女領主アルテミスと運命改変の魔女様・第4話
「領都の周りに、1から12の数字の名前の街を、造るわ!」
しまった、聞いてませんでした!『魔女様』は、得意気な笑顔を見せています!!
「それは、素晴らしいアイデアです!『魔女様』!」
とりあえず、テンプレで返します!!
「でしょお?じゃあ、さっそく明日にでも、予定地を視察に行きましょう!」
情報が足りません!明日って急ですよね!?
「『魔女様』、さすがに、明日は急すぎませんか?準備もあることでしょうし」
とりあえず、時間稼ぎをして『魔女様』の意向を確認せねば!なんでしょう『数字の街』って?
「うーん、特に何も必要ないわ。明朝、馬車を用意してちょうだい」
『魔女様』は、明日の視察を決めてしまいます。
「かしこまりました。手配いたします!」
「あ、そうそう、経理のパイモン君と、今回の『調達班』のバルバトスさんも、誘っておいてね!」
!?!?!?!?!?
何故、その二人!?
いや、パイモン君は、確かに経理として優秀だし、バルバトスさんの腕は、護衛に向いてるかも知れない。
しかし『魔女様の秘密』を、知られたら!?
次の日の朝、『魔女様』とパイモン君とバルバトスさんは、私と共に馬車で領都を出発しました。
御者は、私とバルバトスさんが、交代で行うことにします。
「『領主様』、この領地について、おさらいしましょう」
よそ行きなので『領主様ごっこ』で、会話します。
『魔女様』は、行政の仕事が忙しい私に、情報を整理して教えてくれます。
「この領地は、記録によると『荒れ果てた領地』と、呼ばれる場所だったみたいですね。過去の領主によって、森林が伐採されて、東側が荒地になってるから、そう呼ばれてるようです」
その後、王家の預かりとなっていましたが、私が拝領しました。
「南の湖水地帯に、北の山地から、この街の東側を通って河川が流れ込んでいて、西側に王都から北の辺境伯領に向かって街道が走ってる。うーん、ちょっと、デキ過ぎかと」
『魔女様』の意図がわからずに、デキ過ぎ?と聞き返してしまう。
「『領主様』、この領地は、今でこそ『荒れ果て』ているけれども、風水的には、発展する要素がありますね!私達の腕の見せ所です!」
明るく成人前のパイモン君と、寡黙な狩人のバルバトスさん。
思えば、この領地に住み始めてすぐに、パイモン君が領主の館で働きたいと、訪ねてきました。
パイモン君に、なぜ手伝ってくれるのか?と聞いたことがあります。
『おねえちゃんとの約束だから』
こんな幼気な少年を働かせるなんて、どんな姉なのでしょう!
ですが、パイモン君はきちんとした教育を受けていて読み書きはもちろん、経理もできます。
一方、狩猟以外ではボーッとしてるバルバトスさん。
長時間の御者にも疲れた様子がありません。しかし、狩猟となると激しい行動が目立ちます。
この二人に何の共通点が?ただでさえ『魔女様の秘密』を、知られる危険があるのに。
私達の馬車は『クロノシア侯爵領』の、ほぼ中央にある領都を出発して、真北にある、山地の麓に差し掛かりました。
「『領主様』、ここに『12』の街を造るのは、いかがでしょうか?」
翻訳すると『ここに「12」の街を造るけど、いいよね?』になります。
「はい、任せます」
『うむ、善きにはからえ』だと、絶対に笑われるので無難に返します。この塩梅が難しい。
『魔女様』は、『12』と書かれた看板を地面に挿し、ちょっとした祝詞をあげたようでした。えっ、それだけ?
その後、東に向かい『1』の街、『2』の街。
領都の真東に『3』の街。
南に向かい『4』の街、『5』の街。
領都の真南に『6』の看板を立てた時には、お昼近くになっていました。
ここまで来れば、さすがに私でもわかります。
これは領都を中心として、この『クロノシア侯爵領』を『時計盤』に見立てているのです。
「『領主様』、もしかして、今頃気付いたのですか?」
パイモン君が面白そうに語りかけてきます。
「むしろ、君は、説明無しで気付いていたんですか?」
「これは、おねe……『魔女様』独自の魔法陣です。『時計盤』に見立てた『クロノシア侯爵領』の中を『魔女様』の権能が巡ります。『クロノシア侯爵領』は、権能の恩恵が広がりやすくなるのです」
なるほど。それならば『魔女様』が領都にいれば、『クロノシア侯爵領』全体が、権能の恩恵を受けられます。
だから、住民も居ないのに『街』を造るのですね?
「パイモン君、あと1つだけ、聞いてもいいですか?」
「なぁに、『領主様』?」
「あなたは、なぜ『おねえちゃん』に従っているのですか?」
そう聞かれて、パイモン君は陽気に笑いました。
「くふふふ。そうだね、きっと『古の契約と新しい契約』だからだね。二つは別物だけど、僕達からすると矛盾しない」
「なるほど。ヒントをありがとうございます」
私は、パイモン君に手を差し伸べます。パイモン君も察して手を伸ばし、握手しました。
『11』の街の看板を立てた頃には、日が暮れ始めていました。
私は、馬車の御者をしていましたが、『魔女様』も、御者台に上がってきました。
「アルテミス、あなたは、この領地が好き?」
夕暮れは『魔女様』を、センチメンタルにするようです。
「『魔女様』、確かにこの領地は『私達』の新天地です。ですが、私にとっては『あなた』が大切なのです」
「……ありがとう、アルテミス」
そう言って『魔女様』は、しばらく黙り込んでしまいました。
いえ、『魔女様』は、空を見上げているようでした。
夕焼けに染まる空の上に、囚われの女王によって刻まれた、『呪いの結界』と呼ばれるものが見えていました。