦態勢の葛葉様!
「ちょっと、葛葉様!この者たちは既に掌握済みです!」
警戒を解く葛葉様と、王宮の様子を報告するパイモン君。
「おねえちゃん!王宮の文官や騎士達には、抵抗しないように言って回ったよ。『戦争』の定義がわからなくなった、今、下手な抵抗は『戦争行為』と判断されかねないからね!」
パイモン君の判断は正しい。普段、寡黙なバルバトスも必要があれば、ちゃんと発言することはわかっているしね!
「『女王様』は必ず戻る!戻った時が反撃の時だ!と言って回ったけど……『結界』が、赤くなって……」
私は、ハッとして、空を見上げる!
「赤い『結界』だって!?そういや、やけに赤い!!(コラ画像)」
『王国』を包む『サートゥルナーリアの大結界』が赤く光っていた。普段は温かな金色なのに……
「……これは、『結界』を利用して『支配』を強めているのではなかろうか?」
「はい。クロノスならば、そのように利用するかも知れません」
事態は着々と変化している。私達も急がねば!
「みんな、良く聞いて!これから、残りの悪魔を召喚していくわ!掌握の手順は、それぞれの悪魔で違うけど、戦闘になることもあるから、力を貸してほしいの!」
私は、みんなに確認を取る。
「承知した!」
「はーい!!」
「……わかった」
異口同音に返事が返ってくる!
私は『指輪』を構える。まずはコイツね!
「古の契約をもて、我に姿を見せよ!」
周囲の闇が渦巻き、魔法陣を形作る!
「……!!」
「ちょっと!おねえちゃん!?」
稲妻を放ち、突風が吹き荒れる!!
「これは!……面白い!!」
それは『王国』創設の立役者!初代国王・ソロモンの象徴!!
「300年だ。もう、休暇は十分に楽しんだでしょう、ソロモン王の魂よ……さあ、目覚めの時よ!!」
それは時に、嵐の神『バアル・ゼブル』と同一視され、
それは時に、蠅の王『ベルゼブブ』と同一視される!!
『我の眠りを妨げる、愚か者は誰だ……
ふん!「同胞」の権能を持つからと言って、
我を支配できると、思い上がったと見える!!
……我を、誰と心得る!?』
その悪魔の、権能の覇気が渦巻く!!
私は、臆することなく睨み返して、告げる!!
「 バ エ ル !! 」
一方、『王国』の王宮、玉座の間。
玉座に座ったミトラと、クロノスが対峙している。
「『サトゥルヌス』の継承と『王位』の確保が終わったわけか。貴殿も、ご苦労だったな、クロノス殿」
「いえ。『計画』通り、何もなく、幸いでありました」
クロノスが『王国』の統治の状況について、報告する。
「ミトラ様、『王国』を覆う結界を使い、国民の『忠誠心』を高めています。もう、まもなくすれば、各地で起こっている抵抗も、なくなるかと思います」
しかし、ミトラは不安を口にする。
「……だが、貴殿の妹が、逃亡したことが気がかりだ」
クロノスは、プライドが傷付けられたように感じた。
「『皇国の女狐』葛葉をも、従えていたのは誤算ではあります。しかし我が妹は、はっきり言って『しぼりカス』です。こちらには『権能を持つ者』アルテミス、ペルセポネ、ハーデスがいます。それに、私の『サトゥルヌス』、ミトラ様の『太陽神』の権能……」
クロノスは、窓の外の赤く染まった『サートゥルナーリアの大結界』を見る。
「さらには、それをこの『王国』の国民の『忠誠心』を利用して『真のサートゥルナーリア』を行うことによって、強化することができるのです!今、着々と国民の『忠誠心』を高めています!!『真のサートゥルナーリア』の儀式まで、今しばらくお待ち下さい」
『太陽神』の強化と聞いてミトラは、一瞬、虚ろな目になる。
しかし、次の瞬間には、目を輝かせて喜ぶ。
「……おお!『真のサートゥルナーリア』の儀式が成功すれば、我が『太陽神』の権能は、さらに増すことだろう!そのためには、国民の『忠誠心』が不可欠だ!貴殿が、そのために尽力してくれていることに感謝する!!」
クロノスは、満足気に告げる。
「ミトラ様、我々は『真のサートゥルナーリア』の準備にかかりましょう。私の権能によると『真のサートゥルナーリア』とは、冬至の前後に行われ、太陽が力を取り戻すことを願う祭典です」
「ミトラ様は、数々の『太陽神』の権能を、取り込んできました。これほど、ミトラ様を強化できる権能はありません」
そう言ってクロノスは、ニヤリと笑った。




