『運命改変』第9.1話・ペルセポネ再来
ここは、『王国』の『クロノシア侯爵領』。
『サトゥルヌス』の権能により、大地『ガイア』の運命に働きかけ、『異常気象』を退けた私達。
去年の秋に播いた麦の収穫が、始まろうとしている。
領主の館の離れ。私の棲家。
『クロノシア侯爵領』の領主・アルテミスが、お茶会をしに来ている。
今日は特別に、私が、紅茶を淹れた。
この前、「『魔女様』が、淹れた紅茶が私の『ご褒美』です」って言ってたからね。
「……これは、『魔女様』自ら、淹れてくださったのですか?ありがとうございます」
そうでしょ、そうでしょ……あれ?味については、コメントしてないよね?
そうしている内に、パイモン君がやってくる。珍しい。
「領主様ー!ご来客です!!」
「はい、今、行きますね。すみません『魔女様』、また今度、来ますね」
来客ならしょうがない。今日のお茶会は、お開きにしましょう。
「……『魔女様』、客人は『重要人物』ですよ?」
!?パイモン君は『違う世界線』の記憶も有している。つまり……
「私も行くわ!」
領主の館の応接間。その人物は恭しく、お辞儀している。
「英雄アルテミスに、お目通りかないまして、嬉しく思います。わたくしは、ペルセポネ。本日は、おりいってお願いに参りました」
そう!元公爵令嬢のペルセポネだった!
「お久しぶりね、ペルセポネ。どうか、楽にしてちょうだい」
私は、フードを取って挨拶する。私達は、親戚として親しかった間柄だった。
「『元女王』!?なぜここに!!」
ペルセポネから、向けられたのは『憎悪』の感情。
「……お知り合い、のようですが……えっと、どのような関係で?」
アルテミスも戸惑っている。その、一瞬を突かれて……
「ええい、私の魔法をくらいなさい!!」
これは、『魅了』の魔法!?
私への『支配』系の魔法は『サトゥルヌス』が緩和してくれる。
「止めておくことね、ペルセポネ。その魔法は、わたしには効かないわ!」
「……だけど、英雄様は、どうかしら?」
しまった!アルテミスを見るか、どうかという状態で斬りつけられる!
間一髪で、後ろに転がるように避ける。
「……英雄アルテミスには『ご助力』願おうと思っていたけど、あなたがいるなら話は別よ?私の質問に答えなさいな」
アルテミスは、ペルセポネの側に守るようにして立つ。
「もちろん、知ってることには答えるわ。だけれど、もう少し穏便にできない?」
「口ごたえは、しないでちょうだい!!」
ペルセポネは、闇の波動を纏った鞭を打ち鳴らす。
うーん、明らかにペルセポネの様子がおかしい。今は、おとなしく、従うしかないわね。
「王権が、この『クロノシア侯爵領』に、全ての騎士団を派兵しようとしているの!あなたは心当たりない!?」
「……私を、始末しようとしているはず。彼らは『サートゥルナーリアの大結界』を取り払いたいのかも知れないわ」
まず考えられるのは、ハーデスの『傀儡化』や『奴隷利権』や『労働搾取』ってところでしょうね。
「『元女王』、あなたを討伐するための軍隊を、ハーデスが指揮を執る可能性があるの!」
!!……見えてきた!『クロノシア侯爵領』に迫る『全ての騎士団』を、ハーデスが指揮していた。
それを、私が『全滅』させて、ハーデスが死亡した。
王権から要注意人物とされていたペルセポネが、ハーデスと『再会』したのは、亡くなってからだった。
おそらく、ペルセポネは『冥界の女王様』としての権能を発動し、アンデッドの騎士団で『クロノシア侯爵領』を……もしかしたら、世界を飲み込んだ!?
「……どうしたの?黙り込んじゃって。あなたには、まだまだ聞きたいことがあるのよ!」
ペルセポネは、闇の鞭を打ち鳴らし、威嚇する。
「……かった、よね」
「はぁ?」
私は、自然に涙を流していた。
「……つらかったよね?『事件』があって、やっと安心できる人ができたのに、また引き裂かれて……」
「だから、何!?『事件』を起こした黒幕のあなたが、わたくしに同情するの!?」
ペルセポネは激昂して、隙ができた!今よ!
私は、ペルセポネに向かって走る!
「……何を!?」
虚を突かれて、防御が追いつかないペルセポネ。
そこを『魅了』状態のアルテミスが、防御に入る。
「アルテミス!!」
「ッツ!!」
アルテミスの動きが、一瞬だけ鈍る!
私は、方向転換して、アルテミスに飛びつく!
『サトゥルヌス』の、『運命改変』の権能を流し込み、『魅了』の魔法を打ち消す!
「……『魔女様』?」
「正気に戻ったみたいね!」
アルテミスの側に立ち、背中に触れる。
『運命改変』の権能を送り込み、常に『魅了』の魔法を打ち消す体制。
「……英雄アルテミスは、俊敏寄りの騎士。そのようにくっついては、持ち味が活かせないわよ……そして、魔法を放つには十分な間合いがある」
ペルセポネは嘲笑しながら、杖を構える。
一般的に、魔法使いは騎士に弱い。
騎士の捨て身の攻撃が、魔法使いの魔法に打ち勝つからだ。
一方で、盗賊や暗殺者などは、騎士を素早さで翻弄し、急所に刃を突き立てる。
しかし、密接しているなら兎も角、範囲攻撃をバラ撒ける魔法使いに対しては、弱い。
同様に、体格で勝る騎士たちに勝つために、アルテミスは俊敏さを磨いた。
つまりアルテミスは、騎士に強く、魔法使いに弱い性質なのだ。
「……ぐぐ。確かに、場数を踏んでるだけのことは、ありそうね」
「ふははは、どう?降参する気になった?」
だけれど、『こっちの世界線』のアルテミスには、もう一つの武器がある!
「アルテミス、弓に持ち替えるのよ!」
「!!……わかりました!!」
アルテミスは、剣を収め、月光でできた弓を召喚する。
「なにかと思えば、弓?そんなもの、矢が私に届く前に、冥界の業火で焼き尽くしてくれるわ!」
弓を引き絞るアルテミス!魔力を高めるペルセポネ!
「シッ!」
アルテミスの月光の矢が放たれ!
「はぁっ!!」
ペルセポネの冥界の業火が迎え撃つ!
青白い光と漆黒の炎!
「おぉぉぉっ!!」
「ふぅぅぅっ!!」
互いに権能の力を振り絞る!
両者、互いに拮抗し……そして、
「ぐはぁ!!」
アルテミスの矢が、ペルセポネをとらえる!
アルテミスの矢のダメージに、息も絶え絶えなペルセポネ。
「はぁっ、はぁ……どうしたの!?殺しなさいよ!!……お父様も、お母様も、あなたの両親や、ハーデスの両親……みんなのように、私も殺しなさいよ!!」
激昂し、涙を流すペルセポネ。『事件』で家族を亡くした悲しみと、ハーデスと引き裂かれた悲しみ。
「……ペルセポネ」
私はただ、ペルセポネに抱きついて、一緒に泣くことしかできなかった。
私達は、逆だったかもしれない。
私はアルテミスがいてくれて、ペルセポネはハーデスを引き離された。
「……どうして。どうして、私を殺さないの?ハーデスを殺さないの?……あなたは、権力のために、『女王』になるために『事件』を起こしたんじゃないの!?」
「……もうわかっているよね、ペルセポネ?私が真犯人じゃないことを……」
聡明なペルセポネのことだ、『事件』の『真相』なんて、既に気付いていたんだ。
だけれども、辛くて、苦しくて、上手くいかなくて、惨めで、情けなくて、不甲斐なくて……
そんな時に、都合のいい『噂話』に、人は熱狂してしまう。
都合のいいように『自分の心』を、作り変えてしまう。
「……私は、私は!!」
「ハーデスを助けるために、アルテミスに『助力』をお願いしにきたんでしょ?」
私は、ペルセポネに笑いかける。
ペルセポネは、毒気が抜けたような顔で、私達にお願いする。
「……お願いします、ハーデスを助けるために、力を貸してください。大切な、大切な人なんです」
「もちろんよ、ペルセポネ!さあ、一緒にハーデスを助け出しましょう!」
「ええ、ペルセポネ様。私達が協力すれば、きっとハーデス殿下を助けることができます!」
そう、これを私は待っていた。
ペルセポネが積極的に動かなければ、『この世界線』では、ハーデスを救うことができない。
だから私は、『タイムリープ』を繰り返し、『ペルセポネとハーデスが仲良く暮らせる世界線』をたくさん作った。
『運命律』に導かれ、未来は『その未来』に収束されていく。
すべての人が、幸せな未来へと……
メモリに追加:ペルセポネは、女魔法使い。元公爵令嬢。
『通常モード』:優しいお姉さん口調。『春の女神』の権能。
『裏モード』:支配的な口調。『冥界の女王』の権能。




