女騎士アルテミスと王国再編の女王様・第3話
ペルセポネに、新しい『教育機関』の設立を依頼した。
問題は『教員』の確保。優秀な人材は、貴族や既存の教育機関が抑えているはず。
しかし、ペルセポネは、得意げに話す。
「わたくしに、いい考えがありますわ!」
ペルセポネ、それは駄目なヤツ!フラグが!!
「さっそく『彼ら』に接触しますわ!『権能』を普及させるための『学園』なんて、『彼ら』が喜びそうな事案ですわ!!」
そう言って、ペルセポネは勢い良く、私の部屋を出て行ってしまった。
「『彼ら』とは、どのような人達なのでしょうか?」
「……私の予想通りじゃないことを、祈るわ」
王宮の玉座の間。
『女王』としての公務の他に、『謁見』の場を設け、国民の『陳情』を受ける時間とした。
『王国』騎士団とクーデター派の、全面衝突は避けられたが、国民への影響は重大だった。
特に、兵を動かすための食料……兵糧のために、食料の価格が乱高下した。
これにより、商売を営む者や、農民など食料生産者が、苦しい生活を送っていることがわかったのだ。
それを少しでも救うため、税を軽減したのだけれど……
「クーデターの鎮圧祝いという名目で、税を軽くしたけれども、我が『王国』の国庫は、大丈夫なのかしら?」
「財務に関しては、パイモン宰相閣下が手腕を発揮しています。彼、凄いですね!どこからスカウトしてきたのですか?」
まさか『魔界』から、とも言えない。本当に、この娘は感が鋭い。
「宰相閣下は『消費税』に、苦言を呈していらっしゃいました。何でも、広く税を取るのはいいけど、不景気の時に税率を緩和できない仕組みだとしたら経済が停滞し、かえって税収が落ちるだろう、ということでした」
「あー、私も同意だわ。『直間比率の是正』って言いながら『間接税(預かり税)』じゃなかったり、『社会保障のため』に使うと言いながら『法人税を減税するため』に使われてたり、法人だと所得が無くても払わなきゃいけないし、子会社孫会社が納めた消費税を『輸出補助金』として親会社に還付されるのも謎だし。パイモン君が要らないって言うなら、廃止でも構わないわ」
「では、そのように伝えます」
ここは『王国』よ!断じて、よその国の税制の話ではないわ!!
私とアルテミスの予定が空いてる日には、『謁見』を受け付けていた。
しばらく続けると、トラブルが発生する。
『謁見』のために、王宮の前に、前日の夜から並ぶ者が現れたのだ!
王宮や近隣としても迷惑だし、夜通しで並んでいる国民の体調も心配になる。
「アルテミス、いくら何でも過熱しすぎよ!私達の予定や体調で、『謁見』ができない日もあるのに!」
「そうですね。朝集まってもらって、くじ引きで『謁見』できる者を決めるのはどうでしょう?」
「そうね!それなら公平ね!」
しかし、『謁見する権利』を得るために、集団でくじ引きに参加する者が現れる。
「有力商人や貴族が、私と『謁見』して、国策を利益誘導するのが目的かしら?そのために、くじ引きに参加する者を雇っている?」
「中には『謁見する権利』を、高額で転売する者も現れています。何か対策をしなければ」
確かに『謁見』が制御できないくらい、賑わっている。
しかし『広く国民の意見を聞く』という、本来の意義から離れてしまっている。
「……『謁見』は継続して行うとして、その対策にコストを掛けるのは違うと思うわ。『謁見』が賑わっているのは、国策が、国民の意見を反映してないのが問題じゃないかしら?それは、私達、為政者の落ち度よ」
「……ごもっともです」
中には『女王』や『王下十字騎士』を一目見たいという、微笑ましい国民もいるとは思う。
しかし『謁見』が賑わうのは、国民が不満を抱えているからだ。
その不満を掬い上げ、吟味することが、私達に求められているのだ!
その時、ペルセポネが、一人の男性を伴って玉座の間に入ってくる。
「ごきげんよう、『女王様』。こちらは『教授』と名乗る人物ですわ。『彼ら』に協力を仰ぎ、『学園』を運営していきたいと思っていますの。『教授』、自己紹介を」
ついに、来てしまったか!
「お初にお目にかかります、『女王様』。私は『教授』。まずは『権能』の知識を、国民に共有する場を作るという発想に『愛』を感じました!また、あなたが行った『強制労働や差別を廃止する法令』にも『愛』を感じています!『我ら』は、全面的にあなたをバックアップし、『学園』の設立に従事したいと考えています!」
「『我ら』とは、他にも賛同されている方がいるのですか?」
アルテミスは、藪蛇な質問をする!やめてー!!
「ああ、私の他に『ドクター』『プロフェッサー』『ドクトル』『老師』と、その門下生たちです。我らは『ガイ……いえ、何でもありません」
『ガイ……って、言いかけてるぅ!!
「ご協力、感謝いたします。『女王様』、一言お願いします」
「……ごほん!『教授』、私の理念に賛同し、『学園』への協力、感謝に尽きません。どうか、ペルセポネを支えて、この国の未来のために、力を貸してください!」
『教授』は、よろめいたかと思うと、興奮気味に話す。
「今わかりました。『王国』の『愛』は、あなただったんですね!」
えっ、なにそれこわい。
『教授』を交えて、『謁見』のトラブル対策や『広く国民の意見を聞く』方法について、話し合う。
『教授』が、妙案を発表する。
「『女王様』、各地に『意見箱』を設置して、国民に投書してもらうのは如何でしょうか?」
「……なるほど。ならば、わざわざ王宮まで来なくとも、国民が意見することができます」
アルテミスが同意する。しかし、ペルセポネが反論する。
「でも、国民の識字率が気になりますわ。苦しい生活を送っていても、字が書けなければ、それを訴える方法は限られるのじゃないかしら?」
ペルセポネの不安に、『教授』が答える。
「ならば、信頼のおける臣下を各地に派遣し、『意見箱』を回収しながら、民衆の声を聞いてくるのは、どうでしょうか?」
それならば『意見箱』に細工をされたとしても対策になる。
「ありがとう『教授』。さっそく『意見箱』と『臣下の巡回』を採用したいと思うわ!」
私が宣言すると、アルテミスが、かしこまった様子で発言する。
「恐れながら、『女王様』。その任務を、我が『聖剣団』に、お任せください。私の呼びかけに呼応して、腕に覚えのある騎士達が揃ってきています!」
確かに、精鋭中の精鋭である『アルテミスの聖剣団』に動いてもらうのは良いかも知れない。
「ならば、アルテミス。この件は、あなたと『アルテミスの聖剣団』に一任します!見事に、やり遂げてみせなさい!」
「謹んで、拝命いたします!」
アルテミスは、『意見箱』の設置の準備に向かった。
ふと『学園』の進捗が気になったので、ペルセポネに尋ねる。
「ところでペルセポネ。『学園』の名前は決まっているのかしら?まだならば、あなたの献身を讃えて、あなたに因んだ名前を付けてくれると嬉しいわ」
どんな名前を付けるのかしら?『魔法』を教えてくれる『学園』……ミミズクに変えられたアスカラポスが、入学許可証を届けてくれるような。
ペルセポネは、感極まった様子で告げる。
「ありがとうございます、『女王様』。そのような光栄なご提案、感激いたしますわ。それでは……
ペ ル セ ポ ネ
……・アカデミーと、名付けさせていただきますわ」