変装でGO
大見得を切ったものの、いざ当日になると緊張がみなぎる。
トリスタン様と話し合い、私たちの身分は伏せることにした。
貴族が訪問し伯爵家の依頼をすれば、結局は「嫌でも断れない」状況を作ることに変わりないからだ。
特別に美味しい苺を作ることができるグーチさんに心からの賛同を得た上で、手を借りたいのだ。
『お上の命令』だと受け取られないようにするためには、どうしたら良いか。
トリスタン様とベンと話し合い、「これは指名ではなく、応募制」という体裁を取ることに決めた。
領地内の名だたる苺農家を対象に、新プロジェクトに協力したい者を募るのだ。
まず最初にグーチさんのところへ来たということで気分は良いだろうし、私達のプレゼンを聞いて、乗り気になってくれればいい。
嫌なら手を挙げなければ良いので、強制だという圧はない。
「しかし、それでもし、グーチさんが名乗りを上げなかった場合は……」
ベンが弱気な顔をした。
「そのときは仕方ありません。他に目ぼしい農家は何軒かあるのでしょう? やる気のあるところへ委託しましょう。真心を尽くせる作り手でなければ、美味しいものは出来ないのでしょう?」
そうキッパリ言うと、ベンの迷いも吹っ切れたようだ。
で、そんなかっこ良く啖呵を切っておいて何だけど、私は今とっても緊張している。
身分を隠すために、変装をしたことはとても新鮮で楽しい。
しかし問題は……
馬車の中、ちらりと隣を見た。
ああ、まさかのトリスタン様。私と同様にわざと地味な成りをして、役人に見えるように扮装している。
トリスタン様曰く、「子爵家の令嬢が家長に黙ってこっそり行動をした結果、何かがあっては責任問題になる」ため、その責任を持つために、自ら同行して下さるそうだ。
なんて責任感のある、できたお方なのだろう。
「それに興味があるし。あなたがどういう風に苺農家を口説き落とすのか」
どうせ出来ないのだろう?という嫌味なニュアンスではなく、屈託のない素晴らしい笑顔でそう仰ったトリスタン様。
与えられたプレッシャーは強だ。
ああ、それにしてもトリスタン様はお美しい。ピンクがかった金髪が目立つため、布で巻いた上に帽子を被っておられるが、隠しきれない美貌と高貴さ。
こんな役人がいる?
ご令息オーラでバレちゃわない?
ああ心配だ。ああプレッシャー。
ドキドキが高じて、テンションが上がる。
大丈夫、頑張れ私。
実力以上の力を発揮するには、いくらかプレッシャーがあった方が良いそうだし。
これも前世で学んだことの1つだ。