『運命改変』第14話・祠をめぐる
『クロノシア侯爵領』には、大小さまざまな祠があると言われています。
これらは、古来の信仰のものと、前領主の時代に作られたものがあり、すべてを把握するのは困難です。
古い文献や領民の証言を頼りに、それらを清掃または修繕する活動を行っています。
中には、由来がわからない神や、参拝してはいけない神など、あるかも知れません。
ですが、私達としては、敬意を捧げ、信仰を奨励する方針です。
本日は、今年採れた芋と、かぼちゃを、それらの祠に『お供え』しに来ました。
馬車の御者をバルバトスさんに代わってもらい、『魔女様』と『クロノシア侯爵領』について話します。
「アルテミス、よく聞いてちょうだい。今は、領都付近しか人が住んでいないけど、外縁部のそれぞれの街に特色を持たせたいと、私は考えているわ!」
外縁部の街とは、1から12までの看板を付けた場所でしょうね。
これらは『時計盤』を模した『魔法陣』として、『サトゥルヌス』様の『時間』を司る権能と親和性があります。
そこに『農耕』を司る権能を乗せることによって、領都に居ながらにして、『クロノシア侯爵領』全体が『地力増進』の効果を得ることができるのです。
「北の玄武山の麓の街、すなわち『12時の街』は鉱山の街として復活させる。今年の冬から労働者を募って稼働させたい……ここまでは、事前に話していたわよね?」
「はい。そのための廃坑跡の視察でしたからね……何故か『山の神』と、戦うことになってしまいましたが」
あれは、私を鍛えるためだったのでしょうか?
「……ごほん!『12時の街』で産出された、鉄などの金属を精錬する街、装飾品や武器に加工する街、そして白虎道沿いの『9時の街』で行商人達に売る、という流れね!」
「なるほど。各々の街に産業を分担させるのですね!『クロノシア侯爵領』が、一丸となって、材料の調達、加工、販売までを行うのですね!」
そのような仕組みが構築できるならば、『クロノシア侯爵領』は、『王国』の経済に対して、大きな役割が持てるでしょう!
「ええ。各街が、役割をもって『クロノシア侯爵領』全体に対して寄与する。それはシステム的でもあり、有機的でもあるわ」
『魔女様』の総大なビジョンに驚愕しながら、ふと、森や川などの『自然』について気になりました。
「……『魔女様』は、『クロノシア侯爵領』の『自然』については、どうお考えですか?以前、森が豊かではないから、熊が『食い溜め』できずに『冬眠』することもできない、という話をしたかと思いますが?」
「……そうね。私達が、今、回っている東側地域は、かつて豊かな森だった。しかし、前領主時代に無計画に木を切り倒し、建材や燃料として売った。その異常さに気付いた当時の国王は、前領主を罰して、領地を取り上げた……」
『魔女様』は、水筒に入れてきた水を飲む。
「だけれども、王家直轄領となったとしても、管理が行き届かずに『荒れ果てた領地』という、不名誉な名前で呼ばれていた……つまり半分は王家の、王族の責任で、この地の『自然』は失われたのよ!王族である私には、この地の『自然』を取り戻す責任があるのだわ!!」
この人は……何故、こんなにも、全ての『責任』を、背負おうとするのか!?
私は、『魔女様』を抱きしめていました。
「『魔女様』、私は、この領地の領主であり、貴族です!この地を、より良くする責任がありますし、王族を支える義務もあります!……だから、どうか、お一人で抱え込まないでください!この『クロノシア侯爵領』は、『私達』の故郷となるのですから!」
「……アルテミス……ええ、ええ。あなたが協力してくれるなら……きっとこの地に、『私達』の故郷に、『自然』を取り戻せるはずだわ!」
私達は、目を涙で滲ませながら、抱き合っていた。
「それに、私だけではありません。『クロノシア侯爵領』の領民や、今、『お供え』に回っている『古き神々』も、『私達』を支えてくれるはずです!皆、『魔女様』と、想いは一つなはずです!」
「……そうね。私は、『私達』は、大勢の人に支えられているのね……」
馬車は、緩やかに進む。
バルバトスさんが気を使って、速度を落としてくれたのかも知れません。
次の祠に着いたので、馬車から降りて『お供え』をします。
祠に祀られている神が、現れることもあります。
その時には、その神の伝承や、昔の信仰などを聞き、メモを取ります。
ですが、大抵は遠巻きに見ているだけで、話しかけてくることはありません。
「『クロノシア侯爵領』の東側地域は、灌漑用の水路を引くことにより、『王国』有数の穀倉地帯を目指すわ!……ここまでは、既に話し合ったわよね?」
「はい。西側が工業だとしたら、東側は農業を奨励する、ということですね?」
馬車に揺られながら、東側地域の展望について話します。
「東側地域は、荒地が広がっている。これは『土』の『気』が飽和した状態。そこに、灌漑用の水路を設置することで『水』の『気』が流れ込む。そこに『サトゥルヌス』の『時間』を司る権能が合わさることにより、『木』の『気』が生じやすくなる、と考えているわ」
「なるほど。だから、灌漑用の水路の工事を優先させたのですね!」
『気』。『マナ』とも呼ばれる、『自然』のエネルギー。魔法などに活用されます。
『王国』では、一般的には、ペルセポネのように『マナ』と呼びますが、風水や陰陽道の知識を授かった『女王様』は『気』と呼ぶことを好みます。
何でも『皇国』の要人に教えを請うた、とか。
「そうすれば、農作物の成長も促進されるし、それらの『木』の『気』が、『時計盤』の『魔法陣』により『クロノシア侯爵領』全体に拡散されて、『自然』が取り戻されるはずだわ!」
「『魔女様』の構想は、『人の営み』と『自然』が調和する、そんな『クロノシア侯爵領』を目指すためのものなのですね?」
『魔女様』は、頷きながら告げます。
「そのためには、『神々』を敬い、『自然』を愛する『心』が大切だと、私は考えているわ」
馬車は、次の祠にたどり着きました。
『森の神』と呼ばれる神を祀る祠。
しかし、シダ類が茂り、鬱蒼としています!
「『魔女様』、これは……」
「さすが『森の神』ね。少しの『水』の『気』で、ここまで植物を活性化させたのだわ!」
その時、祠の方から蔓が伸びてきて、私達を拘束します!!
「くっ!!」
力強く締められ、身動きが取れません!!
そして、強大な権能の覇気を感じます!!
『……人間達よ、この森から出てゆけ!この地から出てゆけ!!』
声の主が、姿を現します!そして……
『森を切る人間を、容赦はしない!出てゆけ!さもなくば……
養 分 に し て や ろ う か !! 』




