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王子達は魔物の森へ向かっていた。


同行するのは騎士のアレクと神官のネシア。四人は闇王との話し合いで聖女へ謝罪した後、闇王と聖女の住まう地をエストレア国内にすべく馬を走らせている。


聖女が連れ去られ、エストレア国は徐々に太陽が現れる時間が減り。厚い雲に覆われ作物も実り前に枯れ始めていた。このままでは寒さと飢えにより民は死ぬだろう。その前に許しを得なければ!


「少し休みましょう、途中で倒れてしまいます」


アレクからの言葉に、ルーン殿下とステル殿下は気が急くが、たどり着けなければ意味が無いと仕方なく休息を取る。


「この地を捨てる覚悟もしなければならないだろう」


ルーン殿下の言葉に頷くのはステル殿下のみ。


今の聖女が死ねば新しい聖女が産まれる。今度こそ大切に慈しめば国に留まってくれるだろう。


陛下と教皇の言葉に頷いたのは、アレクとネシアだった。王子二人は今の聖女にこそ謝罪が必要だと思っているが、同行した二人は聖女を殺すかも知れない。


「聖女は産まれ変わります。今の聖女に拘る必要は無いかと」


神官であるネシアの言葉に、怒りが込み上げる。


「お前達は、自分の子でもあの地下牢へ入れると言うのか!!」


ステル殿下の言葉に、ネシアが頷く。


「それで民が救われるのならば、例えこの命でも差し出しましょう」


ネシアは、さも当たり前と言うがアレクは地下牢の存在を知らなかった。


「聖女が地下牢?教会奥で大切にされていたと聞いたが」


アレクへルーン殿下が説明する。もし今の聖女を殺すなら彼の役目だろう。彼を味方とするには、彼の良心へ訴えるしかない。


「そんな……では、私達はその少女達の命を犠牲にしていたと?」


アレクは、信じられないとルーン殿下を見たが、ステル殿下からも、


「教会が配る聖水は、聖女となった少女から採取した血を薄め、土地を浄めていたのだ。


聖女が住むだけで良い。太陽さえあれば、民と共に生きる術も探す事が出来るはず。


我々はこれ以上、罪を重ねてはいけないのだ」


その言葉にアレクは考え込むが、ネシアは違った。


「その為に多くの民が命を落としても良いと仰るのですか!?」


王子二人は思う。教会側のネシアは、きっと話し合いをしても平行線のままだろう。


「その少女達も守るべき民の1人なのだ。努々忘れてはならぬ」


ルーン殿下の言葉を最後に皆、口をつぐんだ。


再び馬に跨がろうとした時。初老の男が近付いて来た。


アレクが腰に差した剣の柄に手をかけたが、男は両手を上げ口を開く。


「私はあなた様方をお迎えに参ったのみ。聖女様の元へご案内致します」


片手を胸に当て、もう片手は背中へ回し恭しく頭を下げる。


「そなたは?」


ルーン殿下からの問いに答えたのは、初老の男の後ろに立つ大柄な体躯で、頭に角を持つ男。


「俺はカルマン。こちらの方はメデオ殿だ。我が主の城まで案内する」


初めて見る異形の者達に、四人は身体を強張らせたが、一歩前に出たのはルーン殿下。


「案内、感謝します。我々の行動を知っておられたのか?」


「私達にも、影はおりますゆえ」


ニタリと笑ったメデオ殿と呼ばれた男に、ルーン殿下は背筋が冷たくなる。

ステル殿下もルーン殿下の隣へ並び、二人へ向け口を開いた。


「私達は、闇王と話し合いがしたい。聖女と闇王を引き離すつもりも無い事はご理解頂きたい」


ステル殿下の言葉にもメデオ殿はニタリと笑って頷いた。


「では、参りましょう」


乗ってきた馬は、放されれば勝手に王宮へ帰ると聞き。四人の馬は放たれた。カルマンと名乗った男が連れてきたのは、普通の馬より一回り大きな魔物の馬で、四人が其々跨がると手綱を離せば振り落とされそうなスピードで駆け進む。


一晩中走り抜け、握力が無くなり空が白々と明るくなる頃。森の中に立派な城が見えてきた。


「中へ入りましたら、少し休憩なされると宜しいかと」


メデオ殿の言葉に四人は頷く。身体の節々が悲鳴をあげているのは、夜通し走った事より、物凄い速さで進み必死に手綱を掴んでいたからだろう。


「メデオ殿。お気遣い感謝します」


ルーン殿下が声を振り絞り言えば、メデオ殿が小さく頷くと四人は馬から降りる。出迎えた侍女が先頭に立ち、王宮の中を進んだ。


通された部屋には4つのベッドの他に、軽食やお茶がソファの前にあるローテーブルにセットされていた。


「毒味がご必要なら、お言い付け下さい」


ペコリと頭を下げたのは、ウサギの耳をした異形。可愛らしい顔立ちに茶色のふわふわした髪と、くりくりした丸い茶色の瞳が人目を惹く。


「大丈夫です」


アレクが言うと侍女はペコリと頭を下げ退室した。


「異形の者達は狂暴だと聞いたが、話に聞いていたより、優しいのかも知れない」


ルーン殿下の隣に座るステル殿下も同調するように話を続ける。


「本当だね。もっと早く知っていれば聖女にも、あんな劣悪な環境から救う手立てもあったかも知れない。それに闇王と二人を会わせてあげる事も出来たかも知れないね」


アレクが侍女が持ってきた物を毒味して、王子達へ差し出す。


「毒はありません」


聖女が消えて半月。王宮から出発して10日以上、久しぶりにゆっくり食事をした四人は空腹を満たすとベッドへ倒れ込むように眠る。



1人の侍女が寝静まった部屋へ入ると、壁に仕掛けられた小部屋に潜む。


そのすぐ後から、メデオと男の声が四人が寝静まった部屋から聞こえる。


「この男達の剣に毒を仕込め。少しでも聖女が触れれば、人間の器など容易く死ぬ」


「御意」


壁の裏に隠れていた侍女は、二人の気配が無くなったのを確認して、四人の剣を回収すると足早に部屋から出て行った。


早くお母さんへ伝えなきゃ。

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