女領主アルテミスと運命改変の魔女様・第6話
ああ、やっちゃったか。
この感覚は『天界』と呼ばれる場所のはず。
いや『天界』も『冥界』も『魔界』も位相が違うだけで、ほぼ同じ座標にある。『心』がそれを決めているのだわ。
「ほっほっほ。『無理』をしよる」
「ごめんなさい『おじいちゃん』。また、私を助けてくれたのかしら?」
しまった!いつもの癖で『サトゥルヌス』を『おじいちゃん』呼びしてしまった!!
偉大なる神は『おじいちゃん』呼びしたことに、しかめっ面をするけど、すぐに調子を合わせてくれる。
そういう所が、本当に『孫』に甘い。
「『孫』よ、お前さんの『無理』には、もう慣れたわい。して『何が』悪かったか、わかるかのう?」
「『神聖なる権能』を土木作業に使ったことかしら?アルテミスなら、そう言うかも知れないわ」
根に持ってるわけではないけど、意趣返ししなきゃ!
「ほっほっほ。『権能』の本来の意味を考えるならばわかるじゃろう?」
「『権能』は、『神』が自分の『信仰』を広めるための手段。人間が『神』と同じ『名前』を名乗ることで『契約』され、その『名前』を広めることにより『権能』が授けられる」
私は『権能』に関することを思い出す。頭が痛くて考えがまとまらない。
「そうじゃ。お前さんは自分の『名前』を偽り、『身分』を偽りながら、儂の『名前』を唱えなかった。けれども『権能』を欲した。それは『契約不履行』というものじゃ」
私は、さすがに頭を下げる。やはり『おじいちゃん』呼びはマズかったか!
「私は、御身に不敬をいたしました。深く反省いたします!」
しかし、『おじいちゃん』と呼ばれた偉大なる神は、笑いながら『孫』を諭す。
「ほっほっほ、儂は怒っておらんよ。だけれど『権能』は『世界の強制力』が働くのじゃ。お前さんの立場はわかるが、今のままでは、お前さんは危ういぞ」
どうやら『おじいちゃん』呼びのことではなく、私が『天界』に来た経緯を問うてるみたいね。
確かに、最近の私は『魔女』を名乗り、『名前』を呼ばれず、『おじいちゃん』のことも、我が信奉を捧げる神、とかで誤魔化していたわ。
王宮の耳がどこにいるかわからない。そのため、領民達に『元女王』だと……『サトゥルヌスの化身』だと悟らせる訳にはいかない!
それに気付いた時、『おじいちゃん』が笑っているように見えた。
「では、すべては『ルール』だと?『神聖なる力』を土木作業に使うことも、民のやる気を削いで堕落させることも?……もしや、王族や貴族が『権能』を独占するために、民に『ルール』を教えない?」
「さすが、儂の自慢の『孫』じゃ。『神』は何も禁止なんかしていないのじゃ。自分の『信仰』が広まれば、その結果を『評価』するだけじゃ」
私は衝撃を受ける。私は、強制労働や差別を廃止することで、この世界はもっと良くなると考えていた。でも、王族や貴族は『権能』を独占し、庶民を庶民のままにしようとしている!
「ほっほっほ!気付いたようじゃな?……そろそろ、あちらに帰る時じゃ。『孫』よ、久しぶりに話せて嬉しかったぞ!」
「ありがとう『おじいちゃん』!そして『名前』を呼んであげられなくて、ごめんね!」
そう言われて『おじいちゃん』は目を細めて笑う。
「最後に1つ、ヒントを教えよう。『コックリさん』」
えっ?それって、つまり!?
確かに『青龍川』の氾濫は収まり、雨は次第に弱まっています。
この冬に、新たに開墾した農地は『魔女様』によって守られました。
ですが、『魔女様』の意識が戻らないのです!
「……『魔女様』」
そう呟いたとき、『魔女様』の目が開きました。
「……アルテミス。心配を掛けてしまったようね」
その声を聞いて、安堵する私。
「『魔女様』が……目を、覚まさないから、私は……私は!!」
泣きながら答える私に、『魔女様』は、
「……そう、よろしい」
そう言って、微笑みました。
ここは『王国』の『クロノシア侯爵領』の領主の館の離れ。
離れの主である『魔女様』と、お茶会もとい、挨拶をしに来た、私こと領主アルテミス。
「アルテミス、私は民に対して『権能』を取得するための『ルール』を共有したいと考えてるの!」
紅茶を噴き出しそうになる!ですが、淑女はそんな、はしたないことはしないのです!!
「もちろん、然るべき日時や場所を整えてからよ」
「ですが、『権能』は『神聖なる力』であって、王族や一部の貴族しか使えないのでは?」
それが大原則。王族や貴族と、庶民を隔てる壁。
「あら、庶民出身のあなたが、そんな事を言うの?『条件』さえ整えば『権能』は使える。あなた自身が証明してきたことよ?」
確かに私は、両親に『アルテミス』という名前を授けてもらいました。それが女神『アルテミス』様のことだとは、もしかしたら両親も知らないことだったかも知れません。
「アルテミス、よく聞いてほしいの。あの日、クロノス殿下の成人を祝うパーティの日。あの忌まわしき『事件』のために、私の両親、親戚である王族が犠牲になったわ。双子の兄であるクロノスも行方不明に」
私は頷き、『魔女様』に続きを促します。
「首謀者は、生活に困窮した国民だったと聞いているわ。『権能』の力を暴走させて、王族に報復するための『自爆テロ』。誰も幸せにならない哀しい出来事……」
『魔女様』は、過去の悲惨な出来事を想い、一呼吸置きます。
「だから『私達』は、王族と民が共に歩み寄るべきと考えた。強制労働を廃止し、差別をなくす。だけれど王族や貴族は『権能』の知識を秘匿する。それが庶民にとっての『壁』となっているのよ!」
「しかし、いきなり『権能』の知識を共有したところで混乱が広がります!最悪、第二、第三の『事件』が起こる恐れがあります!」
言ってから、ハッとしました。
民衆は全てテロリスト、と言っているようなものです。
「……すみません、軽率な発言でした」
「いいのよ、アルテミス。あなたの懸念は、正当なものだわ。でも『有益な事』を『独占』するのは、『持たざる者』に、不満に繋がるのよ。だからこそ、その『共有』を教える『教育機関』と、その『恐怖』に対抗する『治安組織』が必要だと、私は考えるわ!」
『魔女様』は、明瞭に語ります。
『教育機関』と『治安組織』。
確かに、この二つが揃えば『権能』の『共有』が可能かもしれません。
「……できるでしょうか?『私達』に」
「『私達』が、成し遂げなければならないことなのよ!」
そう言って『魔女様』は、窓の外を見つめていました。