四,「ツカサ・二」
ーー某所 パチンコ店跡 駐車場。
夜の世界。奥の見えない広い駐車場。
まだこの店が繁盛していた頃はこの場所にも光があったことであろう。
闇の世界。周りには建物の無い暗い世界。
光などは届かない。この世界にただの人間はいない。
・・・・・・・・ヤツらに誘い込まれない限りは・・・・。
「ここは、どこなの?」
またひとり、連れ込まれたようだ。
「ねえ、誰かいないの! 誰か!?」
夜の世界。 連れ込まれたのは二十代半ばのフォーマルスーツの女性。
自分がなぜこんなところに迷い込んだのかわからず途方にくれ、何処にも人の気配の無いことに耐えかね、人を求めて叫んだ。
・・・・・・・・・・・・。
返答はない。ただ、彼女の声が響くだけ。
恐怖と不安が彼女を包む。
(どうしよう・・・・こんなことになるんなら撒こうなんて思うんじゃなかった)
彼女はよく解らない視線に悩まされていた。 同僚に相談しても警察に行っても、視線の悩みは解決することは無かった。
そして今夜。視線に耐えきれなくなり。いつもより違うルートを取り、なるべく人混みに紛れて自宅への帰宅を試みた
筈だった・・・・
だが、結果はこんな何も見えない所へと迷い込んでしまった。帰り道も解らなくなってしまった。
「やだこんなところ、早く家に帰りたい・・・・」
ひとりという不安。暗闇という恐怖が彼女の心をブレさせていく。
(誰でもいいから通りかかってよ・・・・)
震えながら駐車場をさ迷う。だが、彼女の願いを叶えるような人影は現れない。
ただ、彼女の背後から近づく別な存在。
彼女の望む人ではない存在。
姿を見せず。気配を消して近づく存在。
音もない。恐怖に心が潰されそうな彼女は、全く気づかない。
そして
ヤツらは現れる。
狙った獲物の心を
喰うために。
彼女は気づかない。
もう、心を喰われるしかない。
この暗闇の
「カゲ」達に。
「え?」
しかし
「なに?」
一陣の風が彼女と
「カゲ」の間に割って入る。
背後から巻き起こった風に彼女は後ろを振り向いた。
そこには彼女に背を向ける硯の墨のように
「黒い」ポニーテールの黒髪。
夜の闇に溶け込む喪服のような
「黒さ」の制服。
そして
気だるそうに肩の上に乗せている漆黒の
「黒き」刃の刀。
この
「暗い」世界に降り立った新たなる
「黒」は見た目年端のいかない少女。
「・・・・誰?」
思わず間の抜けた声で彼女はその背中に問いかけた。
少女が気だるげに首と左手だけ振り向かせ
「眠ってろ」
少年っぽい口調でそう呟くと彼女の目の前に自信の揃えた二本の指を向け、縦に割り
ーーキン
という金属を軽くぶつけたような何も付けていない指から鳴るはずのない音が起ち
「・・・・あ」
彼女は僅かな声を漏らしてその場に倒れ、気を失った。
「おい、後は頼むぜ」
少女は首を前へと戻し、気だるげに何者かに命令した。
〜〜ああ、任された〜〜
少女の頭の中に声が響いた。
だが、姿は見えない。声が、少女の頭の中でのみ響く。
〜〜しかしいいのか? こちらを優先すると、俺は力を貸せんぞ〜〜
響く声は中年男性のような声と口調で少女に問いかけた。
「問題無い。あれぐらいの
「カゲ」は俺ひとりで余裕だ」
少女はコキリと首を鳴らし、一歩前に出た。
その背中は
「余計なこと言わずに行け」と言っていた。
〜〜了解だ。
「嬢ちゃま」〜〜
それを何者かは読み取ったのか。
笑うような口調で応えると
風が巻き起こり、倒れた女の姿が消えていた。
残された少女は溜め息ひとつを吐き
「誰が譲ちゃまだ」
と、今はいない何者かに答えると
「さぁ、やろうか」
目の前の
「カゲ」に挑発的な言葉を向けた。
瞬間
「なんだ?」
無数の黒い球体が彼女を取り囲んだ。
それはグルグルと少女の周りを回る。
それを見て、少女は鼻で笑った。
「いまのは気が触ったか? それとも獲物を盗られてご機嫌斜めか?」
「カゲ」の球体のひとつが少女に向かって突撃する。
「おっと」
だが、少女はそれをハエを叩くように片腕で刀を振り、真っ二つにした。
球体は霧のように消えていく。
「なんだよ? 代わりに俺を喰おうってか? 勇気あるなお前ら・・・・いや」
少女は刀を再び肩へと担ぎ直しトントンと叩いて辺りの球体を見回した。
「ら、じゃないな?
「カゲ」はひとつだ」
少女はユラリと動く。
無数の球体も動き出す。
「お前じゃない」
刀を振るう。球体がひとつ消える。
「お前でもない」
刀を振るう。球体が二つ消える
「コレも違う」
刀を振るう。球体が四つ消える。
「ウザったい」
刀を振るう。球体が八つ消える。
少女が片手で刀を振るう度に球体が次々と霧となって消えた。
少女は何事も無いように球体の檻を歩き続ける。球体の突進は何も意味をなしてはいなかった。
「見えたぜ」
少女は薄く笑い
「本体は」
片手を真っ直ぐに前に向け
「てめぇだろ」
刀を迅速の槍のように突き出し、ひとつの球体の球体に突き刺さる。
瞬間。周りの球体が全て霧のように消えた。
「終了だな」
突き刺した刀を少女は手首を切り返し、頭上に突き上げる。
本体の球体も霧のように消えた。
「ふう」
全てを終えた彼女は刀を横に一振りし、刀を手にしたままうなじに刀を添えるとそのままポニーテールを斬るように上に振るう。
ポニーテールが夜の闇に舞う。
しかし、少女のポニーテールは切れずに少女の手には刀は無くなっており、ただ髪を掻き上げるような仕草で片手を横に伸ばし、ポニーテールは何事も無かったように元の位置へと戻った。
「今回は結構楽だったな」
少女は軽く伸びをした。
〜〜油断はしないほうが良いのではないか?〜〜
少女の頭の中に声が響いた。
「んだよ、帰ってくんの速えな? あの女の人はどうした」
〜〜問題は無い。彼女の住むマンションとやらに送っておいた〜〜
「処置は?」
〜〜抜かりは無い〜〜
フ、と鼻に掛かったような笑いも混ぜた声が響く。
〜〜朝方にはあれは夢だったと思うさ。今回は昨日のような例外は起きないだろう〜〜
「ありゃ、お前が置いていったからだ。俺のせいじゃねぇ」
ギロリと少女は何もない地面を睨んだ。
〜〜残念。俺はそこにいない〜〜
・・・・・・・・・・・・
少女は頭をボリボリと掻く。
「頭にボンボンと響いて、お前の居場所なんて判別できるかっての」
〜〜それは失礼したな嬢ちゃま〜〜
「いい加減、譲ちゃまやめろ」
クックッと響く笑いに少女はうんざりとした顔で歩き始めた。
〜〜?? どうした〜〜
「・・・・帰る」
〜〜報告は終わってないが?〜〜
「問題はねえんだろ? どうせお前のことだからあいつに丸投げしたんだろ」
〜〜丸投げではない。最後投げだ〜〜
「あそ、じゃ、それでいい」
〜〜今日はいやに淡白だ〜〜
「とっとと帰って眠りたいんだ。明日に備えてな」
〜〜あした?〜〜
「ああ、光〈ひかり〉が引越し祝いをしてくれるらしい」
〜〜ほう? クックッ〜〜
「なんだよ? いつにもまして気持ち悪い笑いだな」
〜〜いや、なに、気にするな。ところでツカサ嬢ちゃま〜〜
「あん?」
〜〜あまり入れ込むなよ?〜〜
「わけわかんねえこて言ってんじゃねえよ」
「アホらし」と漏らし、少女は、この暗い世界を後にした。
休日、少年・小泉 光〈こいずみ ひかり〉は買い物袋を持って、小泉家の向かいにあるボロアパートの前に立っていた。
「まさか、本当にここに越してくるなんて・・・・・・・・」
今にも崩れそうな年期の入ったボロアパートを眺めると眼鏡が斜めに擦れる。
「とても女の子が一人暮らしするような・・・・・・・・」
言葉が出なくなる。
このアパートは取り壊されるのはいつかと祖父・宗次〈そうじ〉がお隣さんや、よく来ていた得意先の人間と話しているのをよく聞いていたのでまさか新たな入居者が現れるとは夢にも思わなかった。
・・・・・・・・・・・・。
階段を上るとギチギチと音がして赤錆が地面に落ちる。
手すりを持ちたくなるほど危なっかしいが、その手すりもなんだか原色ベタ塗りな緑色のペンキが毒々しさ全開である。 そこかしこに飛び散ったり、滴り落ちているのを見ると恐らく大家さんか誰かが適当に塗りたくったのであろう。
とてもじゃないが光は触りたくないと思った。
不安定なまま階段を上る。
「えーっと、たしか・・・・一番左端ていったかな?」
昨日の夕方、ツカサのリクエストで自信の手料理を(メニューはまだまだあまっていたそうめんの残りを全部キムチスープの中にぶちこんだキムチにゅうめんだ)食べている最中にアパートに引越してきたことと部屋の場所を聞いていたのだ。
左端の部屋の前までやってくると、なにやら小さな板が玄関ドアの隣に掛けてあった。
ーーーー
「影見」
デカデカと妙に達筆な字でそう書かれてあった。
つまりこれは
「表札・・・・だよね?」
そして、よく見るとそれはカマボコ板を改造した手製の物らしく。
「・・・・・・・・」
光は思わず言葉を失って手製の表札を目をパチパチとさせてしばらく見続けた。
(なんで・・・・カマボコ?)
等と光が考えていると
突然ガチャリと扉が開き
「ん、なんか気配があると思ったらやっぱり光か」
ヌッとこの部屋の主影見 ツカサが顔を覗かせた。
「うあっ!! と、エッ!?」
光は突然のツカサの登場とアルことに二重に驚いた。
もうカマボコ板の表札などどうでもよくなるくらいの衝撃がそこにはあった。
「ん? なんだ、変な声出して」
「せ、せ・・・・・・・・」
「せ? なに? 背中でもかゆいのか?」
「セーラー服じゃない!?」
「・・・・は?」
ツカサは
「なに言ってんだ?」といった顔で片眉を下げて難しい顔をした。
だが、ツカサのセーラー服以外の恰好を見た光にはそれは意外で予想外な姿だった。
髪はいつものポニーテール。硯の墨のような綺麗な
「黒」これは変わらない。
だが、そこから下が違っていた。
喪服のような
「黒さ」と限りなく
「黒に近い紫」からなんの飾り気もない市販のワゴンセール等で売っていそうなノースリーブの
「黒い」Tシャツ。
その下はスカートではなく短めのデニムショートパンツ。色は
「黒」
その下には
「黒」のストッキングは付けておらず。真っ白な素足が大胆にさらけ出され、その足首にはビニール製で安物の
「黒い」ビーチサンダルを突っ掛けていた。
「・・・・・・・・」
「おい、俺が普段からあんな恰好していると思っていたのか?」
「・・・・・・・・」
「?? 光? どうした?」
ツカサの声は光には届いていなかった。
いま、光の心は違う世界にぶっ飛んでいた。
(・・・・・・・・あぁ・・・・結構・・・・うん・・・・)
「!!?」
突如、光はこちらの世界に戻ってきた。
いわゆる、男性特有の自然現象が発動仕掛けたためであるが。
「ん? なんだ反応したと思ったら前屈みになって・・・・トイレか?」
「え!? い、いや! これは!?」
光は両手に買い物袋を持ったまま慌てた。
本当のことなど言えるはずもない中腰態勢。じんわりと嫌な汗が滲み・・・・・・・・。
「光、無理すんな。我慢は体に悪いぜ? 中に入ってトイレ行け。ほら、荷物は俺が持つから」
と、光を心配して両手の買い物袋に手を伸ばすツカサ。
「っっッッ!!!?」
しかし、中腰態勢の彼にはツカサに近づかれたことで、それはとても今の彼の眼や身体には
「猛毒な」光景が広がって・・・・・・・・止めた彼の限界が、トッパ
「ゴメンナサイ!!トイレ、ガリマス!?」
ツカサに背中を器用に向けて光は、名のごとく
「光速」で場所も教えてもらっていないトイレに一発で駆け込んだ。
「ああ、しっかり出しとけよっと」
ツカサは、既に見えなくなった光にそう言ってから自分も買い物袋を持って部屋へと入っていった。
「いやに念入りに手を洗うんだな?」
「いやぁ、まぁ、トイレにいったら、よく洗わないと・・・・ねぇ」
トイレから出た光が親の敵のように手をゴッシゴシと洗うのを見てツカサは背中越しに不思議そうに眺め、光は曖昧な言葉でそれを返した。
「ああ、確かに出すもん出した後はキッチリと洗わなきゃやべぇかもな」
「!!? 出してないよ! ちょっと、鎮めただけで・・・・・・・・ん?」
「沈めた? ?? なんの話だ?」
「・・・・・・・・なんの話だろう・・・・ね。は、はは」
難しい顔で訪ねるツカサに自分でドツボに嵌まりかけている光は再び曖昧な言葉で返した。
「?? いや、聞いてんのは俺だぜ?」
「そ、そんなことより、引越し祝いの料理だけど!?」
光は強引にいま一番ツカサが関心を向けそうな話題へと切り替えた。
「引越し祝いってことでソバにしてみようかと!?」
光の声は裏返っていてあからさまに怪しかったがツカサの関心は見事に引越し祝いの料理へと移っていた。
「ソバかぁ。いいな俺、結構好きだよソバ」
薄く笑いを浮かべている。かなり嬉しい時のツカサの反応だ。 まだ出会って日の浅い光にはこの反応はまだ解らないが、とりあえず他称なりとも喜んでいるのを理解してホッとする。
「で、どんなソバを食わしてくれるんだ? 「ざる」か? 「温」か? いやまて、中華そばかもしんねえぞ? 「焼き」のほうか?」
なんだか楽しそうに予想をしている。
「うん、どっちかと言えば
「焼き」かな? 「瓦ソバ」にしようかと」
「ん? カワラソバ?」
ツカサは首を傾げた。
「なんだそれ? 「河原」でバーベキューみたいにソバを食うんか?」
どうやら、
「瓦ソバ」という物を知らないようだ。想像しているものもかなり違っているようで、光は想像したら少し笑えてきたので頭を振って想像を掻き消してからツカサに瓦ソバについて説明した。
「いや、
「河原」じゃなくて、
「瓦」屋根の上に付いてるあの
「瓦」だよ」
「へー、あの
「瓦」ね。ん? 瓦の上でソバ焼くんか?」
「うん、そうそう。お店とかだと
「瓦」の上に乗ってくるよ」
「・・・・・・・・うめぇのか。それ」
「うん、結構いけると思うよ。さすがに瓦までは用意してないけどフライパンでも十分美味しいし」
「いったいどんなだそれ?」
「えっと、茶ソバってあるじゃない。あれを牛肉とかと混ぜて、炒めて、金糸玉子と刻み海苔やネギを降って、レモンを垂らして、汁と絡めて食べるんだ」
「・・・なる。話だけを聞くと美味そうだな」
ツカサはあぐらを掻いて薄く笑った。
どうやら喜んでくれている。期待してくれているようで光も嬉しい・・・・・・・・のだが
「あの、できればあぐらはやめて欲しいかな・・・・」
やはり足が露出した女子のあぐらは目のやり場に困るようで光は天井を見上げながらツカサに言った。
「ああ、こっちのほうが楽だからな。光はこういうのは気になるほうか?」
ツカサはすぐにあぐらをやめて綺麗な正座でテーブルの前に座ってからそのような事を聞いてきた。
「いあいあ・・・・普段は気にしないんだけど・・・・」
「ん? どした?」
「な、何でもないよ」
またいらぬ邪念が生まれぬように、光は調理に集中することにした。
「これが、
「瓦ソバ」か」
「ちょっと焦げ目がつきすぎちゃったけど、どうかな?」
「いや、焦げとかは俺は気にしねえよ?」
そういってツカサは出来上がったばかりの瓦ソバに箸をつけた。
「むしろこういう焦げが食欲を刺激するんだよ」
そして、ツカサは瓦ソバを食した。
「・・・・意外と、モサモサするんだな・・・・思ったより味が薄い」
少し微妙な顔になった。
「あ、えっと、汁に浸けて食べるんだよ。ほら、こうやって」
ソバを汁に浸して光は実演してみせた。
「ん? ああ、そういやそんなこと言ってたな。要はざるそばと同じだなっ、と」
ツカサも見よう見まねでソバを汁に浸ける。玉になっていたソバが汁に浸けることにより真っ直ぐとなる。
「ふむ」
食してみた。
「おお、さっきと全然違うな。すげえ食いやすい。俺、結構好きかもしれん」
なにやら軽く感動をしているようだ。
「ハハ、好みで薬味を入れてみるとまた違うよ」
といって光はおもむろに持ってきた容器のフタを開ける。
そこには、生姜やらワサビ等が
「お、至れり尽くせりてやつだな」
早速、ツカサは生姜とワサビを小量汁に落とし込んで瓦ソバを食し、楽しんだ。
「なあ、光」
食事を終え、洗い物をしている光にツカサはテーブルを拭きながら声を掛けた。
「ん? なに」
洗い物をしながら光は顔だけをツカサに向けて応えた。
「俺に、聞きたいことがあるだろ?」
と、ツカサは言った。
光がツカサに聞きたいこと
「え、えと・・・・・・・・」
それはつまり
「・・・・・・・・うん」
ツカサが先日少しだけ話してくれた。
「カゲ」
「カゲカタナ」
についての事だ。
「それが終わったらちょっと外に出ようぜ」
「え?」
「ちと日の当たる所で話したいんだよ」
「う、うん。わかった」
「悪い、そこでちゃんと話しておく。お前の側にしばらくいる理由も含めてな」
ツカサはハンガーに掛けてあった薄手の黒いパーカーを着て準備を整えた。
(・・・・とりあえずはな)
「ここらへんでいいか」
光を外に連れ出したツカサはある程度まで歩くと近所の河川敷で歩を止めた。
「えと、ツカサさん。ここで話すの?」
光は横をチラリと見る。そこはホームレスが寝泊まりしていそうな橋の下。暗い空間を一日作り出している場所。
ゾクリとした感覚を光は思い出し、一瞬身を竦める。
「安心しろ、あんなところには連れていかねえ。なんならもうちょっと離れるか?」
「う、うん」
ツカサの言葉に少し安心しつつも、やはり目はあの暗い空間に囚われる。
「ほら、こっちこい」
「え、あ」
ツカサに手を引かれ、光の視線は暗い空間から彼女の揺れるポニーテールへと向けられ、そして意識は
(ああ、思ったよりも)
華奢でヒンヤリとした彼女の手へと向けられた。
「どうだ。こんだけ離れりゃ大丈夫か?」
「え、う、うん。ありがとう」
「そうか」
繋がれていたヒンヤリとした手の感触が放れていく。
光はそれを名残惜しく感じて、もう片方の手で握り返した。
(・・・・まだ、ヒンヤリしてる)
やがて自分の体温で消えていくその冷たさを光は噛みしめた。
「・・・・光」
「え、ぁ、なに?」
不意に掛けられたツカサの声に光は今の自分の行為が気恥ずかしくなり、両手を後ろに隠した。
だが、そんな光の行為をツカサは気にする事もなく。
光にこう告げた。
「なんで俺がまたお前の前に現れたか解るか?」
光はツカサの言葉に、一瞬迷ってから答えた。
「ええと、前に言ってた通りだと、ツカサさんのお父さんの命令?」
言葉にしながら、光は今更ながら変な話だと思った。
(なんで、ツカサさんのお父さんは、会ったこともない僕を)
自分の娘に護らせるのだろう?
護らせる。なぜか光はそう思った。ツカサはそんなことは一言も言ってはいない。
もうしばらく側にいることになった。
と、言っただけなのに。
そんな光の心の中の動揺を悟られる事もなく。
ツカサは言葉を続けた。
「他人ずてだが、どうやらお前は狙われやすいそうだ」
「え・・・・狙われるって・・・・・・・・それって」
「カゲ」に?
再びゾクリとした寒気が、光の全身を包んだ。
あの恐ろしい体験を思い出す。
あの恐怖をまた、アジアワナケレバ、いけないのかと。
「おい、大丈夫か?」
顔色が変わったのが見て解ったのだろう。肩に手を置いてツカサは光を自分のほうに向けさせた。
ヒンヤリとした手の感触と目の前にある大きめな黒糖飴のような黒目を見つめていると光の中に妙な安心感が生まれる。
「ごめん、大丈夫、だから」
そう言って自分の中の安心感を徐々に膨らませて光は自分の意識をはっきりと持つことができた。
「そうか。だが、無理はすんな? あんな思いをまたしなきゃいけない可能性があるだけで、本当は気絶してもおかしくはないんだからな」
そう言うとツカサは
「え、ぁ、あぁ」
光を抱擁した。
首筋の華奢な手の感触が、顔に当たる細首の感触が、その冷たさが、その暖かさが
「・・・・・・・・うぅ」
光を動揺させ
「だけど、大丈夫だ」
「??」
「俺が側にいる間は護ってやる」
そして
「俺がお前をヤツらから護ってやる」
光を安心させてくれる
「約束だ」
「影見 ツカサ」という少女がどんな少女なのか解らせてくれる。
「俺を、頼れ」
そして、光は
「・・・・・・・・うん」
彼女がどんな存在でも構わないと思った。 これ以上、何も聞かなくていいと、十分だと。
側に居てくれるといってくれただけで、それだけで構わないと。
「ツカサさんを、頼るよ」
文章や人物描写がめちゃくちゃになってしまってすいません。
もっとちゃんとしたものが書けるよう頑張ります。