女従者アルテミスと絶対遵守の女王様・第2話
『女王様』の部屋。
戴冠式を逃げるように後にして、ベッドに腰をかける『女王様』。
私、アルテミスにできることは、『女王様』の手を握ることだけでした。
「……ありがとう、アルテミス。そして、無様な姿を見せてしまったわね。失望した?」
『女王様』は自嘲気味に笑います。
晴れの舞台に泥をかけられたのだから、怒っても良いはずなのに。
「……『女王様』、あなたは立派です。王族の責務を果たすために王位に就く。それだけで、この『王国』の安定に繋がります」
少し驚いた顔をする『女王様』の目を、真っ直ぐに見つめて続けます。
「そして、忘れないでください。宰相閣下を始め、大多数の王族の方々の信任を得て、あなたが『女王』になることを。『女王様』の味方は、たくさんいるのです……もちろん、私も、その1人です」
『女王様』は、目に涙を浮かべます。
「……ええ。あなたの言葉は嬉しいわ、アルテミス。私を信じてくれることが、何よりの支えになる」
涙を拭い、『女王様』は覚悟を決めたような顔をします。
「アルテミス、よく聞いてちょうだい。あなたにだけは『事件』の『真相』を知っていて欲しいの」
『事件』。王族の方々が亡くなったとされる出来事。何が起きたかは、箝口令が敷かれ、老宰相と生き残った王族の方々にしか、『真相』が明かされませんでした。
「世間では、箝口令のために『噂話』が横行して、特に酷いのは、私が真犯人だとする説もあるわ……あなたも知っているでしょ?」
「……確かに『女王様』が真犯人とする『噂話』はあります。ですが、私は『女王様』が話してくださる『真相』を信じたいと思います」
私の言葉を聞き、『女王様』は少しリラックスした表情になりました。
「……ええ。『真相』を語るわね。そもそも先代国王と王妃は、私の両親よ。パーティーの主役であるクロノスは、私の双子の兄。私は、『事件』で家族を亡くした遺族の1人よ」
それは『王国』に住む者ならば、周知の事実です。だけれど、それが『同情』ではなく『陰謀』に向く所に、私は怒りを覚えるのです。
「『事件』の前後に、私は『皇国』を親善のために訪れていた。宰相が調べた所によると、私の両親や主だった王族が犠牲になったわ。兄・クロノスも行方不明だと言われているわ」
『女王様』は一呼吸置く。落ち着いて話しているようですが、辛さが伝わってきます。
「首謀者は生活に困窮した国民だったと聞いているわ。『権能』の力を暴走させて、王族に報復するための『自爆テロ』を決行した。残された王族たちは怒り、悲しんだ。けれども、そこまで国民を追い込んだのは王族たる自分たちではないか、と考えるようになったわ」
王族の方々の高潔さに驚くばかりです。上に立つ者の『責任』を知る存在が『王国』の王族なのかも知れません。
「ですが、それでは箝口令を敷いている意味がありません!そのために謂れのない中傷を『女王様』が受けるなんて、間違っています!」
「箝口令を解いたところで、『噂話』は止まらないと思うわ。『女王』である私が、捜査に圧力をかけてるとか、情報を捏造させてる、という論調になりかねない」
人間は、何でこんなに『噂話』が好きなのでしょうか?確かな情報や自分で見たこと以外は、信用ならないはずなのに。
「あと『女王』に対する風当たりの強さが問題よ」
確かに『女王』に対する嫌悪感は、異常だと言えます。
『女王様』は立ち上がり、私の目を見て告げます。
「ならば、私は『女王』……『女』であろうとも、この『王国』を導くことができると、証明しなければならないのだわ!」
私も思わず立ち上がります。
「その意気です、『女王様』!為政者として国を守り、民衆の信頼を勝ち取るのです!及ばずながら、私、アルテミスも『女王様』を支えます!……ただの『女従者』ですが」
『女王様』の再起に力強く同意するも、バツが悪くなって頬を赤らめます。
「ただの『女従者』ねぇ……あなたは、私のために飛び出し、反論し、私を守ろうとした。それはただの『女従者』にできることかしら?」
そして、『女王様』は私に微笑みかけます。
「……あなたは、私にとって、かけがえのない味方よ」
『女王様』は早速、貴族たちを集めた会合を開くことに決めました。その会合で、貴族を『敵』か『味方』か選別しようという魂胆です。
「主だった王族の方々が『事件』で犠牲になったため、中央の役職が空いています。そこに地方貴族が子息を送り込んでいる、という状況です。これが王族に対しての『奉仕』であるなら良いのですが、自領に便宜を図るためではないかと言われています」
私が状況をまとめると、『女王様』が発言されます。
「たしかに、中央の要職に付けるなら『信用』がある者が良いのだけれど、『信用』をどうやって測ればいいのかしら?」
そのとき、私は、ひらめきます!
「『女王様』の【命令】の力……あれを貴族の方々に試してみてはいかがでしょうか?」
『女王様』は一瞬だけ驚き、私の案を吟味します。
「あの『権能』を使った『遊び』を?……確かに【命令】の強制力を調整すれば、簡単な命令に従う速度で『忠誠心』が測れるかも知れないわね」
『権能』。それは、王族や貴族だけが行使できると言われている、神の力の具現!
選ばれし者にしか触れられぬ、絶対の力!!
私は、思わず息を呑む……
あの威圧感、あの従属を強いる、絶対的な【命令】の正体こそが、まさか『権能』だったとは!
しかも、それほどの力を『遊び』と言い放つとは!
ぞくり、と悪寒が走る。この方は、どこまで恐ろしいのでしょうか。
それから『女王様』の実験が始まりました。様々な強度の【命令】が発せられ、私が応えます。
【バンザイ!】【タカキも頑張っているし!】【ジャンプ!】【右腕を下ろせ!】
……確かに【命令】の『権能』を持つ『女王様』なら、他者を操って『事件』を引き起こせそうです。
【左手人差し指を立てる】【歌って!】
しかし、効果範囲が狭いようで、当時、遠く離れた『皇国』にいらしたのならば『アリバイ』が成立します。
【Ride on】【後ろを向け!】
だとすると、妙に『噂話』のリアリティが高いことが気になります。『噂話』は『女王様』の【命令】の『権能』を知っていないと、成立しないのです。
【自己紹介!】【止まるんじゃねぇぞ!】
それにしても『女王様』の、この【命令】はどのような『権能』なのでしょうか?『【命令】をする神様』そのような存在がいるのでしょうか?うーん……
「……テミス、アルテミス!」
「はい!」
『女王様』の声で、現実に引き戻される。
「実験は終了よ。たけどあなたが『後ろを向いて左手の人差し指を上げてサタデーナイトフィーバーみたいな格好』で固まってるから、何かあったのかと」
「……失礼しました、考え事をしてました」
『女王様』の『権能』については、また今度、聞いてみましょうか。
貴族達を集めて行われる会合、『女王会議』。
その開催に向けての準備が、始まります。