54点
俺は「演出」のクラスへ向かった。現場を知っていたので、ある程度なら理解出来そうだったからだ。
予想通り、コワモテの先生だった。
初日とあって今日は「アングル」の授業だった。一人の生徒をカメラでいろんな角度から見る。人の感情は「アングル」でも変えることができる。
「とりあえずはこんな感じでやっていく。それと俺の授業の最後では代表者に喧嘩をしてもらう」
ざわつく教室。
「へーでら面白そう」一人の女生徒が立ち上がった。めちゃめちゃスタイルがいいが訛りが気になった。ナマアシ。
「じゃあ相手はお前だ」コワモテ教師は俺を指差した。
「えっ、ちょっと」引き出しを全開にする。
「テーマは別れたい女と別れたくない男」
「時間は10分」
「よーい、アクション!」
えーい、ままよ!
「もう、あんた支えんのマジで疲れたんだよ!」軽蔑の目で見るナマアシ。
俺、ヒモ役かよ。俺の知ってるヒモは決してイケメンではない。それに俺のキャラを配合。イメージはこんな感じか。
「何でだよ、この前のネタだって一回戦通ったじゃん!」これで舞台は整った。あとは言葉のセンス。
「あんネタ考えたの相方だろ!そんでも真面目に審査して54点!」
リアル。俺ならこいつと別れたいでもしがみ付かなければ。
「あれは、俺がアンケート調査員に似てたから生まれたネタなんだよ。だからこれをコンテンツに 、」
「はい、カット!」
「じゃ今日はここまでです」コワモテ教師は言った。
続きがしたい。こんなので終わらせたくなかった。
ここは学食がないので何台かのキッチンカーがやってくる。いろいろ迷ったが今日は「野菜炒め弁当」にすることにした。
「やっぱり54点だなぁ」
その訛り!予想通りナマアシ。
ナマアシがロコモコ丼をもって近付いてきた。
「なんで野菜炒め?あんなにすべって。あんたって裏切らない54点だなぁ」
「俺はカメラ見ると緑を見たくなるんだよ。それとなんだ54点って平均点採れりゃいいだろ」俺は54点というのがどうも気に入らなかった。低いと思って気に入らないのではない。俺は役者を目指している。役者に平均点は必要ないからだ。
「お前は、ロコモコ丼って、せっかくの人種なのに逆に平均点じゃねぇか」皮肉を込めて言ってやった。
「ロコモコ食べて何が悪い!ハイカラだろ!すげぇだろ!」ドレスを着て顎をあげる女王が見えた。
ここだ!常にアンテナは張っておくものだ。
「俺は!野菜ジュースも買ってるぞ!」さっきの演技は取り返した。俺は満足してしまった。
「あなたの演技は独りよがりだ」彼女は微笑んで言った。その言葉は訛りが消えていた。
「えっ」やられた。彼女はバイリンガルだったのだ。
ロコモコ丼が点数を上げていた。最初から負けていた。
「じゃあね、54点」
両手で長方形を作って俺を覗いている奴がいた。
髪はボウズ、眉毛も剃っていてなかった。しかし、いかついというよりは童顔で幼い感じがした。
俺はこいつを睨み付けた。
「あわてないで下さい 私はあなたを撮りたいだけです」純粋な懇願
「俺を?撮りたい?」
お前、さっきの口論見てただろ。それに俺は、自他共に認める54点だぞ。
「僕は映画監督を目指しています。僕の求める映画のテーマは「削ぐ」です。あなたが54点なのはツッコミだからです。僕ならあなたを17点にまですることが出来ます」
俺は馬鹿にされているのか?不思議に思ったが俺は17点になりたかった。とんちにやられた。また、負けたのか。
「よろしくな、イッキュウ」
「あっはい!」
午後の過程は、イッキュウの進めで「ダンス」にすることにした。しかしどうもついてない。そこにいたのは、ナマアシだったからだ。この学校の「ダンス」の授業は変わっていた。あるテーマを出題され、それを表現するというモノだ。今日のテーマは「人間」だった。音に合わせ皆がそれぞれの「人間」を表現していた。特にダンス経験者などの動きは面白かった。俺の番になり、いいと思った動きをとりあえずパクった。そして、ナマアシの番になった。そこで俺はナマアシの思う「人間」を知った。
俺は、リサイクルショップで電子機器の修理のバイトをしている。ハンダ付けが主な仕事だが、有線放送が聞ける場所なのでカラオケ好きな俺には一石二鳥だ。それと、火曜日に流れるラジオドラマも俺のお気に入りだ。
「火星物語」
ここは火星。これは、レアメタルマーズルドの炭鉱員の物語である。
ユウ「えっ、お前、元アイドルだったの?」
マリー「アイドルといっても地方のですけど、人気出なかったので2年でなくなりました。」
ユウ「なんかその頃の話聞かせてよ」
マリー「水着でパチンコを打つ仕事がお金が良かったです。只でパチンコ打てて儲かればギャラにプラスされたので」
ユウ「へー、どういう時に自分の落ち目って解んだよ」
マリー「仕事以外のパーティーが減るんですよ 黒い噂とかって若いウチは逆にないんです。パーティーにいっても何もしなくてもお金が貰えるんです 何かを要求された時が私たちの落ち目だと思います」
「聞きたいです。グラビアのゴールって何ですか?」
午前2時 俺の部屋
今日も俺は珈琲を淹れる。
「よっ54点」遼さん登場
腹が立ったが微笑んでみせた。
「どうしようー俺、恋しちゃったよ」
「まさか、ナマアシにですか?」予想よ当たるな。
「他に誰がいんだよ あんなダンス見せられて好きになんねぇ奴なんていねえよ お前狙うなよ」
「狙いませんよ むしろ俺は嫌いです」俺は嘘をついた。
「そうだな54点だもんな」珈琲を飲みほす。
今度、塩入れてみよう。
「それはそうと、明日、先生が来るらしい 先生の授業を受けろ 解ったな?」遼さんの目が光る
「解りました」
消える遼さん。眠る俺。