時間は解決してくれない
遼さんの言う先生ことトリガオ先生は午後からの課題だった。因みにトリガオ先生というアダ名は遼さんがやたら鳥に似てるというのでまだ見ていないが勝手にそうつけた。
午前の課題は「殺陣」を選択した。内容としては、刀や着物の作法を教わり。アクションクラブから来て頂いた人達を切るというものだった。
先生は黒い袴を着ていても筋肉質と解る身体。色黒で目の周り深いシワが特徴的だった。ブラック先生。
6つの動きを習い、4つのグループに分けられ行う。
「では」ブラック先生の見本演技が始まる。
斜めに切り、後ろ横切り、三歩歩き、逆斜め切り、後ろ差しの縦切り。
決して速い動きではなかった。むしろ解りやすいようにゆっくりやっていたのだろう。だが一部の隙もない流れるような動きだった。
「これは人を殺す動きではありません。自分を見せる動きです。それを心がけでやってみて下さい。」ブラック先生は言った。
その時だった。アクションクラブの男性が側にあった木刀でブラック先生に襲い掛かったのだ。
頭を守ろうと手を前に出すブラック先生。剣先が当たる寸前、木刀男をリーダーらしき男が蹴りで吹き飛ばした。
「うっうぅ!」木刀男は失神する。
「失礼しました!!」リーダーがブラック先生に土下座をした。
「今後、その男を連れてくるな それが条件だ」ブラック先生の呼吸は乱れていた。
「絶対に連れて来ません」リーダーは、頭を付けたまま動かなかった。
チャイムが鳴り、生徒達は部屋から出て行った。
襲い掛かった時の男の目には見覚えがあった。あれは、あの馬鹿の目だ。男に侵入しようとしてうまくいかず暴走したのだ。あの男のような羽目にあった人間を見るのは初めてではない。そうあの人気ミュージシャンの暴力事件は、遼さんが原因なのだ。
半年前
「昔の仲間に会いたい」遼さんはコーヒーを飲みながら言った。
「会ってくればいいじゃないですか 一度メンバーには会ってるんでしょ 見えていなかったみたいですけど」遼さんは別に俺の近くにいなくても行動できる。ただ、幽霊?なので認識はされない。
「おい!俺の命令が 」
「聞けませんね!」俺は話を遮った。
「あなたの罪の感情を、背負っただけで一ヶ月の記憶が失くなるのですよ!俺、それで自分を犯罪者にする所だったんですからね!」俺は何を言っている。
「彼らに会ってもあの人は戻って来ませんよ」俺は冷静になった。
「戻ってくる。約束したんだ。お前はあいつらからセイラの話を聞け。それだけでいい」
午後9時
地下へと続く階段を下り遼さんの昔の仲間が働いているライブハウスのドアを開いた。床掃除をしていた元ドラムのマイトさんと目があった。
「お久しぶりです」俺は頭を下げた。
「あっアジツケ!」
アジツケとは、俺の昔のアダ名だ。音楽番組の企画でだれが一番旨いチャーハンを作れるかというのがあり収録後、最下位になったベースのセイラさんのチャーハンに俺が味付けした処、非公式ではあるが一位のボーカルの遼さんより旨くなってしまったのでそこからそう呼ばれていた。
「どうした?その顔だと店知ってたみたいだな。俺に何か用か?」マイトさんは不思議そうにいった。
「セイラさんのことが知りたくて」聞いてしまった。
「セイラのことか、嬉しいよ。お前がセイラに興味を持ってくれて」マイトさんは深い息を吐いた。
「酒飲むけどいいか?」
「あっどうぞ」
セイラさんは人気バント「ユニオン」のハルカに憧れギターを始めたこと。鍋パーティーで遼の家へ行き遼の作った歌詞を偶然見つけて勝手に歌にしてめちゃくちゃキレられたこと。それがきっかけでマイトさんのバンド「マーズルド」結成のきっかけになったことなどを話してくれた。
「ありがとうございます」この話はやはり俺も聞かなければならなかった。どんなに苦しくても。
「お前がそんな顔する必要はねぇよ 全部、あいつが悪いんだ」
「違うんです 俺が教えたんです! 装置の使い方 本当は」震えが止まらない。
「アジツケ!くだらねぇこと言わないでくれ」マイトさんは諭すように言った。
「懐かしいね セイラなんて あいつって俺達の追っかけしてたんだろ」
驚いた。超有名アーティストのWXが現れたのだ。
「バイト連れてきたぜ」WXが言った。
そこには耳には勿論目や口をピアスだらけにした男がいた。ワッカ。
この独特の感じ、ここにいてはダメだ。そう思った時だった。
バーシャン!!
WXがマイトさんに殴り掛かったのだ。
見境なく殴りつけるWXその目は青く光っていた。
さすがにヤバいと感じたのかワッカがWXの溝内を打って気絶させた。
俺は必死で逃げた。
もうマイトさんには会えない。彼は売人になっていた。
遼さんは、今、俺の側にいるだろうか。
「ありがとうございます」俺は呟いた。
翌朝のスクープでWXが暴力事件を起こした。とあった。勿論、あの件は書かれていなかった。
「日を見れば 変わる笹風 不動山」
「午前の授業、大変だったみたいですね」
ハイクさんにまで届いているのか。
「あぁ、演技じゃなかったからね」俺は本当のことを言った。
「演出の課題、参加しました?」ハイクさんは嬉しそうに言った。
「昨日行ったよ」あまりいい思い出はないが
「やりましょうよ喧嘩!」キラキラの目だ
「飯食いながらでいい?」お腹は空いていた。
「いいですよ、テーマは、一人暮らしをする兄を止める妹」
なかなか面白い処ついてくるな。
今日の昼飯はハンバーグ弁当にした。ちなみにハイクさんはサンドイッチを頬張っていた。
ハイクさんのおかげで気分もリセットされた。
俺は午後の授業へ向かった。
学校へ戻る道
イケメガネが誰かと話していた。すぐに解った。彼がトリガオ教師だと。何を話しているか気にはなったが通りすぎることにした。
教室
「えっ自習ですか?」少しほっとした自分がいる。
「先生、急用ができたとかでね。でも脚本は書いてもらうわよ」居残り教師が言った。
余計なことを考えるな。今は、書くことを優先させよう。
午前2時
今日は、遼さんは現れなかった。というか、しばらく遼さんがこないという平和な日々が続くのであった。