手紙
ゆっくりしている暇はないらしく、私の誤解が解けたことに安堵したパーシーは、すぐに帰って行った。
私も家に帰り、コンテストで気負っていた分も含めてどっと疲れが出た。
そしてエノーラのことを思った。
エノーラに暴言を吐いたのは、パーシーに嫌われるためだ。そしてパーシーの気持ちがエノーラに向けばいいと思ったからだ。
なのに結果は全く違った。
パーシーは私に幻滅せず、それどころか「嫉妬しちゃって可愛いな」なんてことを言って、嬉しそうに私を見る始末。
これじゃ心を鬼にしてエノーラに暴言を吐いた意味がない。
単にエノーラを傷つけただけだ。
親しくなった覚えはない、身のほどを弁えろなんて、なんて酷いことを言ってしまったんだろう。
走り去ったエノーラをパーシーが追いかけて、抱きしめてくれれば良かったのに。
ううん、パーシーのせいにしても仕方ない。
悪いのは私だ。故意にエノーラを傷つけた。
翌日、居ても立っても居られなくなった私は、領主様のお城へ出向いた。
エノーラとスザンナに謝りたかったからだ。
しかし2人はすでに旅立った後だった。
時すでに遅し。がっくりしていると、
「おいお前、ちょっと来い。話がある」
顔を見せたのはマークス様だった。
顎で示された方へ付いていくと、部屋へ通された。
何だろう、何だか怒っていらっしゃるようだが、いつも怒っているような顔をしているから、通常通りといえば通常通りだ。
「滞在していた娘――付き添いの方の娘から、大方の話は聞いた」
「エノーラからですか? その話と言うのは……」
「お前昨日のあの後、見合い相手とあの娘との仲を疑って、ひどく怒ったそうだな。城に戻ったら娘が泣いている姿を偶然見かけてな、話を聞いたんだ」
そう来たか。そう言えばそうだった。マークス様は無愛想で冷たくて感じが悪いくせに、実は面倒見の良い、世話焼きたがり屋さんであることは承知している。
「お前に誤解されたままでは辛いと言うので、仲裁してやると言ったんだが、合わせる顔がないと言って帰っちまった。手紙を預かっているから、読め」
ずいと押し付けられた手紙をその場で開いて読んだ。
エノーラが一生懸命にしたためた文字を目で追ううちに、とめどなく後悔が押し寄せた。
エノーラ、本当にごめんなさい。
パーシーとくっつけるためにとはいえ、心無い言葉をぶつけるべきじゃなかった。
「……帰って返事を書くなり、燃やして灰を捨てるなり、お前の好きなようにしろ。何でもやっちまった後では変わらないが、今後どうしたいかは真剣に考えろ。後悔を重ねるなよ。言ってる意味は分かるな? 昔とは違うお前なんだから」
手紙から顔を上げて、マークス様を見た。
いつか見たときのような、乱暴だが熱意のある目をなさっている。
いつだったか見覚えのある。生徒に毛嫌いされていたが、誰よりも生徒思いだった生徒指導の教師の目を彷彿とさせた。
「はい……先生」
「は?」
「あっいえ、マークス様は人生の先輩ですから、まるで先生……師匠のようだなと」
「つまらん世辞はいい。じゃあな、話はそれだけだ」
途端にクールに戻ったマークス様に、素っ気なく返された。
ああやっぱり難しい。
決して悪い人ではないというのは最近よく分かってきたが、だからと言って付き合いやすいかと言えばそうでもない。
その後フィリスへのフォローは大丈夫だったのか等とこちらも余計な事が気になったが、気安く聞ける雰囲気は勿論ない。
マークス様との付き合いづらさを噛みしめつつ、エノーラからの手紙を握りしめて帰宅した。




