『徹底抗戦』第4話・春の女神と冥界の王
6面体のサイコロは転がり……『2』を指し示す。
『荒れ果てた領地』の北の山地。多分、廃坑跡。
『予想』は付いていた……だけれど、『予想』では、
100%の確率が担保されない。
騎士団が動くとなると、気取られ、逃げられてしまうかも知れない。速やかな包囲が必要なのよ。
また、『全ての騎士団』を、ハーデスがいる『荒れ果てた領地』に送るのは、『あの惨劇』が起こる恐れがある……
チラリと、ペルセポネを見る。
『啓示』の権能により、急激に『生命力』が奪われるのがわかる。
ああ、完全に、やばいやつだわ。
「『女王様』!!」
その時、ペルセポネが、私を抱き締める。
「『春の女神』よ!我が友を救う力を、私に!!」
そして、暖かな春の日差しのような力が、ペルセポネから伝わってくる。
それは、春の女神『ペルセポネ』の、癒しの波動。
全てを癒し、『生命力』を授ける、女神の力。
ああ……あたたかい……
『生命力』を回復した私に、アルテミスが詰め寄る。
「なぜ、あのような『無理』を!?ペルセポネ様がいなかったら、どうなっていたことか!!」
「……私も、初めて使う権能だったかしら?」
うっ!?でも、そもそも、私もペルセポネが回復してくれるとは、思ってなかったし。
「心配をかけてしまって、ごめんなさい。でも、囚われているハーデスのことを考えれば、居ても立ってもいられなくて」
権能で『タイムリープ』してるだとか、『運命律』がうんたらとか言ってたら、さすがに精神性を疑われそうなので、適当に、はぐらかす。
尚一層、ペルセポネが抱きついてくる。アルテミスも抱きついてくる。
「……怖かった!あなたまで、私の前から居なくなるのかと思って!」
「『女王様』が居なくなったら、私も生きていけません!」
私は、いい仲間を持った……
私は、アルテミスに向き直り、『女王』として告げる。
「アルテミス!『女王』として『勅命』をもって命じるわ!騎士の中の騎士『王下十字騎士』の権限をもって、『王国』左軍騎士団、ならびに右軍騎士団を率いて『北の山地』を包囲しなさい!」
「かしこまりました、『女王様』!」
アルテミスは、騎士団を招集するため、直ちに動き出す。
「さあ、私達も行きましょう!ハーデスが、待っているわ!」
「ええ、『女王様』。私もあなたの側にいて、支えますわ。ハーデスを、無事に助け出しましょう」
「何を言ってるの?きっと、あなたが『主役』よ?」
ペルセポネは、きょとんとして、首を傾げている。
アルテミスは、鋭い目つきで命令を出す。
「騎士団は即座に出動準備を整え、北の山地を包囲せよ!クーデター派は、坑道跡に潜んでる可能性があるから、注意するように。『女王様』と私は、現地に向かうので、すぐに集結地点に向かいなさい!」
アルテミスは、私に向かって礼をし、報告する。
「女王様、準備が整いました。現地に向かう準備も万全です。」
「そうね。行きましょう、アルテミス!」
アルテミスが、怪訝な顔で聞いてきます。
「……恐れながら、『女王様』。『荒れ果てた領地』の地理に、随分詳しくないですか?土地勘があるというか……」
アルテミスは、訝しんだ。
「ああ、たまたま、昨日の夜に読んだ資料が『荒れ果てた領地』についてのものだったのよ。咄嗟に隠れ家に、できそうな所を上げてみたけど、結果オーライね」
『違う世界線』で『領地経営』してる、なんて言えないから、適当に、はぐらかす。
「そうかな……そうかも……」
アルテミスは、頭を捻っていた。この娘は、妙に感が鋭いのよね。
ここは『荒れ果てた領地』の北の山地。
祖父の代に『やらかした』領主から、領地を取り上げた場所。それ以来、王家の直轄領となっているが、管理できてない状態が続いている。
王都を出立した、左軍騎士団、ならびに右軍騎士団は、夕方頃に陣地設営を済ませ、交代で警戒にあたっている。
彼らには、中にいるクーデター首脳陣を『逃さない』ようにと、厳命している。
日は既に落ち、『月』の光が辺りを照らす。
そう、『彼女』の出番である。
「『女王様』、包囲は完了しました。北の山地のハーデス殿下がいると思われる坑道に、侵入する入り口を発見しました」
「アルテミス、あなたの『光の屈折』と『暗視』の権能を、私達にも付与して。攻撃をあなたが防ぎ、ペルセポネが魔法で無力化する。私は『時間』を司るの権能で、数秒先の未来を見て危険を知らせるわ」
我ながら完璧な作戦!大気流突撃とでも名付けましょうか!
「うふふ。さあ、行きましょう『女王様』。私たちの力を合わせて、ハーデスを救い出すのですわ」
と言っても、さすがに権能の合わせ技に、敵はかなうはずもなく、私達は最深部に到達する。
「二人とも下がって。私の『サトゥルヌス』の権能で、ハーデス以外を、無力化するわ!アルテミスは、権能の発動が確認され次第、突入してちょうだい!」
二人は、私に頷く。
「いい?権能を発動するわ!
我が信奉を捧げる神『サトゥルヌス』よ!
不届き者に、不自由の罰を与え給え!
【我は『女王』!頭が高い、跪け!】」
権能の効果が確認され、アルテミスが突入する。
中では、貴族や有力商人たちからなる、クーデター首脳陣が、権能の効果で拘束されている。
口々に、『女が!』とか『王位簒奪の罪人が!』と、つぶやいている。
その程度の者たち。噂話に踊らされている、哀れな人達。
「『女王様』!ハーデス殿下です!牢に閉じ込められています!」
「……ハーデス!」
報告するアルテミス、涙するペルセポネ。
しかし、私は、権能の高まりを感じていた!
「待って!ハーデスの様子がおかしいわ!アルテミス、ペルセポネ、油断しないで!」
その時、牢が衝撃でガシャンと音を立てる。
「ぐぐぐ……ぐがぁぁぁ!!」
ハーデスが唸り声を上げ、牢を破ってしまう!
「二人とも警戒して、ハーデスは自我がないようだわ!!」
きっと、薬物や魔法を使って『傀儡化』しようとした副作用。ハーデスは抵抗していたが、あと一歩遅かったか!?
「二人とも、お下がりください!ここは私が!」
アルテミスが、前に出る。
ハーデスの権能を纏った腕が、アルテミスを掠める。
「ぐぅ!!」
あの、アルテミスが、攻撃をいなせない!?
『ハーデス』。冥界の神。
ハーデスは、その偉大なる力を具現化し、暴走している!!
「ペルセポネ!私たちの権能は、名前の影響を受けるわ!そこで、『ハーデス』の伴侶の名前を持つ『ペルセポネ』!あなたに、ハーデスの説得をお願いしたいのよ!」
「私が、ハーデスを!?」
そう。ペルセポネを仲間に引き込んだのは、『神話的な結びつき』を期待してのことでもある。
「『春の女神』の優しさと慈しみの力で、ハーデスを説得して、ハーデスの自我を取り戻すのよ!」
「わかったわ、『女王様』。ハーデスを説得します」
ペルセポネから、優しさと慈しみの波動が溢れ出し、ハーデスに近づいていく。
「ハーデス、聞いてください。私は、あなたを守り、支えたいと心から思っています。どうか私を信じて、あなたの内に眠る『ハーデス』の力を、呼び覚ましてください。私たちはあなたを必要としています。共に、より良い未来を築きましょう。あなたの心の奥にある優しさと慈しみを感じて、私たちと共に歩んでください」
しかし、ハーデスは唸り声をあげる。
「うぅぅ、がぁぁ!!」
地面から、冥界の力を宿した鎖が現れて、私達を拘束する。
くっ、しくじったか!?
しかし、ペルセポネがさらに深く、ハーデスの目を見つめ、心からの訴えを続ける。
「ハーデス、あなたは一人ではありません。私たちはここにいます。そして、私たちはあなたを愛し、支えます。どうか自我を取り戻してください。私たちは、共に、この困難を乗り越えることができるのです」
ペルセポネは自身の権能の力を高め、冥界の鎖をほどいていく。
それは、固く冷たく閉ざされた心が、春の日差しで氷解していくよう……
「思い出してください、ハーデス。私達が二人で暮らした、あの穏やかな日々を!二人で助け会い、支え合った生活を!」
ペルセポネは、優しい笑みを浮かべ、ハーデスに近寄る。
ハーデスは、たじろぎ、ただペルセポネを見つめている。
「その調子よ!ペルセポネ!最後にハーデスに愛を囁いてちょうだい!あなたを慕ったハーデスならば、きっと、あなたの想いに応えてくれるはずよ!」
ペルセポネは、私に頷く。
ついに、ペルセポネはハーデスの元にたどり着き、優しく頬に手を添える。
「ハーデス、私は、あなたを愛しています。あなたの心の強さ、優しさ、すべてを愛しているのです。どうか、私の愛を感じてください。あなたの中の『ハーデス』の力を信じて、解放してください。私たちは、共に、未来を切り拓くことができるのです」
ペルセポネは、ハーデスの額に優しくキスをする。
「ハーデス、私の愛を受け入れて、私たちと共に歩んでください。私たちはあなたを信じ、愛しています」
ハーデスの目に涙が浮かび、自我が戻ったように感じる。
「……ペル、セポネ……お姉ちゃん?」
「はい!私達は、やっと『会えた』の、かしら?」




