寝ているときに告白してくる神田さん
俺のクラスには一人、不思議な生徒がいる。
それが今現在、俺の隣で授業を受けている女の子、神田 美奈という子だ。
大人しそうな感じで、眼鏡をかけていつも昼休みは読書をしている寡黙な女子高生である。
一見どこがおかしいのかと疑問に思うだろうが、異変は俺が授業中にうとうとしている時に起きる。
最初はただの悪戯なんだと思っていた。
国語の授業中にお昼の暖かな日差しでぐっすりと眠っていると、隣に座っていた神田さんに起こされる。
いつも真面目だなぁ、と思いながら俺は体をゆっくりと起こして板書を写そうとするのだが、その時になって気づいたのだ。筆記用具の中に小さな紙切れが入っていることに。
紙切れは小さく折りたたまれており、俺はそれをゆっくりと何となく広げてみる。
俺はそれを広げ終わった時に呆然としていた。紙切れにはこう書かれていたのだ。
『好きです』
それだけ。シンプルな言葉であるが、言われて嫌な言葉ではないだろう。
俺は誰がこんな悪戯をしたのだろうかと周りを静かに見る。すると明らかにこちらをチラチラ横目で見ている生徒がいた。
それが俺の隣で授業を受けている神田さんだった。
どこかいつのも落ち着きがなく、しきりにこちらを見てくる。
……もしかしてな?いやいや、流石にありえないか。
俺は心の中でとある可能性を思いつくが真っ先にそれを否定する。
なぜなら、俺は神田さんと話したことがない。というか話しかけても無視されるくらいには嫌われていると自負してもいいだろう。
髪を茶髪に染め、明らかにチャラい格好をしている俺とは相容れないということなんだろうな。
「…はぁ、誰なんだよぉ」
青春真っ盛りな男子高校生の純情を弄びやがって。
俺はその小さな紙切れをポケットに入れる。筆記用具の中に入れて、もし誰かにでも見られたら勘違いされかねない。それに、こんな悪戯はこれで終わりだろう。そう何度も起きることでもない。
俺はそう思っていた。だが、現実は違った。悪戯はその日で終わりではなかった。何度も行われる。
日本史の授業、古典の授業、世界史の授業…俺が眠りそうになる授業に限って筆記用具の中に紙切れが入っていた。そして、その紙切れの内容は先程と同じ。シンプルな言葉であった。共通点はまだある。それは悪戯がある時に限って俺は隣の席にいる神田さんに起こされているのだ。
「もう限界だ。友人に聞いても知らねぇって言うし…こうなれば確かめてやる」
俺は次の授業である日本史の授業でとある作戦を実行する。
それは狸寝入り作戦である。寝ているフリをして、誰がこんな事をしているのか突き止める内容だ。
早めに席について俺はその時を待っていた。
「ふぁ~…」
「眠そうですね?」
「…え?、あ、まぁな。ちょっと睡眠不足で」
始めて神田さんに声をかけられた気がする。
「駄目ですよ?しっかりと睡眠を取らなければ授業を受けれないじゃないですか」
「はは、俺の母親と同じような事を言うんだな」
「だ、誰がお母さんですか!?」
「え?」
「あ、いえ。えっと、誰だって同じような事を言うと思いますよ?」
「そうか?」
「はい」
それ以降の会話はなかった。
日本史の先生がやってきて授業が始まる。不思議だよな、日本史の授業とかって直ぐに眠ってしまいそうになるんだからな。
俺はいつものように教科書を開きながら顔を伏せて眠る体勢になる。
いつもと違うのはちょっとだけ隙間を開けて少しだけ目を開けているということだ。夜なべしてどうすればバレないかと考えていたら寝不足になったのが辛いところだ。
暫く筆記用具をジッと見つめていると白い手が横から伸びて来て素早くその中に小さな紙切れをポイッと入れるのが見えた。
俺はその手の持ち主が誰であるかを知っていた。
それは俺の隣で授業を受け、俺を今現在起こそうと肩を突いて来ている神田さんだ。
「ありゃ?」
「ありゃじゃないですよ、どうして直ぐに寝てしまうんですか?」
「いやぁ、先生の子守唄が心地よくて」
「あれは教鞭であって子守唄では無いですよ?」
俺は見ていたことを悟られないように気をつける。
え?神田さんがやっぱり犯人なの?そういう悪戯をするようには見えないんだけどなぁ…誰かに無理やりやらされていると言われたほうがしっくり来るし。でも、俺の連れに聞いても無駄足だったし。
…もしかして意外とそういう悪戯が好きなのか?いや、ギャップありすぎるだろ!?怖いわ。
それとも本当に俺のこと……いやいやそれは無い。絶対にないだろ。
俺は教書を難しそうな顔をしながら見つめる。因みに教科書の内容は全くと言って頭に入っていない。
「み、水崎君?」
「ん?」
神田さんが心配そうな声で俺に話しかける。
「どうしたの?凄い難しそうな顔をしてたけど」
「あぁ」
「プリントの穴埋めで分からない所があったの?見る?」
お前だよ!お前のやっていることに混乱してるんだよ!?
「……見る。ありがとな」
「うん、あ、ここの漢字間違ってるよ」
「…ありがとな」
なんで神田さんはそんなに余裕そうなんだよ。
クソぉ、こうなれば俺も反撃してやるからな?例えこれが悪戯であっても知らない。
俺は日本史の授業後に神田さんにバレないようにこっそりと筆記用具に入った紙切れの裏にメッセージを書く。
『好きです』
ちょっと書くだけでも恥ずかしいな。でも、仕方ない…仕方ないんだこれは。
これを俺は神田さんの居ないうちに机の上に置いておく。小さな紙切れが机の上に置かれていたとしても殆どのクラスメイトは気にもとめないだろう。…本人を除いてはな。
俺はクラスの友達と教室の後ろの方で昨日見たアニメについて話していた。
すると神田さんが教室に帰ってきて、自分の机に座る。そして、何かに気づいたのか突然と周りをキョロキョロしだした。そして、俺と目が合う。
嫌そうな表情をするのかと思ったのだが、神田さんの表情はどこか恥ずかしいと嬉しいが入り混じったような顔だった。いつもの物静かな雰囲気ではなく、必死に声を抑えているかのような仕草をしている。
そんな反応に俺は少しだけ戸惑っていた。
あれ?おかしいな…俺の予想ではもう少し嫌そうな顔をすると思っていたんだけど。あれってどう見ても嫌そうにしてる顔じゃないよな?もしかして本当に…?
小休憩が終わり、席につく。気まずい雰囲気が漂う。
神田さんにはあの紙切れは俺が書いたのだとわかっている。俺にしか送られていないからな。
「なぁ?」
「な、な、なんですか?」
「いや、噛みすぎだろ。あの紙切れなんだけど……あれはどっちだ?」
卑怯な聞き方だと自分でも思う。
男らしくないと自分でも思うが、これでただの悪戯でした!と言われて傷つくのは嫌だった。
「……どっちだと思いますか?」
神田さんは少し笑いながら聞いてきた。
ニヤけたような笑みではなく、俺との会話を楽しんでいるかのような柔らかい笑み。
「そう聞くのはズルくない?」
「ふふ、そうですね。でも、お返しです。因みに私は本気ですよ?」
「…え?」
神田さんは本を持ちながら顔の半分を隠し、恥ずかし気に小さく言う。
いそいそと紙に何かを書いて俺に手渡してくる。いつもとは違う、手紙の渡し方に新鮮さを覚えながらもそれを俺は受け取った。
「これ…お返ししますね?」
「うん?」
何が書かれているのだろうかと思い、折られた紙切れを神田さんとは反対方向を向きながら見る。
紙に書かれていた言葉は、いつもとは違っていた。
『私もです』
俺がチラッと神田さんを見ると彼女はいつもの静かな笑みではなく、まるで悪戯が成功したような茶目っ気ある笑顔で笑っていた。
いつも読んでくださりありがとうございます。今回は「手紙」というワードで書いてみました。
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何卒何卒…。
ここ最近は短編しか書いていないので、そろそろ長期も書きたいなと思っております。
私の別の作品を読みたい方は是非とも名前を覚えてくだされ。
それでは次の投稿を楽しみにお待ち下さい。O_0