女従者アルテミスと絶対遵守の女王様・第4話
この作品では、神話や伝承の偉大なる存在に対しての独自解釈があります。
宗教や信仰への敬意を払いながら描写していますが、エンタメ作品として読んでいただけると幸いです。
「さあ、バトルの始まりだぜ、『女王』さんよぉ!!」
ゼウス男爵は暗雲を纏い、黒い雷が室内に迸ります。
「お下がりください、『女王様』!」
私、アルテミスは、『女王様』の前に歩み出ます。
「衛兵達よ、今こそ出あえ!王権に仇なす、不届き者を捕らえるのだ!」
しかし、衛兵達の動きは鈍い。
半分は『権能を持つ者』である、ゼウス男爵に恐れをなしているようにも見える。
それも不甲斐ないが、半分はゼウス男爵の側に立つ。
「……まさか貴様ら、『女王様』を裏切るつもりか!?」
衛兵達に代わり、嘲笑しながらゼウス男爵が語る。
「ふははは。来たるべき王族打倒に備えて、こいつらに賄賂を渡して、警備の中枢に入り込むように指示していたのよぉ……まさか『女王様』と、1対1で面会するチャンスがあるなんて、思わなかったがなぁ」
私は苦虫を噛み潰したような顔をして、ゼウス男爵と裏切った衛兵達を睨み付けます。
「……『王族』が弱まっているならば、支えるのが『貴族』や『騎士』の務め。方向性は違えど『王国』や『民衆』を想っての行動かと思えば……貴様らに『忠誠心』など、あってたまるか!!」
私は、愛用の『柄の太い箒』から抜き放ちます。
箒の正体は『仕込み剣』であり、私は、反逆者達に剣を向けます。
「『女王様』、万が一があります。あなたの『権能』は『ゼウス』が天敵!……ここは、私にお任せください!」
しかし『女王様』は、言います。
「いいえ、アルテミス。臣下の不始末は、主の責任よ。こればかりは『女王』の権威を守るために、やらせてもらうわ!」
『女王様』は、賄賂に目が眩み裏切った衛兵達を、睨みます。
「裏切り者の衛兵達よ、【頭が高い、跪け!】」
ゼウス男爵の周りの衛兵達を【命令】により、拘束します。
ありがたい。これで私は、ゼウス男爵に集中できます。
ゼウス男爵は、余裕を見せながら、アルテミスに話しかける。
「アルテミスちゃんよぉ、俺の権能は『ゼウス』、お前の権能は『アルテミス』。神話の主神である俺の『権能』に、お前が勝てるのかぁ?」
「偉大なる『ゼウス』神の名前を授けられながら、その『権能』を使いこなす努力をしてこなかったと見える……我が守護神『アルテミス』に代わって、仕置きつかまつる!」
アルテミスは、口上を言い放つことで、権能の覇気を高める!
「……言ってろ!」
吐き捨てるように言うと、ゼウス男爵は雷を放つ。
一撃必殺の稲妻が、迸る!!
……しかし、アルテミスを捕らえることはできない。
何故ならば、ゼウス男爵が放つ雷さえ、人間の思考速度で考えて、人間の反射速度で制御してから放っているから。
「なせだ?なぜ当たらない!?」
アルテミスのような者に対しては、弾幕のようにバラ撒くのが正解なのだ。
アルテミスは、ずっとゼウス男爵の眼球の動きを追っている……そして、そのすべてを見極め、ゼウス男爵に肉薄する。
「俺は、こんなことも、できるぜ!!」
さすがに雷は放てないと、ゼウス男爵も権能の力を束ねて、雷の剣を作り出す。
「少しはヤルようだな、アルテミスちゃん!しかし男のフィジカルに、女の身でかなうかなぁ!?」
ゼウス男爵に、権能の力が迸る!
不釣り合いにも筋肉が隆起して、一時的に膂力が増したように見える!!
「そら!受けてみろよ!」
ゼウス男爵は、剛剣ともいうべき力で、雷の剣を叩きつける!
アルテミスは、軌道を逸らすのが精一杯で、鍔迫り合いに持っていけない。
「ふははは、軟弱!その程度で、俺の相手が務まるか!?」
刀身は稲妻、振り降ろされる力は剛剣。
ゼウス男爵は、幾度もアルテミスに、必殺の剣を振るう!
アルテミスの剣は弾かれて、ゼウス男爵の剣を逸らすだけ……
……いや、剣の軌道を『逸らし続けている』のだ!!
ゼウス男爵も気付き、焦りの色を見せる。
「てめぇ、これが狙いなのか!?」
アルテミスは、静かに答える。
「あなたの、筋肉の収縮、呼吸、心臓の拍動……すべてが、私に教えてくれる。あなたの攻撃は、私には効かない!!」
アルテミスは、続けて言う。
「これが本物の『騎士の力』!主君に仕え、民の安寧を守る者の力!!その『忠誠心』を笑う貴様達に、私が負けるはずがない!!」
ゼウス男爵は、混乱しながら悲鳴をあげる。
「なんだと!!『騎士』?『忠誠心』?そんなものに俺は負けるのか!?……権力を手に入れるために、どんなことでもやってきた!それが、お前なんかに!!」
アルテミスは、剣を振り抜く。
「成敗!!」
ゼウス男爵は倒れ、静寂が訪れた。
アルテミスは侍女服のまま、女王様の前に片膝をついて跪いた。その姿は、騎士のようだ。
「『女王様』、このような事態になってしまい、申し訳なく存じます。また、衛兵に裏切り者が混ざっていた事も、私の管理不行き届きです」
アルテミスは顔を上げ、『女王様』の目をまっすぐに見つめる。
「それよりも『女王様』に、私の身分を偽っていたことを謝罪いたします」
『女王様』は静かに驚くも、アルテミスが、ただの『女従者』ではないことを察する。
「私は、近衛騎士団、筆頭女騎士・アルテミスです。『女従者』に扮して、陰ながら『女王様』の護衛の任務に就いていました」
アルテミスは、再び深く頭を下げる。
「任務とは言え、主である『女王様』を騙すことになったこと、謹んでお詫び申し上げます!」
しばらくの静寂の後、『女王様』が口を開く。
「顔をあげてください、アルテミス」
アルテミスは顔をあげる。『女王様』は微笑み、告げる。
「あなたの『忠誠心』を認め、感謝いたします、アルテミス。
私は今まで、あなたが騎士であったことを知りませんでした。
あなたに知らずに、無礼を働き、名誉を傷付けてしまったこともあったでしょう。
私が、こうして今日という日を無事に過ごせているのも、
あなたの陰ながらの守護があったからだと、今、思い至りました」
『女王様』は、頭を下げて言う。
「このような、至らぬ『女王様』ですが、これからも忠節を尽くしてくれると嬉しいです!」
アルテミスは、涙ながらに言う。
「……もったいない、お言葉です」
『女王様』の言葉に、私は、涙を流してしまいました。
不意に、剣の腹で、肩を軽く叩かれました。
「『王国』が近衛騎士団、筆頭女騎士・アルテミスよ!
あなたの剣は、誰のために振るわれる?」
それは『王国』式の『忠節の儀』。
「……はい。我が主、『女王様』のために振るわれます!」
『女王様』は微笑み、私に告げます。
「……そう、よろしい」
こうして、私達は正式に『主従』と、なりました。
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