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長い廊下には左右にいくつもの扉がある。


「誰か…いませんか?」


後ろを振り返っても先が見えないほど、そして前を向いてもどこまでも続く長い廊下が真っ直ぐあるだけ。


一番近くの扉を少しだけ開くと、中は真っ暗で何も見えない。


「あの……誰か…」


声を掛けると何処からか私へ向かい小さな手が現れた。


「助けて…」


か細い小さな声に思わず手を握り自分の胸へ引き寄せれば痩せた身体は、まるで鉄格子の中に居た時の私と同じような幼い少女。


「ここから一緒に出ましょう」


ギュッと抱きしめ扉の外へ向かうのに、透明な壁に阻まれ出る事が出来ない。


「ありがとう、お姉ちゃん」


その声を最後に抱きしめていた少女は消え、再び廊下に立っていた。


腕の中にはまだ少女のぬくもりが残っているのに…


一度開けた扉を振り向くと扉は無くなり白い壁だけが不自然にあるだけ。次々と扉を開けるが中からは決まって少女や女性の手が現れ、必死に掴み部屋から出そうとするのに、皆、出る事が出来ない!


「何なのよ!何故、誰も出られないの!!」


扉は消え、そこにあるのは白い壁だけ。一番奥へ着いた時に、今度こそ中に居る人を救うとしか考えられなくなっていた。


小さな女の子も、私と同じ位の女性も居た。最後に皆、ありがとう。と笑っていたが何度も腕の中からぬくもりが消える瞬間に涙が流れて止まらない。


最後の扉の前で、呼吸を整えてから扉を開けると真っ暗では無く。今までと違い豪華な部屋に私と瓜二つの女性が窓際の椅子に座って、こちらを微笑みながら見ていた。


「彼女達を解放してあげたのね。ありがとうローザ」


そう言うと、私の傍まで来てふんわりと抱きしめる。


「ここは何処?彼女達は誰?そして、あなたは誰なの?」


まるで鏡のようなのに、彼女は私とは違う強い意思が感じられた。


「そうね。全て話すから座って貰おうかしら?」


一つひとつの所作がとてもキレイで促されるままソファへ座ると彼女も対面に座った。


「私はあなた。ここに来るまでに会った彼女達もあなたよ」


彼女の言葉が理解しきれない。


「何を言ってるの?」


そして彼女は、自身に起きた事をゆっくり話し出した。


彼女はエスルーア国の王女だった。小さい頃から隣国の王子スヴァルツとの婚姻を楽しみにしていた普通の女の子。お互い小国で二人の婚姻をきっかけに大国トレアからの脅威を危惧していた二国は、一つの国にしようと話が進んでいたのだ。


しかし、トレア国の式典へエスルーア国王女が出席した時。彼女を見初めたトレア国王子は、王女との婚姻を望むがエスルーア国から拒否された。


「トレア国王子ルナールは、身を引くつもりだったの。でもトレア国は小国が歯向かったと攻め入る理由にしてしまったわ」


悲しそうに眉を下げ笑う彼女は、最初の印象より儚げに見えた。


「トレア国の武力に対抗するにはエスルーアは余りにも弱かった。だから、せめて彼だけでも助かるように、私の魔力をスヴァルツへ渡そうと思ったの。そうすればスアルド国はトレア国から助かるかもと……」


そして、彼女はスヴァルツへ魔力譲渡する為に血の契約を決める。しかし、一気に魔力を流せばスヴァルツが壊れてしまうので、人目を忍びながらお互いの血を相手へ流して魔力譲渡の準備をしていたのに、エストレア国を建国して半年後に二人は見つかってしまい。彼女は王宮へ閉じ込められてしまった。


「ルナールはね、あの時。私しか見えなかった。涙を流しながら愛していると言い私を抱いたわ…」


白銀の瞳からはポロポロと涙が溢れ出ている。


「最初は、彼を憎んだわ。だから彼との間に子が産まれ王家の魔力を渡す訳にはいかない。もし、利用されたら第二、第三のエスルーア国が出来てしまう。でもルナールは優しかった。いくら私が拒絶しても少し困った顔をしながら私を愛していると何度も、何度も言うの。


スヴァルツとは違う愛を感じてしまった。ねぇ、ローザは私を軽蔑する?自分の国を滅ぼし愛する人と引き離した人に心を寄せてしまった私を」


何も答えられない。私には何故かその気持ちも分かる。けれどスヴァルツを裏切る事は私には出来ないだろう。


「ルナールはスヴァルツと私が会っていた事を聞いて狂ってしまったのよ。

私はスヴァルツも愛していたの、傍に居る事を許されないなら、せめて彼の役に立ちたかった。ルナールを裏切る行為だとしても、心の中にルナールを許せない気持ちもあったのね」


彼女には何も知らせずエストレア国はスアルド国を侵略してしまう。それを知った彼女は、ある決心をした。


「エスルーア国は王家の加護が必要なの。雪に覆われてしまうエスルーア国に太陽を呼ぶ事が聖女の務め。だから残った魔力で、エストレア国へ太陽が現れるように自分へ呪いをかけたわ。


何度も繰り返し産まれ変わり、エストレア国が太陽の加護を受けますようにと。


命を代償にしようとした時。牢屋に来たルナールに見つかってしまったわ。そして胸に剣を刺す前に、スヴァルツが死に魔力が私の身体に流れ込んだの。


私は余りの痛みに倒れ、扉を開け駆け寄ったルナールが見たのは、胸に浮かび上がった漆黒の薔薇の証。


ルナールは怒り狂い私の胸に剣を突き刺したの。漆黒はスヴァルツの色だからね。それを見た側近達がルナールを止めたけど私は死んだわ」


それから空に太陽が無くなり、半年後に再び太陽が現れるようになって、教会の洗礼に来た女の赤子に黒薔薇の痣を見つけた。側近が教会から報告を受け、教会で保護したが赤子は成長する前に亡くなってしまう。

すると、また太陽が無くなってしまった。


それから黒薔薇の痣を持つ子を教会で保護するようになったけど、大人になる前に亡くなる事から、徐々に扱いが酷くなった。どうせ次々産まれるからと思ったみたい。


でも、成長するに従い美しくなる少女を穢す人間もいた。すると相手は干からびてしまい、結局少女は殺されてしまう。何度も繰り返し産まれては死ぬ運命。


「そして、あなたが産まれたの。私はあなたの一番奥に居てずっと見てたわ」


「私が死んだら新しく産まれた人が彼の唯一になるの?」


彼女の話が真実ならば、スヴァルツが求めるのは胸に浮かぶ黒薔薇を持つ者。もし、私が死んだら次の人が彼の唯一になる。


「ふふ、ローザはスヴァルツを愛しているのね」


「私には、スヴァルツだけ。あとは何もいらない!」


「その胸にある薔薇が深紅になった時。呪いは解けるわ。忘れないで魂の輪へ戻してと祈るのよ」


ふわりと彼女が笑うと、私の意識が段々薄くなる。


「待って!まだ聞きたい事が……



手を伸ばすのに何処かへ落ちて行く感覚がする。


温かい腕の中。私はこの腕を知っている。


「スヴァルツ…」


ゆっくり目を開けるとホッとしたようなスヴァルツの顔。


「おかえり、俺のローザ」


彼の胸に顔を埋めると、帰ってこれたのだと実感した。


「あのね。私、長い夢を見てたわ。とても長い夢……」

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