女騎士アルテミスと王国再編の女王様・第4話
「ありがとうございます、『女王様』。そのような光栄なご提案、感激いたしますわ。それでは……
ペ ル セ ポ ネ
……・アカデミーと、名付けさせていただきますわ」
あらあら、ペルセポネさん。溢れ出た自己顕示欲が、隠せてなくてよ?
『ペルセポネに因んだ名前』と注文を付けたら、『ペルセポネ』と、私物化したような状態になってしまった!?
玉座に座る私を真っ直ぐに見て、ペルセポネは宣言する。
「『ペルセポネ・アカデミー』は、若き『権能を持つ者』たちがその力を正しく理解し、制御し、社会に貢献できるようになるための場所として、尽力いたしますわ。『教授』の助けを借りて、優れた教育と支援を提供し、この国の未来を支える人材を育成してまいりますわ!」
その凛とした姿は、かつての公爵令嬢、そのまま。
ああ、ペルセポネは、やっと本来の自分を取り戻しつつあるのね。
ふと『教授』が、私に質問する。
「失礼ですが『女王様』は、『ガイアの愛』を、ご存知ですか?」
「ブッ!!」
私は、噴き出してしまった。
「どうやら、王族の方々の中に『ガイアの愛』を提唱した『やんごとなき身分の御方』が、いらっしゃるようなのです。『我ら』は『ガイアの巫女様』だとか『始祖様』と、お呼びしています」
『彼ら』の中で、『やんごとなき身分の御方』の評価が、神聖化してるわ!止めないと!!
「それは、ちょっとイキs……
「まあ!あの『噂話』は、現実だったのですわね!?」
私の訂正を遮って、ペルセポネは感動している様子だった。
「はい!私達、知識人は『ガイアの愛』について、理解できます。しかし、船乗りたちも『確かに船が陸から遠ざかれば、船が、或いは陸が、海の中に潜っていくように見えるもんなぁ。実際は違うけど』と理解を示しました!これは『やんごとなき身分の御方』が『ガイアの愛』について語った内容です!」
『教授』は、興奮して続ける。
「知識人と船乗り。私達は、『やんごとなき身分の御方』の導きにより、立場を越えて『友人』となったのです!これを『ガイアの愛』と、呼ばずにはいられません!!」
『ガイアの愛』が、拡大解釈されている!?
「あらあら!なんて、素晴らしいのかしら!わたくし達、王族に、そのような神聖な方が、いらっしゃるのですわね!?」
「ええ……ですが『我ら』は『やんごとなき身分の御方』の正体を掴めていないのです。ですから『女王様』、ペルセポネ様、そのような『やんごとなき身分の御方』を見かけましたら、『我ら』に、お知らせください!」
『教授』は真剣な眼差しを、私に向ける。
「……『教授』、あなたの熱意、感心したわ。『やんごとなき身分の御方』について、私の方からも探りを入れてみるわね」
「『女王様』!ありがとうございます!」
まあ、嘘は、ついてないしね。
日課になった『謁見』を、玉座の間で行う。
『ペルセポネ・アカデミー』の準備も一段落して、ペルセポネも手伝ってくれている。
『意見箱』を設置したことにより、以前よりはトラブルが減っている。
その『意見箱』を設置しながら巡察していた、『アルテミスの聖剣団』の団員が、不審な人物を見つけたそうだ。
その人物が『謁見』の場に現れた。
「お初にお目にかかります『女王様』。葛葉と申しますのじゃ。アルテミス様の『聖剣団』に保護され、この場に参りました。どうか、お話を聞いていただけますでしょうか?」
異国の衣装を身に纏った少女が、正座をして頭を下げている。
その頭には狐の耳。お尻には尻尾が生えている。
私は、身震いする。何故、此処に、この人が!?
「葛葉、さま……やはり、葛葉様!お久しぶりです。私です、主殿ですよ!」
とりあえず『保護』しなきゃ!
「おや、主殿。お久しぶりでございます……ということは、ここは『王国』?どうやら、葛葉は、無事に着いたようでございまするな!」
何となく、事情は掴めてきたけど……私は、二人に指示を出す!
「二人とも、この葛葉様は、私の客人です。王宮に部屋を用意させて、しばらく滞在してもらいます!……葛葉様、どうかすべて、この主殿にお任せください。あなた様の来訪を、心から歓迎します!」
葛葉様は、私の態度に安心した様子だった。
「主殿、葛葉を温かく迎えてくださり、心より感謝いたしますのじゃ。どうぞ、しばらくの間、お世話になりまする」
私の指示を受けて、アルテミスとペルセポネが動き出す。
「かしこまりました、女王様。葛葉様のために、最上の部屋を用意いたします」
「歓迎の準備を整えますわ。葛葉様、どうか、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
葛葉様は、アルテミスとペルセポネに礼を言う。
「ありがとうございます、アルテミス様、ペルセポネ様。そして何よりも、主殿。これからよろしくお願いいたしまする」
とりあえず、葛葉様を私の部屋へ招いて、事情を聞きましょう。
「二人とも、今日の公務は、これまでとしましょう。お疲れ様でした。葛葉様、私の部屋まで一緒に、いらしてください」
私の部屋にて。
葛葉様にソファに座ってもらって、紅茶を淹れる。
「葛葉様、『皇国』の要人であらせられる、あなた様が、我が『王国』にいらっしゃるとは思いませんでした。肝を冷やしました』
「主殿、御心配をおかけしたのじゃ」
葛葉様の狐耳は垂れ下がり、反省の色が伺える。
「ですが、葛葉は『王国』が内乱となったと聞き、主殿のことが心配で、居ても立っていられず『皇国』を飛び出しておりました。そうしている内に、『迷子』になってしまったのじゃ。今こうして、主殿の御前に戻れたことを、心より感謝しております」
「……葛葉様!!」
私は、葛葉様に抱きつく。葛葉様は、危険を顧みずに、私の元に来てくださったのだ!
……いや、待てよ?『王国』と『皇国』は、国交がある。
船も行き来していて、『皇国』から船に乗るだけで『王国』に着くはず。
もしかしたら、葛葉様は、この大地を横断してきたのかも知れない。
それを『迷子』で、済ませようとしているのだ!!
そうだ!葛葉様にも、挨拶しなきゃ!
「葛葉様、『封印解除』!!」
葛葉様から煙が溢れ、部屋を広く染める。
煙が晴れると、艶やかな女性が現れる。
「ふふ、ようやく封印を解いてくれたのね、お前。妾が、待ち侘びた時間の長さを、思い知るがいい」
「お久しゅうございます。葛葉様」
そう。こちらが権能の根源。齢1000年以上の妖狐、葛葉様である。
普段の葛葉様は、権能を一部『封印』しているのだ。
「……さて、お前の部屋とはいえ、ここでは誰が支配者かを、しっかりと教えてあげましょうか?」
嗜虐的な葛葉様の目線に、私は鼓動が高鳴る。
「……もちろん、この部屋においても、葛葉様が支配者でございます。そのために、わざわざ人払いをし、私の部屋に、いらしていただいたのです」
私は、自然に葛葉様の前に跪いていた。
「……葛葉様、何なりと、お申し付けください」
葛葉様は、愉悦に浸りながら、告げる。
「ふふふ、お前の態度は、妾の気分を良くする。さあ、お前よ、妾に……
こ の 『 王 国 』 を 寄 越 せ ! 」
メモリに追加:葛葉は『皇国』の女性。齢1000年以上の妖狐。
「封印」で『通常モード』になり、「封印解除」で『裏モード』になる。
『通常モード』:小柄な女性。可愛らしい古風な口調。
『裏モード』:艶やかな女性。支配的で嗜虐的な口調。